第12話 『星崩の大魔宮』② 地龍の魔眼
とうとう、グランドダンジョン『星崩の大魔宮』へ足を踏み入れた。
扉をくぐった瞬間、目の前に広がった光景に思わず息を呑む。
そこは、まるで宇宙そのものだった。
漆黒の空間には色鮮やかな星々が無数に瞬き、その中を幾筋もの光の回廊が縦横無尽に伸びている。
回廊は幾重にも枝分かれし、複雑に交差しながら果てしない迷宮を形作っていた。
ここを進んでいくのか……。
ダンジョンというより、一つの異世界だった。
「綺麗ですわね」
セイラさんが感嘆の声を漏らす。
「清十郎もそう思いません?」
「ええ、お嬢様」
二人とも、まるで観光地にでも来たかのような余裕だ。
一方の俺はというと――。
「……」
足が震えていた。
これまでとは次元が違う。
世界最難関のダンジョン、そんな場所に、自分が立っている。
緊張しない方がおかしい。
……でも、俺には俺の役目がある。
『神式配信セット』を取り出し、素早く準備を始める。
ドローンを展開し、ヘッドセットを装着、配信用カメラの位置を確認し、最後に全員へ視線を向けた。
「皆さん、配信を始めても大丈夫ですか?」
「はい」
アイリーンさんが頷く。
「こちらも問題ありませんわ」
「ええ、大丈夫です」
二人からも了承を得る。
俺は深呼吸を一つして配信ボタンを押した。
タイトルは――【グランドダンジョン攻略!『星崩の大魔宮』突入!!!】
配信を開始したその瞬間、同時接続数が一気に跳ね上がった。
十万。
二十万。
三十万。
数字は止まることなく増え続けていく。
「うわ……」
開始数秒で、すでに過去最高を更新していた。
これが世界初のグランドダンジョン配信、注目度が桁違いなのは分かっていた。
それでも、この勢いは想像以上だった。
最終的に何人まで増えるんだ……?
そんな不安を胸の奥へ押し込み、カメラへ向かって口を開く。
「皆さん、こんにちは。『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』がお送りする生配信です。本日はグランドダンジョン『星崩の大魔宮』へ挑戦します」
コメント欄が一瞬で流れ始める。
〈待ってました!!〉
〈朝から待機してたぞ!〉
〈何この景色!?綺麗すぎる!〉
〈ダンジョンってこんな場所だったのか〉
〈映画みたいだ……〉
画面越しでも、この幻想的な景色は十分伝わっているようだ。
「今回は俺たちだけじゃありません」
カメラを横へ向ける。
「『蒼氷の聖女』セイラさんと、『龍殺の守護者』清十郎さんにも同行していただいています」
〈うおおおお!!〉
〈本当に来た!!〉
〈セイラさん美人すぎる!!〉
〈清十郎さんかっけぇ!!〉
〈豪華すぎるだろこのメンバー!〉
セイラさんはカメラへ微笑みかけた。
「皆さま、応援ありがとうございます」
軽く会釈する。
「最後まで精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします」
コメント欄がさらに爆発した。
〈聖女だぁぁぁ!!〉
〈これは人気出るわ〉
〈可愛すぎる!!〉
〈俺はアイリーンさん派だけどな!〉
「それでは」
アイリーンさんが前へ歩き出す。
「行きましょうか」
「はい」
俺たちは光の回廊を歩き始めた。
迷宮は上下左右に複雑に入り組み、一目見ただけでは方向感覚すら失いそうになる。
すると清十郎さんが静かに目を閉じた。
「……」
数秒後。
ゆっくりと瞼を開く。
「進むべき道が分かりました」
そう言って一本の回廊を指差した。
「あの……今のは?」
「Sランク神器『地龍の魔眼』ですわ」
セイラさんが答える。
「そこから得たスキル『極限感知』。迷宮の最短経路を見抜くことができますの」
「そんな能力が……!」
「ですから迷子になる心配はありません」
コメント欄も騒然となる。
〈反則じゃね?〉
〈迷宮ギミック終了のお知らせ〉
〈神器ってそんな性能なのか〉
〈Sランク冒険者ヤバすぎる〉
俺たちは清十郎さんの案内で進み始めた。
その時だった。
前方の回廊から羽音が響く。
槍を携えた翼のある魔族が、十体ほどこちらへ飛来してくる。
「『ナイトメア・マスター』ですね」
清十郎さんが静かに呟く。
〈え!? 『悪夢の古城』のボス!?〉
〈Aランクダンジョンの!?〉
〈それが十体!?〉
〈いきなり!?〉
これがグランドダンジョンか。
ボスが雑魚扱いなんて冗談だろ……。
「ここは、わたくしが」
セイラさんが一歩前へ出る。
白と青の杖をゆっくり掲げると、凛とした声が迷宮へ響いた。
「ヘル・スノーストーム」
一瞬で世界が白く染まった。
轟音とともに吹雪が渦を巻き、視界が完全に閉ざされる。
凍てつく冷気が肌を刺し、俺は慌てて『神速』を発動して後方へ退避した。
「くっ……!」
数秒後、吹雪が静まるとそこには、敵の姿は一体も残っていなかった。
凍り付いた『ナイトメア・マスター』たちは回廊から奈落へ落下し、ある者は壁へ激突して粉々に砕け散る。
たった一撃で全滅、その事実にコメント欄も騒然となる。
〈うおおおお!!〉
〈一撃!?〉
〈Aランクボス十体が瞬殺!?〉
〈これが『蒼氷の聖女』か……〉
〈やっぱりSランクは別格だ〉
セイラさんは何事もなかったかのように杖を下ろした。
「それでは、先へ参りましょう」
……すごい。
アイリーンさんとは違う。
派手さではなく、美しく圧倒する強さ。
これがもう一人のSランク冒険者、『蒼氷の聖女』青羅・バーンシュタイン。
頼もしさを覚える一方で、俺は改めて心に誓う。
この人たちの戦いに巻き込まれないよう、細心の注意を払わなければならない、と。
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