妖刀村正
「大和先生」
「ん? おぅ、武川」
ある所へ向かうため一人正門へと向かっていると、武川が階段から降りてきていた。立ち止まって武川が隣に並ぶのを待ち、並んで歩きだす。
「今帰りですか?」
「あぁ、ちょっと情報屋のところへ行かなくちゃならなくなってな」
「ホウさんのところへ?」
「そうなんだよー、はぁ……あの人手ぶらで行くと機嫌悪くするからな、行く度に何か持ってかないといけないんだよ」
「あー、分かるような気がします」
それにしても何持ってくかな……基本的に食べ物なら喜ぶんだが、最近食べた物と被るとダメだから。と言っても何を食べてるかなんて知らないし。
「よし、道すがらの屋台で何か買っていこう」
普段出歩かないあの人だ、きっと屋台の物ならそうそう被らないだろう。
そんなこんなで、正門についた。
「じゃあな武川、テスト頑張れよ」
「あの、大和先生……あぁ、行っちゃった」
武川が何か言いたそうだったが、そのまま真っ直ぐと駅へと向かった。
降りた駅で見つけたのは肉まんの屋台、俺はさっそく肉まんを買い込んだ。あの人見た目通りに中華系が好きなんだよな。
で、情報屋さんの事務所兼自宅に向かうと、
「その肉まんなら、六日前に食べたばかりだガ?」
うっわー……被ったー。
「まぁいい、旨かたから許してやる」
ほ、良かった。
「ま、ここへ来たのは情報のためだナ?」
「いえ、本社に呼ばれたんですけど、ここでも良いって言われたんで」
「ン? そういえばそんなこと言われたな。またく、ここは本社の便利屋じゃないんだぞ」
深々と座っていた情報屋さんはは機嫌悪げに足を組んだ。とりあえず空いている机に買ってきた肉まんを置いて、
「まぁまぁ情報屋さん」
「バカ野郎」
ビュッ!!
「うぉ!?」
呼んだ途端、本が飛んできた。危ねぇ!
「そう簡単に情報屋という名前を口にするな」
「え? でも俺、名前知らないっすけど」
「当たり前だ。誰にも名前を言たことは無い」
「じゃあ、なんて呼べばいいんですか?」
「情報屋の、ホウさんと呼べ」
ホウさん? 情報の報から取ったのか? そういえば武川もそういう風に呼んでいたな。
「じゃあ、ホウさん」
「なんダ?」
「剣狩りの男と戦ったと聞いたんですが」
「あぁ、あのナルシストかヤツの情報ならもう集またぞ」
ホウさんは手を伸ばしたところにあった一枚の紙を俺へと投げた。今度は受け取り、目を通す。
男の名前、年齢、出身地、持っている剣の能力まで、事細かに書かれている。
「これを数日で?」
「剣の部分はな、男の情報は知り合いのところで見繕てきた」
ホウさんの情報はあくまでも剣に関すること、およびそれに付随する色々で、人物については専門家の情報屋仲間に聞いてきたという。ここまで一人の男について調べるなんて、その情報屋も凄い人だ。
「剣に1日、男の方はあちらで調べに1日、遊びに付き合うのに2日だ」
遊びに付き合う? ホウさんもだけど、その情報屋も一癖ある人なんだな。
「またく、白子はともかく黒子のあの元気はどうにかならないものか」
はぁ、とため息をついた。あのホウさんにため息とは、いったいどんな人物なんだその情報屋。
「とにかく、あのバカはまだ諦めていない。第一目的としてる剣は……分かるよナ?」
「……えぇ、まぁ」
剣狩りの男がこうして一人で派遣されたのは、実力を認められた。あるいは狩る対象に対して効果を発揮するかで決められる。ホウさんに負けかけたところから考えるに、この男は後者だろう。
炎を操るフランベルジュの使い手、その狙いは、恐らく……
「それとだ」
「はい?」
急にホウさんに声をかけられ、前を向く。
「貴様、あの剣を人に渡したナ?」
「あぁ……はい」
あの剣とは、学校に刺さっていた、かつて『森の柱』という噂と名前を広げて学校に馴染ませていた物だ。
「確かアレはお前の元に有り、渡す権限も持ていたんだたな。アイツは、それだけ叶えさせたかた願いの持ち主なのカ?」
「そうですね……そうかも、しれません」
アレでもしも願いを叶えたら。もしくは現状に変化があれば、それだけでもいいと思っていた。
結果として、今はとても良い方向に動いてくれている。
「は、どんな願いで、どんな思いで剣を渡したかは知らんが、百の勝利を刻み込めばどんな願いでも叶えてしまうのが剣だ。その一振りを持つお前も、それぐらいは分かているだロ?」
「もちろん……ですよ」
俺は服のポケットの中のそれを強く握った。
この組織に、具体的な名前は無かった。
元々の発起人と同じ思いを持った者同士が、同じく似て非なる思いを持つ組織と対立するために立ち上がったもので、呼び名に困った誰かがつけたものがそのまま名前となったらしい。
俺がそこに来た時、まず命じられたのは『剣を制御しろ』だった。
100ある内の7振りにして、能力とパズル錠が群を抜くことから名付けられたレベル5の七剣。
俺は、その一振りを解いてしまったのである。
それに至るまでに、俺は一度死にかけていた。
研究の結果判明したことなのだが、レベル5のパズル錠はレベル1~4のように鉄や材木なので作られた解ける答えのある物ではなかった。
剣の意思が心に問いかけ、それに見合う答えを出すことで扱う事が出来るようになる。それが、俺が解いたレベル5のパズル錠。組織にあるもうひとつのレベル5も似たような錠らしく、それゆえに扱う人間は一人だけに限られた。
それによりレベル5の一振り、刀の『布縫』は俺が使うことになった…………んけどな、使うってより、使われてる関が否めない。
『布縫』のモデルとなったのは……妖刀村正。切る相手を求めて使用者を操るという有名な日本刀だ。
一度俺が剣を抜くと、体を守るように能力の布が身を包んで……そのまま体の自由を奪って、勝手に話し出す。
『はっはっはっ! 貴様が俺の所有者か!』
初めて話し出した時はかなり驚いた。誰の声か分からずに困惑していたら自分はこの剣だと自己紹介してきた時は更に驚いた。
『俺をうまく扱いたくば、制御してみるんだな!』
といった感じに剣の制御を試みる日々が始まったんだが……どうもうまくいかない。
しかしその間に挑まれた戦いは全て俺の身体を操ったアイツが戦い、強力な能力と俺には出来ない剣さばきで勝ってしまった。
そんなある日に、俺の人生を大きく変える出来事が起こった。




