第13話 『星崩の大魔宮』③ 七星
グランドダンジョン『星崩の大魔宮』へ突入してから、およそ一時間。
轟清十郎のスキル『極限感知』によって、複雑怪奇な迷宮を一切迷うことなく最短ルートで進み続ける四人。
行く手を阻むモンスターは、そのどれもが他のダンジョンならボスクラスと呼ばれる怪物ばかりだった。
だが、『蒼氷の聖女』の絶対零度の魔法が凍てつかせ、『龍殺の守護者』の剣閃が切り裂き、『紅蓮の魔女』の爆炎が跡形もなく焼き尽くす。
戦闘は始まったと思った瞬間には終わっていた。
そして、その一部始終を逃さず世界へ届け続けるのが、『神速の配信者』こと草薙ハヤト。
『神速』のスキルを駆使し、常に最適な位置から戦場を撮影し続けるその姿は、もはや一流の配信者そのものだった。
◆◆◆◆
その様子を、遥か彼方から見下ろす者たちがいた。
清十郎の『極限感知』ですら届かない距離。
光の回廊の最奥で、七つの影が静かに四人を見つめている。
「ほう……ようやく侵入者が現れたか」
低く響く声。
「しかも、ずいぶんと面白い顔ぶれね。三人は間違いなく怪物……でも、残りの一人だけは読めないわ」
銀髪の少女が興味深そうに目を細める。
「ふん、人間など所詮は人間じゃ。我らの敵ではない」
老人の姿をした異形が鼻で笑う。
「ギャハハハ! あんな連中、俺一人で十分だ!」
豪快に笑う大男。
「ドゥーベさん、そういう油断で負けるのだけは勘弁してくださいね」
「おいメグレズ、誰に口利いてんだコラァ!」
二人の間に険悪な空気が流れる。
「……そこまでだ」
静かな一言だけで、その場が凍り付いた。
赤髪を逆立てた巨躯の男。
七人の中心に立つその男は、腕を組んだまま四人を見据えている。
「アルカイド……」
ドゥーベが舌打ちしながら口を閉ざした。
「最初のボスフロアまで、もう間もなくだ」
「ええ。不思議なくらい一直線に進んできています。あの剣士の感知能力でしょうね」
「厄介な能力じゃ」
「ドゥーベ。最初はお前の番だ」
「ああ! 全員まとめてぶっ殺してやるよ!」
高笑いを響かせながら、ドゥーベは闇の中へ姿を消す。
残されたアルカイドは静かに目を閉じた。
「……我らは使命を果たすのみ」
そして低く呟く。
「――『七星衆』の名に懸けて」
◆◆◆◆
「到着しました。ここが最初のセーブポイントです」
清十郎さんの案内で辿り着いた場所には、巨大な扉がそびえ立っていた。
その手前には青白く輝く魔法陣。
間違いなくボスフロア直前のセーブポイントだ。
〈もうここまで来たのか!〉
〈無傷じゃん……〉
〈いや、あの三人だからだろ〉
〈普通なら十回は全滅してるぞ〉
コメント欄も驚きに包まれていた。
「あら?」
アイリーンさんが首を傾げる。
「宝箱がありませんね」
言われて初めて気付いた。
普通ならボス前のセーブポイントにはレア宝箱が置かれている。
俺が『神速』を手に入れた時もそうだった。
だが、この場所には何もない。
「それだけではありませんわ」
セイラさんが巨大な扉を見つめながら呟く。
「このダンジョン……簡単すぎませんこと?」
その言葉に場の空気が少し変わる。
「世界最高峰と呼ばれるグランドダンジョンですのよ? それなのに、強敵も難解な仕掛けもない。これでは拍子抜けですわ」
「確かに……」
アイリーンさんも静かに頷く。
「ここまで順調すぎますね」
俺も同じことを感じていた。
出現したモンスターは十分すぎるほど強かったが、この三人は危なげなく倒し続けてきた。
あまりにも順調すぎる。
まるで、誰かにここまで誘導されているような。
〈俺もそれ思った〉
〈なんか嫌な予感するな〉
〈ボス戦からが本番なんじゃないか?〉
〈絶対何かあるだろこれ〉
コメント欄も同じ違和感を覚え始めていた。
「……考えていても仕方ありませんね」
アイリーンさんが扉へ歩み寄る。
「進みましょう」
「はい」
俺も頷き、カメラを構え直す。
「皆さん、それでは『星崩の大魔宮』最初のボス戦に挑みます」
〈きたぁぁぁ!〉
〈頼むぞ!〉
〈神配信期待してる!〉
〈全員無事に帰ってきてくれ!〉
四人でセーブを済ませる。
そして巨大な扉へ手を触れた。
重厚な音を響かせながら、扉がゆっくりと開いていく。
暗闇の向こうから流れ出す、底知れない威圧感。
これまでとは明らかに違う。
俺は思わず息を呑み、配信用ドローンを前へ飛ばした。
――グランドダンジョン最初のボス戦が、幕を開けようとしていた。
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