剣守会
「よし、終わり!」
今、2年生四組分、最後の答案用紙の答え合わせを終えた。
「お疲れ様です、大和先生」
そのタイミングで、というか俺が言ったからか大菊先生が声をかけてきた。
「いやー、大変でした」
「生徒達も同じ気持ちでしょう、後は追試にならないことを祈りつつ、残りの週を過ごすのです」
テスト期間最終日、土曜と日曜を過ぎた後はテスト返却週間だ。そしてそれが過ぎて、4日行けば夏休みに突入する。
「生徒達にとって夏休みは学生時代で最も長い休みですからね」
夏休みか……昨年は三夜子のパズル錠を解くのに大半費やしたな……結局解けなかったよな……しみじみ。
「私はバスケ部三年生の引退試合、加えて夏合宿が控えていますがね」
「合宿、ですか」
今年はパズル部という部活の顧問になったし、部の合宿でも計画してみるか……パズル部が合宿で何をするんだ?
まぁいいか、全員が賛成したら遊び感覚でどこかに行けば。
「大和先生ー」
「ん?」
声がした方を見ると、桜間先生が。
「お客さんっすよー」
お客さん? パズル部の誰かなら俺を直接呼ぶし、いったい誰だろう。
「何でも、ここのおーびーだとか」
OB? まだ一年しかいなくて三年を受け持った事の無い(そもそも担任持ったのが今年初めての)俺に会いに来たOB?
そのOBに連れられて、俺達は河川敷に来た。
「桜間先生全く変わってなかったな。本当にあの人、幾つなんだか」
「で? 何の用だ、原良」
黒髪に長い黒いコート、日の暑い時季によく着てられるな。
そんな高校のOBこと、原良正忠がこちらを向いた。
「正式にこの辺りの担当を任されたんだ。学校は変わらずにアンタ一人だが、範囲的には入ってるから行くことも出来る、という訳でよろしく」
「へいへい」
原良は、剣狩りの人間じゃない。
俺が入っている集団、『剣の在り方を守る会』---『剣守会』のメンバーだ。
剣守会の主な行動は剣狩りの行動を抑え、願いを叶えさせないように剣を取る。それだけ考えれば剣狩りとやってることは同じだが、剣狩りがしているように、その剣どうしをわざわざ戦わせあったりはしない。
あちらが『狩る』側なら、こちらは『守る』側だ。原良は昨年剣守会に入った、俺の後輩という訳だ。
「それだけか?」
「いいや、そのだけにわざわざここに来たりはしないさ」
だよな、そもそも学校にまで来る用事でもない。
「ここに来た理由は……」
原良は自分の剣のパズル錠を解き、双剣の片方の切っ先を俺へと向けた。
「俺と、勝負しろ」
「何でまた」
「あの時のお礼、って事でどうた?」
お礼、ね……三夜子と武川が河川敷で戦っていた時、原良が現れたのは俺の差し金だ。その後に俺が剣込みで現れてわざと倒されることも、作戦の内だった。
本当なら三夜子に剣の力を教える筈だったんだが、まさか武川が剣に興味を示すきっかけになろうとは思いもしなかった。
「そういうことなら」
俺も剣を取り出した。いつも服の胸ポケットに入れているそれを持ち、パズル錠を外す。
瞬間、布が溢れだした。体を包み、頭に被さり、首に巻き付く。その間僅か数秒の内に。
「はっはっはっ! また剣の舞なのだな!」
レベル5の七剣の一振り、刀『布縫』の戦闘形態になった。
この間俺は視界のみ動かせ、手足の自由は全く無い。まぁ俺よりも良い動きするけどな、この剣の中身。
「おや? お前は前に戦ったことがある筈だが」
原良が剣守会に入った頃、俺がレベル5の剣を持っていると聞いて挑んできた。結果はもちろん俺、というか布縫の勝ち。
「勝敗は関係無い、いいから戦え」
原良が双剣を構える。しかし布縫は腕を組む。
「はっはっはっ、いくらやっても勝敗に変わりはないがな」
「それでも良いんだ。俺はレベルの差が強さに関係ないことを、証明したいだけだからな」
あぁ、なるほど。俺の剣はレベル5。能力もパズル錠も桁外れに凄く、原良の双剣のレベルは1。パズル錠は知恵の輪で、能力は伸縮と曲折と驚くほど凄い物でもない。
だがそのレベル1で原良はレベル4の剣にも勝ったことがある。つまり後はレベル5に勝てれば、レベルが剣の強さと関係ない事を証明出来るのだ。
「そういうことならば……さぁ、何処からでもかかってきたまえ!」
俺……じゃないや、布縫は腕組みを解いて剣を構え、原良を挑発する。
「言われなくても、もう行ってるよ」
原良はいつの間にか剣を伸ばし、もう目前にまで刃が迫っていた。
「ふっ」
布縫は剣で刃を受け流し、反撃とばかりに剣の鍔から布の帯を数本飛ばす。原良はそれを伸ばしていない片方の剣で切り刻んだ。
「ほぅ、中々やるな」
いやいや布縫、その技は前戦った時も見切られてるだろ。
伸ばしていた剣が戻した直後、原良は再度刃を伸ばした。この感じは、伸ばされた刃を避けた途端に刃を曲折して突き刺す技か。
「甘い!」
想像通り、布縫が避ける。
「甘いのはそっちだ」
そしてやはり予想通り、刃が曲がって布縫を突き刺した。
「なに!」
いやいや布縫、三夜子達の前でもそうだったけどお前毎回この技見て当たってるだろ。さすがに学習しようぜ。
「ふっ、中々やるな、だがこの程度では倒れないぞ」
「そんなこと、分かってんだよ」
原良はいつの間にか布縫の真横に移動していた。刃の長さを戻しながら近づいたのだろう。
「なに?」
「これを、避けてみな!」
原良は完全に長さを戻していない曲がったままの刃、先の方で円を描いているそれで、布縫を殴り付けた。突然の攻撃に避けられずに吹き飛ばされる。
「おぉ!?」
剣は刃で切っても外傷は無く通り抜ける。だが刃で無い部分、例えば刃の横にあたる腹や刃の背である峰では物理攻撃が可能だ。原良は刃で円を描くことで刃の部分を内側にして殴り付けた。これは始めて見る戦法だ。
そして殴り飛ばされた布縫と俺は……
バッシャーーーーン!
川に、着水した。
時期的に寒くはないが、日が落ちかけてるからちょっと冷たいな……って、あれ?
「まだ行くぞ!」
原良が刃を元に戻して両手の剣を構える。
「ちょ、ちょいタンマ!」
それを俺が、剣を持たない左手を前に出して止めさせた。原良も声が変わったのを訝しげに見て剣を下げてくれた。
「わるい、動けねぇんだ」
俺の身に着いてる帽子やマフラーが川の水を吸って重しになったのはおろか……実はそれらの布に一定以上の異常があると布縫の中身はいなくなって自由が強制的に戻るんだ。
「ああ……そういやそうだったな。次は場所を考えて勝負を挑ませてもらう」
「それで頼むぜ……」
ちなみにこの状態ではまだ勝負はついていない。このまままだ俺が戦えるからだが、原良は剣を下した。戦いたいのは俺じゃなく、布縫だからだ。
ざばざばと音を立てながら川から上がる。流れも緩く、深くもなくて助かった。
「大丈夫か?」
「哀れむぐらいなら方向を考えて吹き飛ばしてくれ」
何も川の方向じゃなくても良かった筈なのに。
「それだけ言えれば大丈夫だな」
「おいおい」
まぁ平気だけ……
「……っぷし!」
ヤバいな、さっさと布外さないと……
……後、これ先生方に何て言い訳しよう。




