合宿一日目開始
バスに乗り込み、揺られて数十分。左右を田んぼや山間の林に囲まれた道路を行くと、パズル部が泊まる宿へと辿り着いた。
「部屋は男3人と女3人の2部屋取ってあるからな」
「この時期によく二部屋取れましたね」
「さっき分かったと思うけど、ここ交通の便が良くないから案外空いてるんだとさ」
皆は互いの部屋に荷物を置くと男部屋に集まった。
部屋は畳み張りの八畳間、3人で寝るには充分過ぎるな広さだ。女部屋も同じ造りらしい。
ちゃぶ台を囲ってパズル部の全員が顔を合わせる。短い片側に大和先生、その両側に右が男子、左が女子の並びだ。
「さて……こうしてパズル部設立以来初の野外活動。つまりは合宿に来たのはいいが……」
『……』
大和先生が黙ったので俺達5人も口を閉じ次の言葉を待った。
沈黙が部屋に響く、外ではセミが騒がしく鳴いている。はたしてこれから、大和先生は何を言うのだろうか……
そして、大和先生が発した言葉は、
「具体的に何するか?」
……まぁ、おおよその予想は付いていた。
「いやな、やるべき事全く決めてない訳じゃないんだが、余る時間の方が明らかに多いんだ。だから何をするか、それをまず全員で決めようと思う」
という訳で、パズル部合宿内容決め談義を、その合宿先で行うことになった。
「メインイベント級の何かを期待するぜ」
それは大和先生が考えているものでは? などと考えていると、早山が手を挙げた、
「行きの電車内で、3日後夏祭りがあると言っていましたが」
「それはカウント済みだ。3日後、最終日最後のイベントだな」
4日目は帰宅、つまり決めなくてはいけないのは丸一日ある明日と明後日の午前中の予定か。
「何か考えがあるなら何でも言ってくれ」
とは言うがそう簡単に出てくるものじゃないし、言った事がそのまま一日の活動になる可能性もあるからな。
普段発言の少ない三夜子はともかく、押川まで思案顔で沈黙が続く。
そんな中、ある一人が呟いた。
「……今日の予定は?」
三夜子だった。そうだ、今日も今日で合宿初日、まだ午後になったばかりで、何か内容を考えないといけない。このままだとこれからの予定を決めることに使いきる可能性もあるが。
「それは考えてある。なんならそれをしながらこれからを考えるか」
このまま座り漬けで煮詰まるよりは良い、皆はその考えに賛同した。
「よし、じゃあ内容を説明するぞ。まずは―――」
……side 珀露
「大体分かってたつもりだけど、電車って結構来てるのね」
「うん、これで安心だよ」
緋鳴と共に電車の時刻表を確認した後、僕達は何の気なしに畦道を歩いていた。
「それにしても、さっきは驚いたね」
「そうね、まさか月乃先輩の合宿先がこことは」
昨日緑羽は電話をしたばかりだけど、コレを聞いたら合宿先に押し掛けそうだな。
「確か、牧津のところよね?」
「うん、駅からバス一本」
牧津は家が宿をしている僕達と同じ中学三年生だ、今は家の手伝いが忙しいらしくあまり会っていない。
「ということは……こっから裏道で20分くらいね」
「まさか緋鳴……」
「え? あ、ちち、違うわよ? 別に月乃先輩の所へ行こうとか考えてないからね?」
それにしては凄い慌てっぷりだけど。
「じゃあ、コレが今向かってる先に牧津の実家があるのは偶然ってこと?」
家に帰るでもなく、どこかへ遊びに行くための方向として、今歩いているってことだろうか。
「そ、そうよ? ただなんとなくコッチに来たくなっただけだから」
やっぱり、緋鳴も緑羽と同じなんだな。
「そっか、じゃあ行こうか、ただなんとなく」
「えぇ、ただなんとなく」
大和先生が考えていた合宿一日目の内容とは、
「とりあえず二組に別れる。武川と月乃は俺と、三夜子は押川と早山と一緒に、自然を楽しむんだ」
というものだった。
正直、よく分からなかった。恐らく全員が全員同じ疑問を持っていただろうが、誰も意義や質問はしなかったのは普段見れない自然沢山のこの場所を楽しみたかったからだろう。
という訳で、三夜子達3人と別れた俺達は、林の中に来ていた。
「おー、何か涼しいな」
林の中は木々の間から日の光が漏れていて、風が吹く度に葉がざわざわと揺れる。心なしか涼しく感じる、向こうには無い景色だ。
「この辺りで良いか」
大和先生は急に立ち止まった。俺達も立ち止まると、大和先生が振り返った。
「いきなりだが、パズル部もう一つの活動を始める」
もう一つの活動とは、恐らく剣の事だ。なるほど、押川を三夜子と一緒にさせて剣の事を知られない為だったのか。
でも、何故早山も向こうに行かせたんだ?
「今回2人にはある事を覚えてもらいたいんだ。それは……剣の気配だ」
「剣の気配、ですか?」
「そうだ。剣守会ではまずそれを覚えることから始める。いつ、どこで、誰が剣を持っていても分かるようにな」
そういえばホウさんや三夜子も気配を感じていたな。
「2人も剣の持ち主である以上剣狩りに狙われる可能性がある。そこで剣の気配が分かるようにしておけとの、上からの命令だ」
そうか、早山は剣守会の一員だからすでに剣の気配が分かる。だから向こうに行かせたのか。
「そんな難しいものじゃないから安心してくれ。今日中、早ければ一時間もあれば覚えられる……テキストを持ってきた」
大和先生はズボンのポケットから一冊の本を取り出した。
「……剣の気配を覚えるテキストがあるんですか?」
それを見た俺達は目を丸くした。まさかそんな覚え方を記した本があるとは
「実際に剣守会で教えてる人が書いた直筆だ。コレできっと大丈夫、だそうだ」
「はぁ……」
まぁ、大和先生は教師だ。テキストを見ながら教えるのは得意なはずだろう。
例え、家庭科の授業にそういう教え方が少なくても。
「よし、早速始めるぞ」




