発車
大和先生が言うには合宿の場所はここから電車で6駅、そこで乗り換えて後は終点まで乗り続けるらしい。
それ以上の情報公開は無く場所の名前は不明、ひょっとしたら知ってるかもしれない三夜子は、
「…………くぅ」
歩かしてないと寝てしまうぐらいで話なんて聞けない状態だった。眠気の度合いが月乃の以上だが、まさか一睡もしてないんじゃないよな?
「おーい三夜子、部長として出発前に何か一言とかないのか?」
「…………くぅ」
「ダメだこりゃ、押川、創矢、頼む」
「は〜い」
押川が三夜子の手を引き、俺が後ろから押し、改札に一苦労して駅の中へ入った。
電車に乗り込み、三夜子と月乃から優先して座らせて6駅分乗り、そこから先ほどの方法で乗り換えホームまで向かった。
「……ん? あれ?」
三夜子と違い自分で歩いてくれている月乃が、ホームを目指す途中で首を傾げた。
「どうした?」
「いや……なんか見覚えがあるような気がするのよ」
「この駅なんて何回も来てるだろ」
この辺りでは一番大きく、乗り換えの多い駅だ。他の電車に乗るならまずここへ来るので見慣れる筈だ。
「うーん……それはそうだろうけど……ふわぁ」
「まだ眠そうだな」
「当たり前よ、今ごろあっちは爆睡中よきっと」
「後は電車一本らしいから頑張れ、車内で終点まで寝てけばいいしな」
「そうさせて……いや、絶対そうなるわ……ふわぁ」
そんなこんなでホームに到着、辺りを見回して、妙に感じた。
通勤ラッシュの時間帯にも関わらず、向かっているホームは妙に人が少ない気がした。ここは始発の筈だから降りた人と乗る人でごった返していてもおかしくないのに。
まぁ、三夜子の移動が楽だから好都合だけど。
「それでですね〜……むにゃむにゃ……」
「緑羽、朝だよー……ってやっぱりか」
起こしに行くと、電話の子機を片手に布団にくるまって寝言を言っていた。
「そうなんですよ〜、お兄ちゃんが〜……」
僕が何なんだろう……凄い気になるけど、コレは起きそうにない。
「無理やり起こすのもかわいそうだし……仕方ない、緑羽は置いていくか」
今日ついさっき、緋鳴から電話があって駅に行こうという話になっていた。緑羽も誘うと話して来た訳だけど、『多分ムリよ、昨晩は電話して徹夜でしょうからね』という予想が当たった。緋鳴に連絡して僕たちだけで行こう。
「あはは〜、先輩もそう思いますよね〜、やっぱりお兄ちゃんが……むにゃ」
……やっぱり、起こそうかな。
乗り込んだ電車にはボックス席があった。
車両の左右に配置されていたので、片方に三夜子と月乃と荷物、もう片方に俺達4人が座った。けどそれぐらい贅沢に使っても邪魔にならないくらい、電車内は空いていた。
「予想通りだな」
前に座っている大和先生が呟く。ちなみに席順は通路側に俺と大和先生、窓側は先生の隣に早山、俺の隣に押川が座っている。
「どういうことですか?」
「今から行くのはな、かなりの田舎町だ。電車の本数こそ少なくないが距離が長い、到着予定時間は、10時ちょうどだ」
10時ちょうど……現在の時刻、7時12分。出発時刻が15分だから、2時間と45分電車に乗っている計算だ。ちょっとした新幹線より長いんじゃないか?
「夏休みシーズンにそこへ行こうと思う人は少ないらしくてな、宿も簡単に予約出来たんだ。さすがに夏祭りの時は混むらしいけど、今日はその3日前、まだ向かう人はいないらしい」
確かに車両内を見ると、ちらほらと見えるくらいしか乗客がいない。この中の何人が終点まで行くのだろうか。
「まぁ急ぐ訳じゃ無いし、のんびり行こう」
と言って大和先生が取り出したのはトランプ。
「さっそく何かやろうぜ」
電車が出発すると共に、パズル部対抗トランプ大会が開催された。
4人で、車内で出来るという事で、内容は……何故かポーカーになった。こういう時、普通はババ抜きでは?
「ババ抜きじゃ普通過ぎるからな、皆ルールは知ってるか?」
「ま、まぁ一応」
「知ってま〜す」
「やったことがあります」
全員ルールを知っていて、異議を出す者は無く一回戦が開始された。
手札を見ながら、誰が一番厄介な相手だろうかと他の3人を見る。
大和先生は提案者にしてトランプを持っていた、普通に強いだろう。
早山は分かりやすくポーカーフェイス。それにやったことがあると言っていた、きっと強い。
押川は早山とは反対に表情がころころ変わるが、油断は出来ない。実はまだ早山達が入部していない時、4人で神経衰弱をした事がある。その時に勝ったのが最早言うまでもなく押川だった。
かなりの引きの強さの持ち主らしく、二位の大和先生にダブルスコアで圧勝してしまったんだ。ちなみにその時俺は三位で、三夜子は四位。その引きの強さはポーカーでも発揮されたとしたら、かなりの強敵だ。
これらの情報をトータルして……結果。
かなりの強敵達に、俺は囲まれてしまったのかもしれない。




