記憶していた
「まとめて狩らせていただきますよ!」
ケーノが剣に炎を貯め、横に薙ぐと共に炎を放った。
「……当たらない」
三夜子は剣を前で交差し、一気に振るう。
ブォン!!
巻き起こった風に炎がかき消された。ケーノは同じ動作で再び炎を放つが、三夜子も同じ動作で風を起こして相殺する。
「くっ……やりますね」
ケーノの剣の能力は炎。それは布縫の、大和先生への対策としてで。三夜子の風や俺の空気砲はむしろ天敵のようだ。
炎が消えたところへ、俺は跳び込む。今この剣はレベル5の刀『布縫』の剣の力を得ている、それにより空気砲は使えなくなったが、空気を込めた時のようにとても軽い。
軽くなった剣を振り上げ、ケーノに向けて降り下ろす。しかし後ろへと後退され、刃に貯めた炎を放ってきた。
今、空気砲は使えないが……
「布縫の帯!」
剣の鍔から伸びている2本の帯が俺の前へと伸び、盾となって炎から防いだ。
「バカな! 何故燃えないのですか!」
ケーノが予想外の事に困惑する。燃えていないところを見るに、布ではない何かで出来ているようだ。
もう少しだ、後は大和先生が攻撃を当てやすいようにするだけだ。
「……隙有り」
俺の後ろから飛び出した三夜子がケーノに向けて風を放つ、攻撃用の鋭い風ではなく、相手を吹き飛ばすような強い風だ。
「うっ」
避ける間もなくケーノは飛ばされないようにその場で足を踏ん張る。
「……創矢、左右の道」
左右の道? ……なるほど、そういうことか。
「布縫の帯!」
盾にしていた帯を前へと伸ばしてケーノの左右に張った。容易に飛び越えられる高ではあるが、今のケーノにそれは出来ない。
これで、左右の道を塞いだ。
「逃げ場を、無くしたつもりですか? それでは私は倒せませんよ」
それは分かっている、剣で攻撃しないと勝てない事は。
だが前からは三夜子の風、左右は俺の布縫の帯で塞ぎ、唯一の後ろは……
「サンキューだ三夜子、武川」
「なっ!?」
ケーノを風避けにして回り込んでいた、大和先生が立っていた。
「これで終わりだ! 剣狩りの使者!」
大和先生は腰に指していた剣、布縫を引き抜くと同時に、唱えた。
刃に布の帯を集め、触れた瞬間に相手を物理的に帯が叩く技。少し前、原良相手に使った『百万ノ布刀』
アレは剣の舞を俺達に見せるために力を押さえたもので、その本気、約八倍の力を出すのが。
「八百万ノ布刀!」
刃がケーノに触れた瞬間、剣に巻かれた帯が、
ズダダダダダダダ!!
ケーノに叩きつけられた。
「がぁっ!?」
声にならない声と共に、ケーノがこちらへと吹き飛んでくる。進行方向にいた俺が避けると、そのまま仰向けに地面を滑って動かなくなった。
「はぁ……はぁ……」
大和先生の息切れが、静かになった河川敷に響く。大和先生が剣を下げ、続いて三夜子、俺と下げる。
「勝った……な」
「そう……ですね」
「……私達の、勝ち」
「あぁ、俺達の勝ちだ……はぁ〜」
緊張の糸が切れたのか、大和先生がその場に座り込んでしまった。俺達は慌てて駆け寄る。
「悪いな2人共、手間かけさせて」
「……別に大丈夫」
「そうですよ、最終的には大和先生が終わらせたんですから」
「そっか……でも2人の助けがあったからだ。だから言わせてくれ、ありがとうな。三夜子、武川」
「ん……」
「はい」
俺達は揃って頷いた。
少し休んでみたが、大和先生は歩けず。俺が肩を貸して立ち上がった。
「あの男はどうするんですか?」
「本当なら連行したいんだが、俺がこんなだからな。とりあえず家に帰って本部に連絡を…」
「その必要はない、もう本部に連絡しておいた。すぐに回収に来るだろう」
声のした方向を見ると、ホウさんが携帯を終いながらこちらへと歩いてきていた。
「ホウさん……本当に見える範囲にいたんですね」
「勝てて良かたな、一応おめでとうと言ておこう」
「おぉ、ホウさんからお褒めの言葉とは…」
「勘違いするなバカ野郎、いくら相性が悪いとは言えレベル5が狩られかけたんだゾ? もと鍛練しろ」
「ありゃ、手厳しい……」
「……あなたは」
大和先生はやれやれと肩を落とす隣で、三夜子がホウさんを見てぼそりと呟いた。
「知り合いなのか?」
俺が知る限り、三夜子とホウさんが一緒に居るのは見たことない。その前に会ったことがあるのなら別だが。
「……たこ焼きの人」
「「……は?」」
隣の大和先生と声が重なった。
「あぁ、大和の妹だたか、どこか見覚えがあるとは思ていたんだ」
「あの……ホウさん? 三夜子とはどこで?」
「隣町にたこ焼きの屋台車がたまに出ていてな、そこで何回か出会たんだ。いつでも傘を持てていて妙に目がいた」
「へ、へぇ……」
そういえばテスト期間中に一度『……たこ焼き食べに行こう』と誘われて押川と3人で行ったな。そんな所で知らぬ内に会ってたのか2人共……
「では改めてだな、私のことはホウさんと呼べ」
「……七ヶ橋三夜子。三夜子でいい」
そして今ここでちゃんと自己紹介すろのか。
「とりあえず、安心して家に帰れ、そして寝ろ」
「そうさせてもらいます、では」
大和先生と共に一礼して。その場を去ろうとしたその時、
「逃が……しませんよ」
声に全員が振り返った。回復したケーノが立ち上がっていて、怒りの声を上げた。
「よくも……私の……美しい顔をめちゃくちゃにしてくれましたね!」
顔が一番かよ。そういえばあいつはナルシストだとか言っていたか。ケーノの顔は河川敷の、小石の溢れた地面を滑った為に傷だらけだった。
「まとめて焼き付くしてやります!」
ケーノは剣を頭上に掲げその切っ先に炎の塊を形成し、どんどんと巨大化させていく。
「フン、黙て倒れてればいいものを」
ホウさんは臆するどころか表情一つ変えずにパズル錠を解き、剣を取り出した。
「アイツにはすでに跡がある。お前達はそこで見てろ」
前へ、ケーノへとホウさんは走った。
「そうだ、ホウさんは一度ケーノと戦ってるんだったな」
大和先生も大丈夫だと言った感じに落ち着いている。ホウさんが強いのは一度見ているので分かるが、あの炎をどうにか出来るのか。
そこで、思い出した。ホウさんがケーノと戦っていた時に使っていた、あの言葉。
「大和先生、ホウさんの剣の能力って……」
「えっとな……ホウさんの剣は記録を司っていて、交えた剣を記録してそれを同時に放つ事が出来るらしい」
つまりホウさんがケーノとの剣の舞で交えた数の刃を……
「もう少し寝ていろ」
ホウさんの剣が、ケーノの無防備な身体に触れた。
瞬間、
「一線。三六重の太刀」
ズザザザザザザザザ!!
ケーノの身体に何十回も剣を撃ち込まれたような音が響いた。
「かはっ……」
たった一太刀、正確にはその一度で何十太刀も喰らったケーノの手から剣が落ち、炎が消えてケーノはその場に倒れ伏した。
「またく、手間を掛けさせやがて」
一度戦っていたから使える、そういう能力を使ったとはいえ、たった一撃で……
「2人共、覚えておけよ」
大和先生が呟いた。
「ホウさんと戦う時は、それなりの覚悟が必要だぞ」




