もう一方、夏休みの計画
家から学校に通い始めて夏休みが数日過ぎた、部員全員が揃っていた今日、
「合宿の日付が決まった」
部室へ入ってきた大和先生が開口一番そう言った。
いや、正確には扉を開けた時「よっす、揃ってるか」と言っていたから二番か。
「全員の予定を聞いて考えた結果、三泊四日のパズル部合宿を行う事が決定したぞ。日付はこのプリントを回してくれ」
プリントが全員に配布される。日付は……4日後、わりと急だが、全員の予定を考えたら仕方ないのだろう。
「一応聞いとくけど、予定悪い人はいないな?」
全員肯定を示した、しかしその直後に早山が手を上げる。
「大和先生、場所が書かれていないのですが」
そう、配られたプリントには日付は書いてあっても、合宿場所の名前が書いてなかった。
「それはな、今決めるからだ」
「……今、ですか?」
「そう、今だ」
大和先生はチョークを持ち黒板に書き込んでいく。
「一応の候補だ。他にあるなら遠慮なく言ってくれ」
山 海 川 の三文字が大きく書かれる。夏に行く定番なところばかりだ。けど、部活の合宿で海というのはあまり聞いた事が無いような気がするな。
「ここに居る全員で票を取るからな、まずは、川」
「はい!」
押川一人の手が挙がった、
「川、押川一人と」
川の文字の下に1と書かれる。
「次は、海」
誰の手も挙がらなかった。やはり合宿=海のイメージが少ないんだろう。
夏の合宿と言えば、普段より涼しいところでいつも以上の練習をするもの。となると必然的に、
「最後、山」
俺、三夜子、月乃、早山の4人の手が挙がる。確定だった。
「押川、山に決まりそうだが、良いか?」
「は〜い。陸上部の合宿は海だからそこ以外ならどこでも良いで〜す」
え? 陸上部の合宿は海なのか?
「はやまんも合宿海じゃなかった?」
押川が同じく部活を兼任している早山に訊ねる。
「いや、合宿が海なのは陸上部ぐらいだろう。剣道部は去年と変わらず山間の民宿だ。民宿に珍しく道場があるから毎回世話になっているらしい」
「あ〜、そういえば合宿の場所去年と同じかも。砂浜は走り難かったなー」
納得したように押川が頷いている間に、大和先生は山の字を赤いチョークで書いた丸で囲った。
「という訳で、合宿の場所は山に決定した。後は当日までのお楽しみって事で」
漠然とした目安はあるが、行くまで何処に行くのか分からないか。ミステリーツアーってやつだな。
こうしてパズル部の5人は山に行く準備をしながら、ミステリー合宿の日を待つのだった。
―――この日より、時を少しさかのぼる。
「それでは、楽しい夏休みを送って下さい」
先生の挨拶の後、日直の礼を合図にクラス全員が礼をして。一学期最後の帰りの会が終了した。
……side ???
クラスのみんなはガヤガヤと夏休みの予定について話し合っていて、帰る雰囲気は見当たらない。
夏休みか……今のところ入ってる予定は、夏休み終盤の方にある夏祭り……
……あれ? まさか他に何にも決まってない?
いやいや、まさかそんな筈は無いよきっと、えっと……そうだ、友達と遊びに行く約束が……まだ無いや。
マズイ、これじゃあいつもとあまり変わらない日々を過ごすだけで夏休みを過ごしてしまうかもしれない。
は、早く何か予定を…
「なに一人でキョドってるのよ」
声をかけられた。
「え? そんなに挙動不審だった?」
声で誰だか分かったので、振り向きながら訊ねる。
「大体理由は分かるけどね、夏休みの予定でしょ?」
うわ、バレてる。
「夏祭りしか予定が無い……とか思ってたのなら間違いよ、珀露」
「え? 何か予定あったっけ? 緋鳴」
「忘れてたのね」
はぁ、と緋鳴はため息をついた。
「あたし達は受験生よ、来年にはここから卒業して、新しい学校に行くんだからその為に目星をつけろって先生が言ってたでしょ」
あぁ、思い出した。
「オープンキャンパスだ」
すでにつけた目星の高校、そこのオープンキャンパスが夏休み中にあったんだ。
「まさか忘れてるとは思わなかったわよ。とにかく、他の予定だってこれから作ればいいのよ、なんなら明日にでも遊びに行きましょうよ」
「おぉ!」
さっそく夏休みの予定が!
「で、珀露、どこに遊びに…」
「なになに何の話〜!?」
緋鳴に体当たりするように、いや実際に体当たりして現れた。
「明日遊びに行こうって、緋鳴が」
「おぉ〜! ぜひともボクも一緒に!」
「もちろん、後で誘おうと思ってたし、良いよね緋鳴……緋鳴?」
体当たりされたからか、緋鳴はガックリと床に落ち込んでいた。
「……せっかく2人きりでどこかに行けると思ってたのに……でもまだ諦めちゃダメよ、夏休みは始まったばかりなんだから」
何かぶつぶつ呟いている。思ったより痛かったのかな?
「どうかしたの?」
「な、なんでもないわ。そうね、緑羽も一緒に行きましょ」
「わ〜い! ありがとうひなちゃん! 明日が楽しみだね! お兄ちゃん!」
「うん、そうだね、緑羽」
何はともあれ、学年最後の夏休みが、今始まった。




