些細な進歩
今回より、主人公目線が戻ってきました。
「ふむ……まぁまぁだな」
帰って来たテストを見て、とりあえず補習は無いことに安心した。まだ今週いっぱい帰ってくるからまだ安心はできないが。
それよりもだ。今気になっていることは、おそらくクラス中が同じことを思っているだろう。
それは今朝、いつものようにホームルームをしに来る大和先生を待っていた時のこと。
チャイムと同時に扉が開き、
『席につきなさい』
入ってきた大菊先生に、クラス中が静かになった。
その数秒後、ざわざわと騒がしくなる。
え? 大菊先生?
大和先生じゃないの?
どうかしたのかな?
『ほら静かに、早く席について下さい』
驚きは隠せないが、大菊先生に言われるがまま全員が席に戻った。
『本日大和先生は体調不良の為にお休みです、ですので私が朝のホームルームを行います』
その言葉に再びクラス中が騒ぎだす。
体調不良?
風邪でもひいたのかな?
大丈夫かな……大和先生
さすがはクラス担任、心配する声が多い。
『静かにしなさい。ホームルームを始めます』
ということがあり、今日大和先生は休みなのだった。
そして今は五限目、本日最後の授業が終わり。
「そんじゃー、大和先生に代わってこのまま帰りのホームルーム始めるぞー」
五限目の授業をしていた桜間先生が授業終わりについでのようにホームルームを始めた。
そんなノリで良いのか? とも思うが、楽に終わるなら良いかという雰囲気らしく、クラス中は静かになり。
「そんじゃー、終わり」
案の定、あっさりと終わった。委員長の挨拶の後、クラスは放課後に突入。部活に行く者、友達どうしでお喋りする者に別れ、後者の話題に、大和先生の名前が多く聞こえた。
「おーす創矢、さっきのテストどうだった?」
浜樫がやって来たことで、俺も後者の仲間に。
「まぁまぁだな」
「そうかそうか。ところで、大和先生どうしたんだろうな」
「体調不良なら、風邪とかじゃないか?」
「やっぱそうかー、大丈夫かな、大和先生」
「早く良くなるといいな」
「そうだ……」
浜樫が途中で言葉を切った。目を丸くして俺の後ろを見ているので振り返って見ると、
「……創矢」
三夜子が真後ろに立っていた。
「どうした?」
気配もなく真後ろに立たれていたら普通なら驚くだろうが、すでに何回も似たことをされてるから冷静に訊けた。
「いやいや創矢、何さらりと返してんだよ」
「何って、名前呼ばれたら何かしら用事だろ?」
「ああそうだよ、何で七ヶ橋さんは創矢を名前で?」
あぁそうか、浜樫は俺と三夜子の事を知らない。今さらだが、俺は大和先生に三夜子をクラスに馴染ませてくれと頼まれてた訳で。それは三夜子の傘、剣の登場によって一行として進んでいないのだが。
「友達だからな、な?」
「……………………うん」
いつもより間は長かったが、三夜子は肯定した。
「へー、いつの間に」
「ある時な」
「へー、そういえば一月前ぐらいに七ヶ橋さんをストーキングしてたな、お前」
ストーキングて。確かに後を追っかけて一声をかけるタイミングは探してたけど。
「言い方悪いぞ」
「それからなのか?」
「まぁ、そうだな」
「いったい何きっかけなんだよ」
まさか大和先生に頼まれたからとは言えない。えっと……理由になりそうなそれっぽいのは、確か……
「上級生に囲まれていたところを助けたこと、か」
「ふーん」
「……創矢」
おっと、忘れてた。微動だにせず真後ろに立ち続けていた三夜子に振り返る。
「あぁ悪い、何だっけ」
「……行こ」
行こうって……部活か。
「あぁ、行くか。じゃあな浜樫」
「おぅ、また明日な創矢。それと……七ヶ橋さんも」
浜樫は一瞬迷いながらも、三夜子にも挨拶。
「……また明日」
三夜子もそれに返した。
些細だが、それだけでも、三夜子がクラスに馴染めたと思った。
三夜子がクラスから俺を出した理由は、部活に行く為じゃなかった。
そのことを部室とは逆方向に歩きだした三夜子に聞きながら、今は並んで正門へ向かっている。
「じゃあ何で俺を呼んだんだ」
「……お見舞いに」
そういえば三夜子は、兄である大和先生の家を知ってるんだった。
「それに俺も付いてこい、ってことか」
「ん……」
「じゃあ他の部員も呼ぶか」
「……呼ばない」
え? 呼ばないのか? むしろ三夜子が押川とか呼びそうだと思ったんだが。A組の方向には向かわずに真っ直ぐと学校を出るルートを歩いて行く。
「何でまた」
「……A組だから」
つまり、担任じゃないから、ってことか。
「そっか、じゃあ俺達で行くか」
「ん……」
という訳で、学校を出てそのまま一言もかわすことなく歩き続ける三夜子の後ろを付いて行くこと十数分。俺達はとあるアパートの前についた。
「……ここの二階の角」
階段を上り、一番端の扉の前へ、ふと表札を見ると『七ヶ橋』と書いてあった。
三夜子がインターホンを押す。
ピンポーン
少しして、
ピンポピンポーン
更にインターホンを二連続で押した。
「おいおい、大和先生は病人だろ?」
「……大丈夫」
すると、インターホンからの声はなく鍵の開く音がして扉が開いた。
「よっす三夜子……あれ? 武川?」
大和先生が出てきた。マスクに寝間着と、病人風の格好だ。
「……お見舞いに来た」
「武川と一緒にか?」
「C組代表、ということで」
「そうかそうか、まぁ、立ち話もなんだ。上がってくれ」




