合宿先は
……やっぱりというか、何というか、3人共かなり強かった。
電車が走り出してかれこれ数十分、現在の勝ち数は押川が一番、次いで大和先生、早山と続き、俺が一番少なかった。決して勝ちが無いわけではないが、押川や大和先生の半分も無い。
なんでこんなに強いんだ、3人共……
「……何してるの?」
ふと、三夜子の声が聞こえた。見ると隣から俺の手札を覗き込んでいる。
「起きたのか」
「ん……おはよう」
「三夜子、お前もポーカーやるか?」
大和先生が訊ねると、三夜子はこくりと頷いた。
「では、自分が抜けます」
すると早山が手札を置いて、席を立った。
「いいのか? 別に5人でも出来るぞ?」
「はい、少し休みます」
早山が抜けて窓側に大和先生、その隣に三夜子が座り、早山は荷物の方へ移った。
「じゃ、始めるぞ」
三夜子は早山が置いた手札でゲーム開始。
さてニューチャレンジャーの三夜子だが、言わずもがな最強のポーカーフェイス。手札を変えたぐらいでその表情がぴくりとでも動くとは思わない方がいい……だが、はっきり言ってしまえばそれだけだ。
押川がダブルスコアを達成していたあの時、三夜子は俺より順位が下、最下位だった。
大和先生曰く、
『昔っからこういうゲーム苦手だよな』
だとか、まぁ剣のパズル錠を壊そうとしていた訳だ。そういう頭を使うことが得意でじゃなかったんだろう。
ちなみにその時の三夜子は分かりやすくふてくされていて、
『……もう一回』
人差し指を立てて再戦を申し込んだのだ。三夜子って、かなりの負けず嫌いでもあるんだよな。
別に断わる理由の無い俺達は快くそれを受け、新たなゲームが開始された。
その結果は……ご想像にお任せしよう。ただ、ほとんど同じ結果だった、とだけ。
とりあえず、これで俺が最下位になる可能性は低くなったかもしれないな。
ピンポーン
「緋鳴ー、来たよー」
インターホンを押して、名前を呼ぶ。
「今行くわ」
返事から少しして、扉が開いて緋鳴が出てきた。
「お母さん、いってくるから」
緋鳴のお母さんに一声かけてから、インターホンの前へ。
「お待たせ」
「別に待ってないよ、ここに来るまでの方が時間かかったくらいさ」
「それもそうね」
僕と緋鳴は、家が近くという幼なじみ。
ただし、家との距離はかなりある。僕の家と緋鳴の家との間で、50メートル走が連続で五回ほど出来る直線があって、その間に他の家は無い、だからお隣さんだ。毎回、回覧板は大変なんだよな。
「やっぱり、緑羽は来なかったわね」
「一度起こそうかと考えたけどね……」
「え?」
「何でもない、行こうか」
「えぇ、そうね」
僕達は駅に向かって歩き出した。ちなみに緋鳴の家から駅までは50メートル走約十三回分だ。
「ところで、何で急に駅に行こうって言ったの?」
電話が来てから疑問に思っていた。遊びに行くならもっと山の中とかいつもの所があるのに、駅はとても珍しい。
「第一目的は外に出る事だけど、後は時刻表の確認かしら」
「時刻表? どうして?」
そう言うと、緋鳴はやれやれと肩を落とした。
「珀露ったらもう忘れたの? 終業式の日に思い出させたじゃない」
終業式…………あ!
「オープンキャンパス!」
「そうよ、開始時間に遅れないように電車に乗らないといけないからね。多分、一つ乗り過ごしたらアウトよ」
それは大変だ。せっかく行きたい高校のオープンキャンパスなんだから遅れたりしたら。
「それは重要だね」
「でしょ?」
さすがは緋鳴、用意周到だ。
「そういえば、緋鳴ってどうしてあの高校を選んだの?」
僕があの高校を選んだのにはそこ特有の、課題というものに興味があったからだ。緑羽は『お兄ちゃんと一緒がいい!』と言っていたけど、緋鳴はどうしてだろう?
「簡単よ、珀露達と一緒が良いからに決まってるじゃない」
「でも先輩が行った高校だって緋鳴なら狙えるじゃないか」
緋鳴は成績も良く、スポーツ特待生で選べる学校が僕達より沢山ある。それこそ先輩の後を追うことも出来るのに。
「それも一度は考えたわ。でも先輩を追っても、また二年先に卒業するのよ。だったら同学年の珀露や緑羽と一緒の方が良いに決まってるわ」
「なるほど」
「……それに、あまり珀露と離れたくないし……」
後半は聞き取れなかった。
「なんて?」
「な、何でもないわ。ほら早く行くわよ」
緋鳴は足早に先へ行ってしまった。
急にどうしたんだろう? 時刻表を調べるのに急ぐ必要は無いと思うけど……?
ま、まさか……
「……フルハウス」
「みゃーさんすご〜い!」
運良くスリーカードが揃った俺の前に、三夜子はその上、フルハウスを提示。これで三夜子は俺の勝利数の倍勝ったことになった。
何で、パズル錠が解けなくて壊そうとしたり、神経衰弱でボロ負けしたあの三夜子が、こんなにポーカーは強いんだ。
すると、大和先生が、
「相変わらず、ポーカーだけは三夜子に勝てねぇな」
などと呟いたので、思わず聞き返してしまった。
「どういう事ですか」
「三夜子の奴、神経衰弱もババ抜きも弱いけど、ポーカーだけめちゃくちゃ強いんだよ。かなりのポーカーフェイスだからかな」
いくら無表情だからって、それと強さは別だろう。
だが、三夜子が入ってから数分、勝ち続けた三夜子は俺の勝利数を抜いて、倍のスコアを叩き出した。
その時、車内アナウンスが流れた。
『まもなく、終点……』
終点を現す、俺達が降りる場所に付くことを示すものだった。
「お、着いたな。皆降りる準備しとけ」
こうしてゲームは終了、俺達は降車準備を始めた。
「誰か、月乃を起こしてくれ」
「は〜い」
月乃は始発から終点までずっと眠っていた。かなり寝不足だったんだな。
「お〜いつきの〜ん、ついたよ〜」
「んぅ…………あれ? 着いたの?」
「そうだよ、降りる準備しなくちゃ」
「わ、分かったわ……」
少しダルそうだな、座って寝てたら仕方ないか。
各自自分の荷物を持ち、パズル部一向は電車を降りる。
改札を抜けた先は、絵に書いたような田舎だった。
遠くには山。
近くには田んぼ、そして畦道。
加えて……
「……人が全然いない」
見える範囲に人はとても少なかった。ここが駅前ならもう少し人が溢れていても良いはずだが、先ほどの電車も、ここで降りたのは俺達だけで、乗り込んだ人もたった数人だった。
今、バス停から古めなデザインのバスが誰も乗せずに出発した。それほど人の姿が見当たらない。
……でも、
「すー……はー……うん、空気がうまいってのはこういうことだよな」
「それに心なしか、向こうより涼しい気がします」
「自然が多いね〜、みゃーさん」
「ん……向こうとは全然違う」
都会を離れて自然を堪能するには最適な、合宿らしいと言えば、ぴったりな場所だな。
「ふわぁ……」
月乃はまだあくびをしていた。
「月乃、お前も深呼吸して完璧に目覚ませよ」
「そうね……すー……」
月乃は大きく息を吸う。
「……………………ん?」
そこで、ピタリと止まった。
「どうした?」
「……この空気って……まさか!?」
月乃は目を見開いて左右を見回す、首の限界まで場所の景色を見て、振り返り今降りてきた駅の名前を見た瞬間、
「や、やっぱり……」
と呟いた。
「知ってる場所か?」
「知ってるもなにも!」
こちらに向き直った月乃はビシッ! と前にある田舎の風景を指差して。
「ここ、アタシの故郷じゃない!」




