開花
帽子の男が、ケーノの放った炎に包まれた。痛みは無いとは言え直撃をくらえばかなり削られるはずだ。
それになんだか男の動きがおかしく見えた、体調でも悪いのだろうか。ともかく、帽子の男はこちらの味方だ。
「三夜子、早く加勢に……三夜子?」
さきほどから何も発さず2人の戦いを見ていた三夜子を見ると、
「……」
三夜子は、
「……許さない」
怒っていた。ケーノを睨み、双剣を握る手に力を込め。とても分かりやすく、怒りを露わにしていた。さっきのように拗ねてるのとは違う、怒り以外の感情が無かった。
「ど、どうしたんだ?」
分かりやすく怒る三夜子は怖くも見え、俺は恐る恐る聞くと、怒りの理由を教えてくれた。
「……あの正体は、兄さん」
帽子の男の、正体と共に。
「うっ……」
体が妙にダルい……風邪の体で派手に動かされたのもあるし、それに今、
「ふふふ、私の炎の味はいかがですか?」
炎をまともに浴びたせいで帽子とマフラーが焼け焦げ、布縫の制御が外されて俺に戻ってしまった。
「ただ、コレだけでは倒せませんので」
ゆっくりと距離を詰めてきたケーノは剣を降り下ろす。
「くっ」
ギギィン!!
剣を横に構えて防いだ。
マズイな、はっきり言って俺の実力は、いつもは布縫が動いてるから戦わなくて、剣を使わない模擬戦だと原良にも負ける程だ。
たまには勝つんだぞ? サイコロで6を出すぐらいの確率では勝てるんだぞ?
けどコレは本当の剣の舞。しかも相手は剣狩りの使者で、どうしても負ける訳にはいけない相手だ。
「このっ!」
剣を弾き、布の帯を飛ばす、制御が戻った事により剣の能力として無尽蔵に布を操れるが。
「無駄です!」
帯はケーノの払った剣の炎に焼かれた。天敵の炎、布縫の制御無しで動き半減、更に体調不良で半減……約4分の1くらいか。
これは……ピンチだな。
「完璧に焼き尽くしてあげましょう、焼き焦がれなさい!」
ケーノが剣を掲げる。その切っ先に炎の塊が現れ、その火球を俺目掛けて飛ばした。
万事、休すか……
だが、
ブォン!!
「!?」
「大和先生!」
火球は前に立った武川の剣が、放った空気砲によってかき消された。
というか武川、俺の正体を……あ、三夜子に聞いたのか。
「大丈夫ですか!?」
「おぅ、炎にダメージは無いからな」
戦う力は削がれるけど、正直体調も含めてボロボロだ。
「そう言えば、三夜子は? 一緒にいただろ?」
「あそこです」
ガギギィン!!
「ふふっ……なかなかやりますね」
「……」
ガギギィン!! ガギギィン ガギギィン!!
三夜子はケーノと戦っていた。しかも、かなり優勢に見える。
ケーノの炎に対して三夜子は風、剣の相性ってのもあるんだろうけど、それ以前に三夜子の動きがケーノに引けを取っていない。
「三夜子の奴、あんなに強かったのか……」
「大和先生のおかげです」
「え?」
俺の、おかげ?
「三夜子、大和先生がやられているのを見て怒ってるんです。だから、アレは大和先生の引き出した三夜子の力なんですよ」
「ってことは……」
武川に、主要四表情を……喜怒哀楽を導き出せと言っていた俺が、まさか怒りを出させてしまうとは。
「なるほど、やっぱり三夜子は俺の妹だよ。」
……妹にばかり面倒ばかりさせてたら、兄として威厳が無い。
それに、今がちょうどいいかもしれない。
「武川、その剣の事、ホウさんから色々聞いたよな?」
「はい、一応」
「じゃあ、その具体的な使用例を説明する」
そう言って大和先生は焦げた帽子の中から一枚の板を取り出した。その板は、俺の剣に収まっているパズルの板に似ていた。いや、その物と言っていいかもしれない。
「この板をパズルにはめて真ん中に来るように動かすんだ。その際に真ん中の列には板が全部収まっているのが条件だぞ」
「はい」
板を受け取り、はめる。パズルを動かして中央に行くように動かす。カチリ、と中央に収まった。
すると、剣に変化が起こった。剣の刃と柄の間、本来なら鍔がある部分に帯のような薄い何かが円を描いて鍔になり、先が更に伸びてマフラーのように風になびいた。
「こ、これは……」
まるで先ほどの、布縫の剣のようだ。
「レベル5の剣が一枚ずつ持っている板、それをはめる事で能力が増える。それがその剣の本来の能力だ
しかも何だろう、剣が軽くなった気がする。板をつけて重さは増えた筈なのに。
「さて……剣が一段階強くなった訳だが、聞いてくれ。2人には悪いが、アイツの隙を作ってくれないか? 一回でいい、その一回で最大技を放って……俺がアイツを倒す」
「分かりました」
異論は無かった。大和先生を狙って来た剣狩りの男だ、大和先生が倒したいと言うなら、手伝うに決まっている。
「悪いな、武川」
「いえ」
俺は前へ走った。三夜子がケーノと剣を交わしている中に剣を突き込む。ケーノがそれを避け、その間に俺は三夜子の隣に並んだ。
「……兄さんは?」
「大丈夫だ、聞いてくれ」
俺は大和先生から聞いた言葉を伝えた。
「ん……分かった」
言葉を聞いて安心したのか、三夜子の顔から怒りが消えていつもの無表情に戻っていた。
「邪魔しないでいただけますか? 私の使命は布縫を狩る事です。本目的が現れた以上、貴方達と戦う理由が無くなったのですから」
「そういう訳にはいかない、剣を狩らせる訳にはいかないからな」
俺は剣を構える。布の鍔がついた事で、先ほど大和先生が使っていたような技が出来るようになったらしい。
「……やらせない」
隣で三夜子も剣を構える。
二対一……いや、三対一の、剣の舞が始まった。




