戦闘準備
改めて、自己紹介。
「皆さん初めまして! ボクは稲影緑羽、稲影珀露はボクのお兄ちゃんです!」
そしてぴしっと敬礼、続いて珀露が捕捉した。
「僕と緑羽は、双子の兄弟なんです」
じゃあ横矢とも同い年なのか。しかし……ぱっと見たら男だと分からなかったな、両性的というやつか、そう考えて見れば双子である珀露も両性的に見えなくはなかった。
「そっちは3人だけなの?」
「いえ、まだ集合の時間になってないだけです。その前に皆さんに説明を…」
「じゃあアタシが説明するわ、緋鳴は道具を用意しといて」
「分かりました」
横矢と稲影兄弟が社へ向かい、月乃は皆を見て説明を開始。
簡単に言ってしまえば、頭の上につけた紙風船を棒などを使って叩き割る遊び、それ以外の細かいルールはこの後横矢から発表するらしい。田舎故に広い自然以外に何も無くて考えた遊びで、昔から稲影達の世代まで受け継がれているのだとか。
「お待たせしました」
説明が終わった所に珀露が段ボールを抱えて持ってきた。地面に置かれたその中を見るとスポーツチャンバラ等で使われる叩かれてもあまり痛くない道具が入っている。
「道具はこの中からどうぞ、僕達は先に取らせてもらいました」
「アタシはやっぱり…」
「月乃先輩、どうぞ」
横矢が持っていた一本を月乃に渡した。箱に入っているのとほとんど同じだが、柄のところに三日月のようなマークがついている。
「ありがとう緋鳴、やっぱアタシはコレに限るわ」
昔月乃が使っていた物なのだろう、受け取った剣をぶんぶんと振り回した。
「皆さんもどうぞ」
「は〜い」
珀露に言われて押川がしゃがみ込んで箱を漁った。よく見てみると長さや細さが微妙に異なっているな。
それから少し時間をかけて全員が剣を選んだ。
押川はスタンダードなタイプ、
早山は30センチ程の短めなタイプ、
大和先生は刃が片側に斜めに揃えられている刀のような形のタイプで、
俺は刃が長く、柄を両手で持てる竹刀のようなタイプ……なんだか一部どこかで見覚えがあるのは何故だろう?
そして三夜子は、
「……」
細身だが刃の長い物を一本持っていた、
「あ、アレって」
それを見た月乃が何かに気付いたように呟く。
「どうかしたのか?」
「三夜子の持ってるのさ、えっと……どこから話せば良いかしら」
「もしかして、三夜子にそっくりな人が使ってたやつか?」
「そうそれよ……あれ? アタシ創矢に沙織里の事話したかしら?」
聞いたことはあるが、月乃が三夜子に語っていたのを隠れて聞いていたことがある。
「まぁいいわ、とにかく、三夜子が持ってるの沙織里がよく使ってた物なのよ」
「ふーん……何か、似た雰囲気でも感じたのかもな」
「だとしたらスゴいわよ、あの数の中から選んだんだから」
無表情で、傘を持つという、三夜子にそっくりな人物もここで同じように遊んでいて、三夜子が持つ剣を使っていた。やはり繋がる何かがあるのかもしれないな。
「沙織里の再来みたいね」
「そうですね、黒ノ川先輩みたいです」
「始めて会った時に雰囲気がありましだが、ここまで似ているとは」
「黒ノ川先輩にそっくり〜」
横矢、珀露、緑羽も同じ感想を持っていた。
「……」
それを聞いていたのか聞いていないのかは分からないが、三夜子は、
「……あの」
「はい、何ですか?」
「……もう一つはあり?」
「もう一つ……二本ということですか? 別に問題はありませんよ」
「ん……ありがとう」
箱に手を入れて、もう一つ似た感じの剣を手に持った。
二刀流な辺りは、やっぱり三夜子だったな。
それから十数分して横矢が呼んだ他のメンバーが集まった。集められる時に聞かされてなかったのか彼らはここに来て月乃を見た途端揃って驚き、少しの間再開を分かち合った。
こうして集まったのが稲影兄弟含め男子7人。横矢含め女子5人。こちらの倍12人の中学生。
「では改めて、ルールを説明します」
全員の前に立った横矢が視線を集めた。手には紙風船がついたカチューシャを持っている。
「今回は月乃先輩が所属するパズル部と、あたし達12人の対決です。この社から周囲数メートル山を降りない限りの範囲内をフィールドとします。勝利方法は、こちらは皆さんの紙風船を割る事。そちらはこちらの全滅か、社前に置きます旗に置いた紙風船を割る事の二種類となります。紙風船を守る場合、剣で受け止めるか避けるのみで、腕で防いだり攻撃することは反則失格となります」
「いいのか? こっちの勝ち方が多くて」
「人数もこちらが倍、それに経験と地の理もこちらにありますので。ちょうど良いかと考えました」
「なるほど、それはサンキューな」
「開始は今から十五分後。その間に皆さんは作戦を立てて下さい」
この場から始めることは出来ないので、とパズル部は月乃の誘導で社から少し離れた森の中へ来ていた。
開始まで、残り約五分。
「作戦を立てろとは言われたが、どうする?」
大和先生を中心にパズル部で円を組む。大和先生が訊ねたのはこの中で唯一経験のある月乃。
「ヘタに二手に別れたりしたらマズイですね、緋鳴の言った通り地の理が向こうは全員、こっちはアタシしかありませんから」
もし二手に別れたとして、月乃のいない方は道に迷う可能性が高い。
「なら、最初全員で固まって動いて地理を覚えて、その後に別れて行動する。それでいいな」
「旗は、どうしますか?」
社の前に置かれたという旗、ソレを取ってもパズル部の勝ちになる。その場合は相手12人全てに勝たなくても良いという事だが。
「多分、どちらにしろ狙う事になるわね」
月乃が語った。
「こういうのルールを旗守り戦って言うんだけど、旗の周りには数人の見張りがいるものだから全員に勝つにしろ旗に近づくのは確定ね。数人で攻めて隙をついて旗を取る、というのが基本よ」
確かに取られてはいけない旗に守りがいない訳は無い。ならどちらにしろ旗へは近づかなければいけないか。
「多分緋鳴は旗守りね、実質この戦いで一、二番に強敵だから」
この戦いを組んだのも横矢だ、今の中学生のリーダーのような立ち位置だろう。
「一、二番って事は、もう一人強い子がいるの?」
押川が首を傾けて月乃に聞く。
「稲影兄弟……特に、珀露ね」
「ハクロウくんが?」
押川、珀露だ。しかし、あの珀露は強敵には見えなかったが。
「珀露はね、ごく稀に恐ろしく強くなるわ。アタシも負けた事あるもの」
あの珀露が月乃に勝ったのか?
「予想外の攻撃って言えばいいのかしら、まるで人が変わったように攻撃してくる事がたまにあるの。珀露とやる時は注意してね」
戦いで急変するタイプなのだろうか?
「緑羽ってのは?」
「あの性格で機敏だから三番目くらいかしら。でも一対一ならアタシが絶対勝てるわ」
要注意はやはりあの3人のようだ。
「……?」
その時、今まで黙って聞いていた三夜子が急に歩き出した。
「どうした?」
気付いた俺が声をかけるが返事をせず、森の中を数歩進んで立ち止まった。
「……」
前には草むらが茂っているだけで、三夜子はその草むらをただ見つめている。
「三夜子? どうした?」
「……何でもない」
再度訊ねると三夜子は振り向いてこちらに戻ってくる。
その時、
「隙あり!」
草むらの中から一人の男子が立ち上がった、手に持った棒を振り上げて後は振り下ろすだけの状態。
しまった、もう開始時間を過ぎていたんだ。
「もらった……!」
パァン!
派手な音が山中に響いた。
それは、紙風船が割られた音……
「あ……あれ?」
ただし、三夜子のではなく、飛び出した男子の物が。
「……」
三夜子を除く、その場を見た全員が驚かされた。
何があったかと言えば、飛びかかった男子にいち早く気付いた三夜子は降り下ろされる棒を回転しながら避けつつ、右手の剣で男子の頭上にある紙風船を横に一線した。
なんつう反射神経してるんだ……いや、今までの剣の舞で分かってはいたけど。
ともかく、月乃の後輩達との勝負が開始された。




