両親
「よし……持ってくのはこれぐらいでいいか」
ここは学生寮の自室。本当は2人一部屋だが、生徒の数が合わなかったことで俺はここを1人で使っている。
本来1人で使うには広い部屋で、普通なら二段ベッドが置いてあるところも二段目が取られた普通のベッドが置かれているので縦にも広さを感じる。
そんな部屋の中で俺は荷物をまとめた。里帰りの為だ。
と言っても家はこの町内なので一時間とかからずに戻って来れるのだが、夏休み中は家へと帰ろうと決めていた。
必要最低限持って帰る荷物を詰めた鞄を持ち、部屋を出て学生寮を後にした。
いつもの通学路を、私服に鞄で歩く。夏の日差しが容赦なく降り注いでいる。
暑い、と思うよりも先に、
「重いな……」
と感じた。いくら必要最低限とはいえ、普段の学生鞄とは比べ物にならない重量だから当たり前か。
「もう少し小まめに持っていっておけば良かったな」
等と返事がないのが分かっていながら一人呟くと、
「……そうなの?」
まさかの答えが返ってきた……て、さすがにもう驚かないぞ。
「そうだな、どうせほぼ毎日帰ってたんだからその度に少しでも減らしておけば良かったよ」
「ん……そう」
そこで、先ほどの返事の主たる三夜子が隣に並んだ、
「やっほ〜たけやん」
その更に隣に、押川が並んだ。2人一緒だったのか。
「その荷物どうしたの?」
「ちょっと里帰りをな」
「え! たけやん何処かに行っちゃうの?」
あれ? 押川知らなかったのか。
「俺の家は橋の向こうの道場で、学校から対して遠くないんだ」
「へぇ〜そうだったんだ」
「そういう押川こそどこに……って、部活か」
押川は制服に肩掛けカバンと、部活の装いだ。
「じゃあ、三夜子は?」
何故か三夜子も制服だった、今日パズル部が休みだからこうして里帰りしてるんだが。
「学校まで一緒に行って、みゃーさんは駅前に行くんだって」
そこから他愛も無い会話を、といっても八割ほど押川が話していると、学校にたどり着いた。
「じゃあね〜」
そこで押川と別れ、俺と三夜子は更に歩き続ける。
「しかし……」
「……?」
ふと、首を傾げる三夜子を見る。
「傘、目立つな」
「……仕方ない」
まぁそうだろうけど、梅雨明けで雲一つ無い青空の下、まさか傘を持ち歩く人がいるなんて誰が考えるだろうか。しかもその傘が普通の用途では使えないときたら、誰も予想出来ないだろう。
「駅前に行くんだよな?」
「ん……リリの帰りを待ってる」
押川の部活終了に合わせて戻ってくるって事か。
「……創矢は」
「ん?」
「……里帰りした後はどうするの?」
「里帰りした後?」
里帰りした後、このペースで行けば午前中にはつく、その後か……
「そうだな……家でのんびりするか、もしくは…」
「……」
すっごい見られてるな……コレは、あれか? 時間潰しに付き合えと、無言の問いかけだろうか?
まぁ、いいか。家が久々とかでもないし、もしくは外に出るかの二択だったからな。
「どっか、遊びに行くか?」
一応提案してみると、案の定三夜子はこくりと頷いた。
決定したのは良いとして、まずやる事は、
「まずはこの荷物を置きに行くぞ」
歩き続けて数分。懐かしというほど遠くにも期間も経って無い我が家に帰ってきた。
俺の家は今に珍しい剣道場があり、その隣に一軒家、生活の家屋がある。他の道場をあまり知らないが、基本的な構図だと思う。
「……凄い」
三夜子は道場を珍しげに見て、言葉を漏らした。
「ここでちょっと待っててくれ、荷物置いて説明してくるから」
「……分かった」
俺の方ではなく道場を見ながら答えた。そんなに道場が珍しいのか、生まれた頃から見てる俺には無い感覚だな。
鞄を担ぎ直して我が家へ向かう。鍵を取り出して挿し込み、扉を開けた。
「ただいま」
「お帰りなさい、創矢」
扉の開く音に反応したのか、玄関に入ったタイミングで家の奥から母さんが出てきた。
「親父は?」
「道場の方に行ってるわ」
そうか、じゃあ行き掛けに声かけるか。
「帰ってきたばかりだけどさ、ちょっと友達と遊びに行ってくる」
「今から?」
「今から。何か急用があるなら別だけど」
「特には無いけど、分かったわ、夕飯までには帰ってきなさいね」
「了解」
俺は家の中に入って階段を上がり二階へ、自分の部屋に入って鞄を下ろした。
「ふぅ……重かったな」
夏休み終わり頃には小分けで寮へ持っていこうと考えながら部屋を出て、階段を下りる。
「じゃ、行ってきます」
「父さんに一声かけて行きなさいね」
母さんから予想通りの答えに返事をして、家を出た。その足で道場へ向かうと。
「ん? この声……」
何やら話し声が聞こえた。しかも、どちらも聞き覚えのある声だ。
「まさか、な」
可能性は十分にあり得たがまさか現実にはならないだろう、だがこの声がそれを否応にも現実にしてしまう。そして、道場の入り口に行くと、
「た、ただいま。親父」
「おぉ、帰ってたのか」
その場に立っていた親父と、
「……来た」
道場の外観を見て待っていた三夜子が、そこには一緒に居た。
「珍しいこともあるものだな、創矢が家に友達を呼ぶとは」
呼んだ……訳ではないよな、ちょっと待っててもらっただけだから。
「しかも、異性の友達だ」
「あ、あはは……」
何故か俺は笑っていた。別に疚しい事は無い筈なのに、何かを隠さなくてはいけないような気がして。
「遊びに行ってくるんだってな、夕飯までには帰って来るんだぞ」
「あ、あぁ」
「ではな、七ヶ橋さん」
「……はい」
ぺこんと頭を下げた三夜子は俺の方を向いた。
「じゃ、じゃあ行くか」
「ん……」
俺は足早に、家の前から歩き去った。
道場が見えなくなってから即座に、足早の速度に付いてきた三夜子に問い質す。
「何を話した」
「……特に何にも」
「本当か?」
「ん……」
三夜子は説明し始めた。
きっかけは俺が荷物を置きに行ってすぐ、道場を見ていた三夜子に、親父が気付いたらしい。
『こんにちは』
『……こんにちは』
まずは互いに挨拶、
『その制服……創矢の友達かな?』
『……はい』
制服で俺の友達と判断され、
『今日は雨の予報は無かったと思うが?』
傘について問われ、
『……日傘、です』
さらりと嘘をついた、
『なるほど、確かに日差しが強いですからね』
それを親父はあっさりと信じたらしい。そこからは親父が俺の事を話していたら、俺が来て…
「…って、俺の話って何だよ?」
「……いろいろ」
「そのいろいろが気になるんだよ」
「…………いろいろ」
何故そこを言わない。
本当、何を話したんだ。変なこと言ってないよな? 親父……




