その正体は
「っはぁ……」
テスト期間も3日が過ぎ、俺が作ったテストも無事に終わった。そして今は回答作業に入っているのだが……
「……しんど」
書かれていることが少しずつ違う同じ紙を何枚も何枚も赤ペンで色をつけていく、同じ作業のように見えてところどころで違うから逆に苦しい。
「先生って、こんな作業やってたんだな……」
呟く内に、一枚終了。残り……ダメだ。数えたらやる気が無くなる。
「ふぅ……」
いや、今ので大分無くなってしまった。
ちょうど人クラス分が終わった所だ、キリが良いし、少し休むか。
「兄さん……」
「ん? どうした?」
「ワタシ、決めたの。この家を出るって」
「え……? な、何言ってんだよ」
「ワタシは、自分の方法で探すの、だから」
「だからって、家を出る必要は無いじゃないか!」
「……ごめんなさい、兄さん。でも、もう決めたの。だから、止めないで」
「あ、おい待てよ! 双海!」
「……ん?」
しまった。寝ちまったな。
休みがてら職員室を出て、ふらふら歩いて中庭に来て椅子が空いてたから、つい。いやほら、日射しぽかぽかだし、疲れてたし、ってことで一つ。
「くっ……はぁ」
伸びをして眠気を飛ばす、だが一回では足りず、もう一度……
「……先生」
「うぉ!?」
呼ばれて初めて隣に三夜子が座っていることに気付いた。そのお陰で眠気は全部飛んでいった。
「お、おぅ、三夜子、テストは順調か?」
「ん……大丈夫」
「そ、そうかそうか」
そういえばテスト週間の火曜日以来、会ってなかったな。
「こんな所で何してんだ? もう放課後だぞ?」
「……そっちこそ」
「俺はちょっとした休憩だ、テストの解答のな」
「……そう」
「三夜子はどうだ? 勉強しなくてもいいのか?」
「……どうせやるだけ」
「おいおい、教師の目の前でそれはまずくないか」
「……」
「何故目を反らす?」
「……それより、聞きたいことがある」
それよりレベルの問題じゃなかった気がするんだが、三夜子にとってはそんなレベルだろうな。
「テストの解答なら教えられないぞ?」
「……そんなのいらない」
おいおい学生。
「……で?」
「……あの時…」
「あぁ、あん時な」
「……まだ言ってない」
ちょっと拗ねた口調だ。心なしかむっとしている、一見すると無表情だが。
「言いたいことは分かってるよ、あの時だろ?」
あの時とは、三夜子と武川が剣を手に入れてまだ間もない時、2人が稽古をしようとしたところにあの帽子の男、剣に操られた姿の俺が現れたことだ。
「……そう、それ」
さすがの三夜子もあれは疑問を持ったらしい。何故なら帽子の男の正体である俺が、その場に居たから。本来帽子の男の中身である俺がそ幾つか会話をし、まるで別人の如く振る舞っていたからだ。
「あれはな……」
俺はその謎の答えを教えた。
三夜子と武川の練習が終わった後、一人別れた俺は再び河川敷に戻った。
そこには帽子を被ったあの男。
「お疲れさん。もう外しても良いぞ」
「……はい」
男が帽子を取ると、腰にさしていた剣に帽子とマフラーが吸い込まれ、剣を覆う鞘となった。
刃が全て布に隠れると、そこには今まで男を演じていた、
「悪いな、早山」
「いえ、これもご命令とあらば」
早山が俺に剣を返した。
「しかしこうも上手くいくとは、顔を隠せば誰だか分からないもんだな」
帽子とマフラーがあの男の象徴、三夜子は正体を知っていたが、ああなると恐らく分からなくなると考えて試してみた。
「……うまく、いきましたかね?」
「さぁな、まぁ時が来れば武川にもバレて三夜子にもこの事を聞かれるだろうし、そんときゃ正直に話すとするよ」
「……ですが、何故わざわざこのような事を? 普通に言っても差し支えは無い筈ですが」
確かに、模擬戦のことは分かっていたからわざわざこんなことをしなくても俺が一人で言えば良かったのだが、
「なんつうか、ちょっとした実験も兼ねてたからな」
「実験?」
「うまく行ったから何よりだよ」
「……実験?」
「それは内緒だ。けど、いずれ役に立つ時が来るさ」
「……そう」
「さ、もう話は終わりだ。勉強しろよ」
すっ、と三夜子の頭に手を乗せ……る寸前ですっ、と避けられた。
そのまま再びすっ、と立ち上がって。
「……いつか」
「ん?」
「……いつか、戦う時が来たら……負けない」
「……」
「……じゃ」
去っていった。宣戦布告を残して。
「いつか戦う時……か」
そりゃ、いつか来るよな。互いに剣を持つ、互いに叶えたい願いがある者なんだから……
それが、同じ願いだったとしても。
「あれ?」
そういや三夜子の奴、傘持ってなかったような……
「お兄ちゃん」
「ん? どうした?」
「……私ね、お母さん達を探そうと思うの」
「え……?」
まさか……お前まで?
「だ、大丈夫だよ、俺に任せておけって」
「……ううん。私は、私の手で……コレを使って」
「!? ソレ……どうしたんだよ?」
「……貰ったの、お兄ちゃんの会社から」
「な……!」
「……だから、私は私で、願いを叶える」
「……」
まさか……お前もなのか? 確かに成果は芳しく無いけど……俺はこんなに頑張ってるのに……
「……でも」
「え……?」
「……解き方分からない」
「……」
はは……やっぱりお前は、変わらないな。
「一緒に頑張ろうぜ、三夜子」
頭に手を置き、優しく撫でた。
「……ん」
「もう良いのか?」
「ん……ありがと」
俺は傘と鞄を三夜子に手渡した。
大和先生を見かけたとかで急に鞄と傘を渡された時は驚いたが、ここ数日会ってないって言ってたから話したいことでもあったんだろう。
「何を話したんだ?」
「……いろいろ」
「そうか」
話したと分かればそれ以上深くは聞かない、唯一の兄妹だ、つもる話もあるんだろう。
「じゃ、行くか」
「ん……」
俺達は寮へと向かった。
テストはまだ、半分残っている。




