これからも変わり者は
あの日から、早数日が経った。
テスト返却が全て終わり、放課後。部活に行こうと三夜子に言われて一緒に歩いていると、放送が流れた。
『2年C組の武川創矢君。この放送が聞こえていたら職員室まで来て下さい』
え? 俺?
「……呼ばれた」
「だな、ちょっと行ってくる」
三夜子と別れ、一人職員室へと向かう。
しかしいったい何故呼ばれたのか、テストで悪い点数は取ってない。まさか、親に何かあった?
……可能性は薄いな。昨日『そろそろ戻って来い、休んでいた分稽古するぞ』って電話があったからな、元気ではある筈だ。
などと考えている内に、職員室に着いた。
「失礼します。放送で呼ばれた武川です」
「あーっと、武川」
中に入ると、俺に気付いた大和先生が立ち上がってこちらへ歩いて来て、そのまま職員室の外へ出て行ってしまった。
「え? 大和先生?」
「ちょっと来てくれ、話があるんだ」
振り返ると大和先生が手招きで呼んでいたので、その後を付いて行く。ここへ来た道をそのまま歩いていき、たどり着いたのは、やはり2年C組の教室だった。
「誰もいないな」
教室内が空きを確認すると大和先生は教室の中へ。
「まぁ座ってくれ、あの時みたいに」
あの時とは、三夜子の事を言われた時だろうか? そう思って俺はその時と同じ席に座った。大和先生もその前の席に座る。
「さてと、武川。まずはありがとうな、あの時俺を家まで運んでくれて」
「いえ、気にしないでください」
あの後、ケーノが起きる前にホウさんの言っていた本部から回収に来た人物……原良が現れた。
最初は驚き、三夜子に至っては剣を構えたりもしたが、実は原良は剣狩りの使者ではなく、大和先生の仲間だという事を教えられ。大和先生が剣狩りと対抗する集団、剣守会というものの一員だと言う事も初めて知らされた。
その後は原良がケーノを連れていき、ホウさんは一人で帰り、俺達は大和先生を家へと運んだのだった。
「ホウさん曰く、当分は剣狩りが俺を狙う事は無いらしい。相性で攻めて負けたと知ったからな」
「そうですか」
「あぁ……けどな、逆に厄介な事になったかもしれないんだ」
厄介な事……予想がついた。
「俺や三夜子が狙われる可能性、ですか?」
「その通りだ、今まで見た事のない剣があると分かればその持ち主が強くなる前に狩りに来るだろう。言い方は悪いが創矢と三夜子はまだ剣の扱いでは初級レベルだ。何せパズル錠を解いたのがまだ一月くらい前だからな」
狩り易い相手から狩る方が簡単、という事か。
「一応2人は剣守会の目が届く所に居るから幾分かは安全だ。けど、遅かれ早かれ狩りに来るだろう。それこそ俺の時のように相性の悪い相手が来るかもしれないから、覚悟しといてくれ」
「はい、分かりました」
「よし、じゃあこの話はこれで終わりだ」
とりあえず置いといて、と言いながら前の物を横にずらすジェスチャーをした。
「あ、後一応レベル5の事を話しておこう」
大和先生その両手を肩の位置まで持ち上げ。
「知ってるかもしれないがレベル5の剣は全部で7本100本の中のたった七振り、一種類に一本ずつしかない。その中で…」
右手を二、左手を三本指を立てる。
「俺が知る限り、剣守会が二本。剣狩りが三本所持している」
剣狩りの方が多いのか……あれ?
「後の二本は?」
剣守会が二本、剣狩りが三本、合わせて五本しかない。
「それは調査中だ、どちらもすでに持ち主がいる可能性が高い、錠を解かれてる可能性もな。そうなったら色々と厄介だな」
確かに、剣は100勝すると願いを叶えてくれる、それをわざわざ手離すような人はそういないだろう。
それこそ、無理やり狩るでもしないと。
「レベル5は普通に強力だからな、その所持数の負けはハンデになりえる。何としても残りの2本は手に入れないといけない……と、剣守会では言われているんだ」
両手が降ろされた。
「で、ここからが本題だ」
大和先生は一回教室の扉に視線を移し、戻してから話し始めた。
「武川に頼んだ、喜怒哀楽を導き出すってやつ、あれはどこまで進んだ?」
喜怒哀楽を導き出す……多分、剣を手に入れて間もない時、まだ頼まれてもいない時に、喜を導いた。
後は数日前、ケーノの放った炎に包まれた大和先生を見て三夜子は怒っていたからな、怒も導けたんだろう。つまり……
「半分、といった所ですかね」
「だな、怒らした原因は俺だった訳だし……でも、残りは一筋縄にはいかないだろうぜ」
「そう……ですよね」
残り、つまりは哀と楽だ。
哀とは哀しい、悲しい気持ちの事で、泣いたりするのが入るのだろうけど……要は三夜子を泣かせろって事だもんな……押川に三夜子を泣かせたら許さないって言われてるのに、どうすればいいのか。
そしてもう一つ、楽。実はこれが一番分からない。楽しいって事だろうけど、嬉しいとの違いが全く分からないので何をすればいいのか。
「哀はまだ良いとして、楽に至っては、何をさせれば良いんだろうな?」
大和先生も同じ状況らしい。
「でな、現代文教師の桜間先生から辞書を借りて引いてみたんだよ……そしたらさ」
「そしたら?」
「……」
何故か大和先生は黙ってしまった。まるで勿体ぶっているようにも見えるが。
「全然分かんなかった」
「はい?」
「だからな、何をどうさせれば良いのか全然分かんなかったんだよ。楽を導く為に……さすがにこればっかりは頼み事の範囲を越えてるからな……」
大和先生がぼそりと呟いた。
「何ですか?」
「いや、いい、気にしないでくれ」
「はぁ」
実は少しだけ聞こえたのだが、頼み事の範囲がどうとか。
「とりあえずだ。これからも頼まれてくれるか?」
「はい、もちろんです」
乗り掛かった船、いやすでに乗っかっているのと同じ状態だ。今さら降りたいしないさ。
「サンキューな、そうと決まれば、部活に行こうぜ」
「はい」
俺達は立ち上がり、部室を目指して教室を出た。
この時はまだ、大和先生が呟いた言葉の本当の意味を、俺は分かっていなかった。




