月乃の後輩たち
パズル部の合宿先は、まさかの月乃の故郷であった。
「本当なのか?」
「間違いないわ。この空気と景色、そしてあの駅名、100パーセントよ」
確かに駅名はもはや動かぬ証拠だ。
「思い返せばあの電車に乗った時に気付けば良かったわ、アレ乗って高校受けに行ったりとか、しょっちゅう乗ってたもの」
あの時は寝ぼけてからな、車内では完全に寝ていたし。
「場所を秘密にしてたのが仇になったな。でも今さら変更も出来ないし、月乃、許してくれ」
まさかこんなことになるとは思っていなかった大和先生が、申し訳なさそうに頭を下げた。
「い、いえ、そんなことないですよ。むしろ早く帰れてラッキーだと思えば」
「そう言ってくれると助かるよ。よし、じゃあ早速宿に向かうぞ」
「あ、場所どこですか? ひょっとしたら知ってる所かも」
さすが月乃、プラス思考で考えたか。
「まずはバスだ、そこから直通が出てるらしい」
パズル部一向はバス停へと向かう、
「えっと……げ」
バス停の時間を確認して急に、渋い顔をした。
「どうしました?」
「次のバス……一時間後らしい」
「……え?」
次のバスが、一時間後?
「一時間一本で、さっきこの時間のが出たばかりらしいぞ」
さっきの誰も乗せてなかったアレか。どれだけ田舎なんだ、ここ。
「つまり……一時間ここで過ごす、と」
「そういうこと、だな」
それは……
「じゃあみゃーさんと一緒に向こう見てきていいですか!」
「おぅ、5分前には戻って来いよ」
「は〜い! 行こ、みゃーさん!」
「ん……」
……なんとかなりそうだな。
ここは自然で溢れた場所、景色を見ながら少し歩き回ってるだけですぐに一時間なんて経つだろう。
現に押川は三夜子を連れてすでに行ってしまった。荷物は置きっぱなし……あ、傘が無い。三夜子の奴持ってたのか。こんな時くらい置いてけばいいものを。
「アタシ達はどうする? さすがに一時間喋ってる訳にはいかないでしょ?」
「荷物なら俺が見ておくから、3人でどっか行ってきていいぞ」
「だってさ、どうする? この辺りならアタシ分かるわよ」
さすがは生まれ故郷か。とりあえず、先に言った押川達を追いかけるか、別の方向に行ってみるか話していると、
「ほらやっぱりそうよ!」
畦道の方から声が聞こえた。そちらを向くと、
「あ!」
こちらへ来る人を見て月乃が声を上げた。
「知り合いか?」
「後輩よ」
足早に一人、その後を追うようにもう一人こちらへ向かっている。
「月乃先輩!」
足早の方は女子、月乃と同じくらいの腰まで届く長い髪で、活発なイメージだ。
「お久しぶりです!」
こちらに来ると真っ先に月乃へ頭を下げた。すごい慕われ様だ。
「久しぶり、緋鳴」
緋鳴と呼ばれた女子は名を呼ばれると頭を上げた。
「どうしてこちらに? 確か部活の合宿が終わったら帰ると言ってましたけど」
「それがね、なんとここが合宿先なのよ」
「えぇ!?」
「つ、月乃先輩」
そこへ後から来たもう一人が追い付いた。もう一人は男子で黒髪のショートカット、息を切らしているところを見るにそこまで運動が得意ではなさそうだ。
「お久しぶりです」
「久しぶりね、珀露」
男子は珀露という名前らしい。
「緑羽は一緒じゃないの? この組み合わせなら居そうだけど」
「昨日の長電話で、まだ寝てると思います」
「あー、そういえばそれで驚いたんだったわ」
それから3人は少し話し、月乃が俺達に2人を紹介した。
「アタシの中学の後輩で、今、三年生よね?」
「はい、横矢緋鳴です」
「稲影珀露です」
2人は頭を下げて挨拶。次いで俺達も自己紹介し、ここへはパズル部の合宿で来たことを伝えた。
「パズル部、ですか?」
「そうなのよ。まぁ実際それで合宿? って一度は考えるけどね」
その時、
「みんな〜!」
押川が手を振りながら走ってきた。少し遅れて三夜子も付いてきている。
「すっごいよここ! 田んぼの端におたまじゃくしとか色々……お? 誰?」
近くに来て気付き、横矢達を見て首を傾げた。
「アタシの中学の時の後輩よ。そこで偶然会ったの」
「へぇ〜、そうなんだ。ボク押川李々子、よろしくね!」
「これはご丁寧に、あたしは横矢緋鳴といいます」
「稲影珀露です」
「緋鳴ちゃんと、ハクロウくんだね」
ん? 今何か違和感が……
「あ、あの、ハクロウではなく、ハクロ。です」
あぁそこか、稲影が申し訳なさそうに訂正する。
「分かってるよ〜、ハクロウくん」
分かってなかったな。
「ね、みゃーさん」
「ん……ハクロウ」
三夜子も間違っている。
「いえあの…………あぁ、はい……そうです」
あ、諦めた。
「珀露、毎回大変ね……」
どうやらコレが初めてじゃないらしい。それどころかもはや自分から諦めるほどにハクロウと呼ばれているのだろう。
結局バスが来るまでの約一時間、押川と三夜子は稲影をハクロウと呼び続けて変わることはなかった。




