糸結びのパズル
「ねぇ聞いた兄さん? あの事」
「あぁ、昨日な」
まさか、家にそんな家訓があったなんて。元々他の家と違う所はあると思っていたけど、そんなものもあったとは。
「順番で行けば、最初は兄さんなんだけど」
「大丈夫だ。順番も何も、俺が最初で最後。お前達には回さねぇから」
「兄さん……」
「心配すんな、俺は平気だから。2人で見守っててくれ」
「うん……分かった」
おそらく、アイツはこの時俺が思っていたのとは、違うことを考え、異なる感情を持っていた。
だから、予想もできなかった、あんな事に……
「……大和先生」
「ん?」
職員室に入ろうとした時、後ろから聞き覚えのある声に呼ばれた。
「どうした? 早山」
振り向くと予想通り、早山がいた。
「部室の鍵を借りに来ました」
「はいよ、ちょい待て」
職員室に入り、鍵を取って戻るくる。
「ほれ」
「ありがとうございます……それと」
「なんだ?」
「……一度、顔を出せと」
「部室にか? その言い方だと三夜子だな」
「いえ、あちらです」
「……」
分かってて冗談を言ってみたが、スルーされたな。顔を出せか。そういや最近行ってなかったからな。
「本社にか?」
「はい。もしくは、情報屋のところへ、と」
本社か情報屋か……どっちでも良いなら、やっぱり近い方が楽だ。
「分かった。情報屋の方へ行く」
「分かりました。では」
早山が去り、俺は職員室で自分の席について、考える。あの人何かお土産持ってかないと機嫌悪くなるからな。何を持っていくべきか……
「で、これを解ければ良いらしい」
「こんなものが?」
「そうらしい」
「……本当に大丈夫なの? こんなもの簡単に解け…」
「解け無いんだよ、これが」
「え?」
「昨日から、五時間ぐらいやってんだが、全然解ける気配が無いんだ」
「それって……それはそれで大丈夫なの?」
「ま、少しずつだが進んでるからいずれ出来るさ。だから心配すんな、お前達はお前達が進みたい道を進めよ」
「……うん、分かった」
「……よし、出来た」
テスト週刊4日目、テストまで4日切った今日。ようやくテストが完成した。初めてってこともあるだろうけど、まさかこんなに時間のかかるものとは思ってなかった。今度はもう少し早く初めないとな。
「大和先生」
「ん?」
入口を見てみると、月乃がいた。なるほど今日の鍵取り番は月乃か。もう目的は分かってるので、俺は先に鍵を取ってから入口へと向かった。
「ほれ、部室の鍵」
「え? アタシまだなにも言ってないんですけど」
「毎日取りに来てりゃ分かるっての、しかし熱心だな、もう3日連続だろ?」
「いやぁ、三夜子が毎日のようにやろうやろうって言うので」
三夜子がか、あいつらしいな。まぁそれで集まるみんなもみんなか。
ちなみにパズル部の、押川と月乃と早山も、俺と三夜子が兄妹だと知っている。
「だからってたまには息抜きも必要だろ。そうだ、ちょっと待ってな」
一旦席に戻り、目的を持って月乃のところへ。
「コレ、息抜きにやるといいぜ。多分三夜子なら答え知ってるだろうし」
それは部長を決める時に使った、糸結びのパズル。
「コレは……三夜子に聞かなくても、アタシ一人で解いてみせますよ」
月乃に握りこぶしを作りながら宣言された。よっぽど部長になりたかったのか、三夜子に負けたのが悔しかったのか。
「ずいぶん、三夜子と仲良くなったよな」
「え!? いや、その……」
月乃は押川とは全く性格が違うから、まさかここまで仲良くなるとは思わなかったんだよな。いつの間にか名前で呼んでるし、いったい何が2人を結びつけたんだろうか。
「と、とにかくえっと……し、失礼しました!」
慌てながら月乃は鍵とパズルを受け取って、走り去っていった。
「……」
一応、三夜子の友達は現時点で4人か。これはまだ、少ない方だよな……
でも、数よりも親しさ。三夜子に必要なのはそっちだ。三夜子に深く関わってくれる人だ。
まぁ本当に欲を言えば……いや、それは求めるだけダメだな。
今は、友達どうしで楽しむ時なんだ。
糸結びのパズル。
それは我が家に伝わる独特な物で、鉄の板などに糸や紐を抜けないように結びつけた手作りのパズルだ。
子どもの頃から、遊びと言われれば、決めごとと言われればコレだった。年齢的に数多くやっているというのもあり、俺はそれを解くのが兄妹の中で一番旨かった。
そんなある日、両親から新しい糸結びをもらった。両親曰く、最後にして最大難の糸結びだと。
そして……コレを解けたら、どんな願いでも叶う物をくれると。
……正直、そんな物はいらなかった。
ただ、コレを解いて、願いが叶えられるというなら、叶えてもらおうと思い、俺は糸結びを解き初めた。
まず一本、取れるまでに3時間掛かった。
二本目が取れたのは、その7時間後だった。
どうも取れな過ぎず、糸の数を数えたら……数えるのが嫌になるくらいあった。
妹に心配された。だが大丈夫だと言っておいた、実際には三本目からまだ解けてなかったが。
ある時から、容易に取れるようになってきた。
だが、何故だろう。
取っても取っても、
解いても解いても、
一向に減らない。
それどころか、
糸が増えているように見える。
そんな訳は無いが、
何故かそう見えてくる。
次第に、頭の中は糸結びのことだけになった。
頭の中でも、糸が張り巡らされ、
次第に解けるどころか、結ばれていった。
そして、そのまま……




