いざ、合宿へ
「……」
椅子に座り、手に持ったある物をぼんやりと眺める。
これを手に入れた時、急に頭の中に浮かんだ言葉は本当なのだろうか?
もしも本当なら……でも、その条件を満たす方法がよく分からない。そもそもこんなもの、他に見たことが無いのに。
それに、コレのもう片方は…
「た、たいへんだよー!」
「!?」
ドダバタガシャン!
ガラガラ!
襖を開けられる前に、勉強机の引き出しに詰め込んだ。ふぅ、ギリギリセーフ。
「ど、どうしたの緑羽?」
平静を保ちつつ、訊ねる。
「大ニュースだよお兄ちゃん! 先輩が帰ってくるんだって!」
「せ、先輩って?」
「去年用事で行けなかったから、部活の合宿が終わったら帰ってくるって! 今ひなちゃんから電話があったんだよ!」
ということは、あっちの先輩だ。
「うわぁ〜2年ぶりだよ! 2年ぶりに先輩に会えるんだよ!」
「そうだね」
この近くには高校が無い。だから中学校を卒業した先輩方は決まって遠い高校へと行ってしまい、大体は寮生活になってしまう。なので年末か夏休みくらいにしか帰ってこれないんだ。
来年になったら、僕と緑羽、緋鳴もそんな高校一年生になるんだよな。
「ボクがまん出来ないよ! ちょっと先輩に電話してくる!」
結局言いたいことだけ言って、緑羽はどたどたと部屋を出ていった。
「先輩の迷惑にならないようにねー」
聞こえてるか分からないけど、一応先輩の身を思って緑羽に注意しておいた。
多分、無理だろうけど……
パズル部合宿当日、集合場所は学校ではなく駅前だった。
駅は学校や寮よりも俺の家から近い為、まだ20分前というのもあるだろうけど、俺が行くとまだ誰も来ていなかった。
一応合宿ということで制服だ、と言っても上着は無くワイシャツに指定のズボンだけで、背中には宿泊セットの入った鞄を背負っている。
行き交う人の邪魔にならないよう駅の隅で待っていると、
「よっす、早いな創矢」
大和先生が現れた。集合時刻の17分前だ。
「寮より家が近いですからね」
「そういやそうか。あ、寮で思い出したんだが」
「はい?」
「夏休み明けにな、転校生が来るかもしれないんだ。しかも二年生の」
同学年の転校生か、高校生では珍しい。
「でな、創矢今寮の部屋一人で使ってるだろ? だからもしかしたら、その転校生と相部屋になるかもしれないんだよ」
「ということは、転校生は男子ですか?」
「多分な、まだ完全決まったに訳じゃないが、一応覚えておいてくれ」
「分かりました」
一体どんな人が来るんだろう、話しやすい人だと良いんだが。
「お、早山だ」
大和先生が見る方向から早山が歩いてきた。集合時間10分前。
「おはようございます、大和先生」
「よっす、女子3人は一緒じゃなかったのか?」
「いえ、3人は一緒に来ると言ってましたが、自分は一人で」
「お〜い!」
早山とあいさつしていると、押川の声が聞こえた。見ると早山が来た方向から押川が一人早足で向かってきていた。集合時間5分前。
「おはようございます!」
押川はまずは大和先生に挨拶、次いで俺達に声をかけた。
「いよいよ合宿だね!」
「そうだな」
あれ? そういえば。
「三夜子と月乃は?」
「もうすぐ来るよ、ボクだけちょっと走っちゃったから」
押川が振り返る視線の先を見ると、三夜子と月乃の姿が見えた。
「お、来た……な?」
「……あれは、どうしたんだ」
何故か2人の足取りはふらふらだった。実質1分と掛からない道のりを2人は2分かけて到着。
「お、おはよう、ございます……ふわぁ……」
「……」
明らかに2人して寝不足なのが目に見えた。月乃は欠伸をして、三夜子は傘を杖代わりにして何とか立っている感じだ。
「どうしたんだよ2人共」
まず答えたのは月乃。
「昨日、ね……田舎に電話したら、一人の後輩の耳に入ったみたいで、電話が来たのよ、それで深夜までマシンガントークを聞き続けて……ふわぁ」
「律儀だな」
「去年帰ってないもんだから一年間の思い出を語られたわ……あっちが寝落ちしたのが、確か、今日だった気がするわね……」
集合時間は朝の7時ちょうど、今日だというなら12時や1時か、はたまたもっと先も考えられる。
「……」
一方三夜子は、目を閉じていた。まさか立ったまま寝てないか?
「起きろー」
「……」
声をかけても無反応、なので肩を軽く叩いてみると、
「……んむ」
うっすらと目が開いた。
「お前はどうしてそんなに眠そうなんだよ」
言っては悪いかもしれないが三夜子が誰かと長電話するのは考えられない。ルームメイトの押川と夜通し語りあった可能性もあるがこちらはいつも通り元気だし、合宿前日と分かってコンディションを崩すような事はしないだろう。
「…………なかった」
「は?」
「……眠れ、なかった」
まさか、眠れなかったときたか。
「合宿が楽しみで?」
「……ん」
かくんと頭が下がった。肯定だな。
「遠足前日の小学生かよ」
「……」
そのまま下がった頭が戻らない。
「ははは、三夜子は昔っからこうだったからな」
大和先生がけらけらと笑い腕時計を見る。
「よし、ちょうど集合時間だ」
時刻が7時ちょうど、集合予定時間になった今、パズル部の全員(体調は気にせず)が揃った。
「全員揃ったから、出発するぞ」




