合宿二日目開始と
一夜明け、パズル部合宿の二日目となった。
今日の予定は、昨日出会った月乃の後輩、横矢達と勝負をするというもの。字面にすれば物騒だな。
「おはようございます」
横矢が一人、午前十時に宿へ訪れた。
「皆、準備いいか?」
大和先生が並んだパズル部部員を見る
「よし、行こうぜ」
「では、こちらです」
横矢の後に続き歩いてく
そこでふと、三夜子に目が行った。いや、正確には、
「三夜子、さすがに今日は置いていけ」
三夜子が持ったままだった傘にだ。
「……」
三夜子はふるふると首を振った。
「多分邪魔になるぞ?」
「……大丈夫、どうにかする」
どうにかって……
「誰も取ったりしないから置いてけって」
「……」
ふるふる。
「こんな所に剣狩りは絶対来ないって、な?」
「……」
ふるふる。
頑固というかなんというか、傘への思い入れは知っているのでこの抵抗もまぁ予想済みではあったが、これからすることによっては邪魔になりえる。
などと言っている間に内に全員が遠くなっていく、置いて行かれたらマズイ。何かアイデアは……
「あー……じゃあこうしよう、俺も置いてくから」
俺はポケットからパズル錠のついた剣を取り出した。
「コレでどうだ?」
条件はほぼ同じだ。まぁ持っていた長さとか思いの強さは違うかもしれないけど、三夜子の剣は俺や大和先生のように服のポケットに入れられない大きさだから常に持ち歩いているけど、こんな時くらい、持たなくても良いじゃないか。
「…………」
三夜子は俺が出した剣を見ながらいつも以上に考え、
「……分かった」
こくりと頷いた。
「よし、なら急ぐぞ」
「ん……」
宿にUターンして剣を各々の部屋に置き、皆の後を追った。
……side 珀露
「ふんふんふ〜ん」
鼻歌混じりに緑羽が準備を進めている。それだけ月乃先輩と会えるのが、一緒に遊べるのが嬉しいんだな。
こちらもこちらで準備をしていると、ふとポケットに入れてきた物に手が触れた。何となく持って来てしまったけど、使う時なんて無いだろうなと思っている。だって他に持っている人に会った事すら無いんだから。
……これのおかげで、すでに困っていた事が、更に困る出来事になってしまった。
これであの言葉が嘘だとしたら耐えられない。でも、まだ一人も見た事が無いんだよな……
「お兄ちゃーん。コレどれぐらい出しとくの?」
「!?」
慌てて振り返った。冷静を保ちながら緑羽が持って来た籠の中身を見る。
「え、えっと、月乃先輩はいつものアレだろうけど、他の人がどれを使うか分からないから有るだけ出してもいいんじゃないかな」
「おっけー、ところで」
「?」
「そのポケット何入ってるの?」
「えぇ!?」
ば、バレた!?
「ふつう何にも持って来ないのに、何か触ってたし」
「な、何も持ってないよ」
「ホントに〜?」
怪訝な目を向けられて、籠を置いた緑羽がじりじりと詰め寄ってくる。
「な、なにかな? 緑羽……」
「何も持ってないなら、別に良いよね〜?」
良いって、まさか……
「とわぁ!」
やっぱり! 緑羽が飛びかかってきた!
「うわ!?」
バランスを崩し、仰向けに倒れた僕の上に緑羽が乗っかり、
「取ったぁ!」
ポケットに手を入れられ、中身を取り出されてしまった。
それは、
「……筆?」
白い筆、だった。柄も筆先も真っ白の、未使用と言って通じるくらいに白い筆。
「何、コレ?」
「だから、何でも無いって言ったんだよ」
「ふーん……まいいや」
ほっ、良かった……あ。
「あのー……ところで緑羽?」
「うん? どうしたのお兄ちゃん?」
「とりあえずソレを返して、降りてくれない?」
その時だった、
「ちょっ、2人共何してんの!?」
「あ……」
長い石段を上って山の中腹辺り、そこに目的地の社があった。
「うわぁ〜、良い眺めだよみんな!」
下に広がるのは今まで上ってきた石段と、田畑と畦道。コンクリートのような人の手の加わっている部分がほとんど見当たらない自然の風景だ。
「ここも一年ぶりね」
月乃も懐かしさに浸っている。
「そういえば、家には帰らないのか?」
昨日は剣の気配を探る練習で一日使ってしまったが、折角来たのだから親に顔は見せても良いだろう。
「そうね、ひょっとしたら緋鳴が連絡してるかもしれないし、勝負が終わったら先生に言ってみようかしら」
その時だった、
「ちょっ、2人共何してんの!?」
先頭を歩いていた横矢の声が響いた。
何事かと見るとそこには神社等で見る社があり、その横で、稲影の上に別の誰かが馬乗りになっていた。
馬乗りになっているのはどことなく乗られている稲影に似ていて、ぱっと見の雰囲気が何故か押川に近いと感じた。稲影の妹だろうか?
「ちょっと、コレはどういう事よ珀露」
「いや……話すと長いんだけど……あはは」
「どうしたの緋鳴? なにがあって……あ、緑羽」
「あーーー!」
稲影に乗っていた人物が月乃の姿を見た瞬間、手に持っていた何かを放り投げて駆け寄ってきた。
「月乃先輩! お久しぶりです!」
そして、ぴしっと何故か敬礼をした。
「昨日電話で話したばかりじゃない」
「こうして会うことは久しぶりです!」
「緑羽は相変わらずね」
「はい!」
緑羽と呼ばれた少女は月乃の手を取るとぶんぶんと上下に振り回し再開を祝していた。なるほど、昨日の寝不足の原因を作ったのはこの後輩らしい。
そして、改めて思う。
「やっぱりな」
「やっぱりって、なによ?」
「いや、前々から思ってはいたんだがな」
横矢といい、緑羽といい、町田といい。
「月乃って、同性にモテそうだな、って」
リーダーシップというか、統率力というか、そういうのに引かれる女子というのがいるらしい。
「……私も思った」
「ボクも思った!」
三夜子と押川も同感らしい。
「それって、喜んでいいのかしら?」
「レアではあるな」
喜んでいいかは、判断出来ない。
「ふぅん……あぁそれと、勘違いしてるようだから言っておくけど」
月乃は今だ振り続けていた緑羽の手を離してその肩に手を置いて。
「緑羽は男よ」
……え?
それは、今日第二位の衝撃だった。




