第14話 『星崩の大魔宮』④ 紅蓮 VS 毒蛇
『星崩の大魔宮』最初のボスフロア。
重厚な扉をくぐると、その先には果ての見えない巨大空間が広がっていた。
天井には満天の星々が輝き、まるで夜空そのものが閉じ込められているかのようだ。
足元には黒い石畳がどこまでも続き、その中央に――一人の男が立っていた。
緑色の長髪。
細身の体を覆うのは、蛇の鱗を思わせる鎧。
頬や首筋にまで鱗が浮かび、縦に裂けた瞳がこちらをゆっくりと見据える。
まるで人の姿を借りた大蛇だった。
「……ようやく来たか」
退屈そうに肩を鳴らす。
「待ちくたびれたぜ」
「あれが……ボス?」
思わず声が漏れる。
「想像していたより小柄ですね」
アイリーンさんが首を傾げる。
「少々迫力不足ですわね」
セイラさんも冷静に評価した。
「はい、お嬢様」
「……あぁ?」
男の眉がぴくりと動く。
「喧嘩売ってんのか、テメェら」
低く唸る声だけで、空気が震えた。
俺は端末の鑑定機能を起動する。
表示された文字は、たった一行。
『セプテントリオン・ドゥーベ』
それだけだった。
「セプテントリオン……?」
「ほう」
ドゥーベが口角を吊り上げる。
「俺の名前が見えるのか」
槍を肩に担ぎ、不敵に笑う。
「覚えとけ。俺はドゥーベ」
「偉大なる『七星』が一人だ」
その瞬間だった。
凄まじい勢いで爆発にも似た魔力が噴き上がる。
紫色の瘴気が渦を巻き、ボスフロア全体を覆い尽くした。
肌が痺れ、息が詰まる。
「ギャハハハ!」
「腰抜けたか!」
「安心しろ! どうせ全員ここで死ぬんだからなぁ!」
紫色の槍を構える。
その刃は禍々しい毒気を放っていた。
「……なるほど」
清十郎さんが静かに目を細める。
「あの槍をご存じですの?」
「ええ。あれは『毒蛇槍・バジリスク』」
「斬られた者を猛毒で侵すSランク神器です」
「神器……」
思わず息を呑む。
〈Sランク武器!?〉
〈ボスが神器持ってるのかよ!〉
〈しかも喋るじゃん!〉
〈七星って言ったよな?〉
〈七体いるってこと!?〉
コメント欄にも動揺が走る。
七星――その名の通りなら、目の前の怪物は七人いるうちの一人。
つまり、同格があと六人いる可能性が高いということだ。
そう考えると、背筋が冷えた。
「さあ、誰が相手だ?」
ドゥーベが頭上で槍を回転させる。
「まとめて来ても構わねぇぞ!」
「あら、それじゃあここはわたくしが……」
セイラさんが一歩踏み出そうとする。
しかし――
「いいえ、ここは私が行きます」
アイリーンさんが先んじて前へ出た。
「構いませんことよ」
「ありがとうございます」
静かに杖を構える。
その笑顔は、いつもと何も変わらない。
「テメェが相手か! 拍子抜けだぜ!」
「あなた程度なら……私一人で十分です」
アイリーンさんは微笑んだまま答える。
その一言で、ドゥーベの顔が歪んだ。
「笑ってんじゃねぇぇぇぇ!!」
槍の切っ先から毒の魔力が噴き上がる。
紫色の瘴気は槍へ吸い込まれ、そのたびにドゥーベの魔力が膨れ上がっていく。
「魔力が……増えてる?」
「ええ」
セイラさんが頷く。
「あの神器は毒気を吸収して持ち主を強化する能力を持っているようですわ」
「だから魔力が膨れ上がってるんですね」
ドゥーベって奴が、毒の瘴気を放ち、それをあの槍が吸収して自らを強化する……
まさに自給自足じゃないか。
「なるほど……面白いですね」
アイリーンさんは笑みを深くする。
「少しは楽しめそうです」
「まだ笑うかぁぁぁ!」
ドゥーベが地面を砕きながら突進する。
俺はドローンを操作し、二人を画角へ収める。
紫色の槍が頭上からアイリーンさんへ向けて振り下ろされる。
「プロミネンスウォール!」
真紅の障壁が出現。
轟音とともに槍が弾き返される。
「なっ……!」
体勢を崩したドゥーベへ。
「ボルガニックレイザー!」
灼熱の光線が一直線にドゥーベの体を貫いた。
「ぐぁぁぁぁぁぁ!!」
完全に決まった。
誰もがそう思った。
だが――ドゥーベの肉体が波打ち、皮膚が裂けると、その中から、無傷の身体が飛び出した。
「チッ!」
「こんなところで切り札を使う羽目になるとはな!」
〈脱皮!?〉
〈完全に蛇じゃん!〉
〈アイリーンさんの魔法をノーダメ!?〉
「なるほど」
アイリーンさんは驚きもせず杖を構え直す。
「でも――次で終わりですね」
「終わるかよぉ!」
再び毒の魔力が噴き上がる。
その時だった。
「そこまでだ」
低く響く声。
ドゥーベの背後に、六つの影が現れる。
巨大な竜、老人、少女、騎士のような女性、忍者のような姿の怪人。
そして、赤髪の巨漢。
誰一人として、人間とは思えない。
「ドゥーベ」
赤髪の男が静かに告げる。
「下がれ」
「アルカイド……」
ドゥーベが悔しげに舌打ちする。
赤髪の男は俺たちを見据え、静かに口を開いた。
「我らは、一人たりとも欠けるわけにはいかん」
七つの異形が横一列に並ぶ。
その圧倒的な威圧感に、空間そのものが震えた。
「――我ら、『七星衆』」
ついに、グランドダンジョン最強の守護者たちが、その姿を現した。
少しでも面白いと思って頂けましたら、評価をお願いします。下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります。
ブックマークも頂けると非常に喜びますので、是非宜しくお願い致します。
良ければ、感想もお待ちしております。
評価や、ブックマーク、いいね等、執筆する上で非常に大きなモチベーションとなっております。
いつもありがとうございます。




