テスト一週間前
「お兄ちゃーん、早くおいでよー!」
「まったく、アイツは元気だな」
「そう。でも、暗いのよりは良いよね」
「違いない」
元気過ぎるぐらいならいい。逆に暗いのは困る。表情が読みにくくなるからな。
まぁ、コイツ等がそうなることは無いだろう。
何故なら、俺がそうはさせないからだ。
side…… 大和先生
「ふわぁー……」
椅子の背もたれに背を預け、伸びをして眠気を飛ばした。
さすがに徹夜は不味かったか。でも仕方ない、なにせ一週間前だってのにまだテストが出来てないんだからな。
「お疲れのようですね、大和先生」
隣の席の大菊先生が、声をかけてきた。
ちなみに先生方は俺の名字を知っているが、気を使ってか、名前で読んでくれている。
「ははは、これは罰みたいなもんですよ。まだテストが完成してない俺へのね」
教師になって初めてのテスト作成。まさかこんなに面倒なものだとは思わなかった。
「大変っすね〜、大和先生」
真正面の席の、と言っても互いの荷物とある理由で顔が見えない桜間先生の声が聞こえた。
「桜間先生こそ、テスト作り大変じゃないですか?」
桜間先生は現代文の教師、明らかに俺よりも作りにくい筈だ。
「さすがにもう慣れましたよ、教職10年をなめんで下さい」
桜間先生は今年で教職になって10年目らしいが……それを聞く度に、今いくつなんだ? と訊きたくなるのはおそらく職員室にいる先生方全員同じ気持ちだろう。
「大変ですねお二人共。私は体育教師ですので、テストはあまり凝ったものは作りませんでした」
大菊先生は体育教師にしてこの学校で最も名を上げている女子バスケ部の顧問。なんでも、先生が来てからその実力が大幅に上がったとか。
「テスト期間となると部活が休みになりますが、バスケ部は皆、部室に集まり勉強会を開いています」
「あぁ、こっちもですよ」
「ふへぇー、やる気のある生徒ばかりでいいっすね。こっちなんかだ〜れも鍵借りに来ませんよ」
桜間先生の担当は……
「大変ですね、演劇部も」
あぁそうそう、演劇部だ。
「まったく、これで補習になって夏休みの練習に出れなくなったとか言ったら怒りまくりますよ」
分かりやすく不機嫌だな。姿は見えないが、どんな状態なのか予想がつく。
「さくらちゃ〜ん」
そこに、生徒の声が聞こえた。テスト期間中は職員室への出入りが禁止のため、近くの先生に頼むか、大声で目的の先生を呼ぶことになる。まぁ大方は前者だけど。今回は後者だ。
「あ、あいつ! こらぁ! 職員室で大っきな声でさくらちゃんって呼ぶなぁ!」
さっきの声に勝る大声で、さくらちゃんこと、桜間先生は入口へと向かった。
「えへへ、ごめんごめん」
「まったく……それで? 何のよう?」
「部室のカギを借りに来ました〜」
「部室の鍵? あー、勉強会ね?」
「いえ、最後の日に置き忘れた物を取りに」
「帰れ」
桜間先生は生徒を閉め出した。
「えぇ!? ちょっとさくらちゃん! いや桜間先生! カギ貸してー!」
扉越しの籠った声が聞こえる。
「うっさい! テスト終わるまで我慢しろ!」
「そんな! アレが無いと勉強できないんだよ!」
「知るか! 赤点取ってしまえ! そして補習になって夏休みに部活来れなくて私に怒られまくられてしまえ!」
「そんなー!」
……桜間先生、教師としてその態度はどうなんでしょうか? これは恐らく職員室内にいた全ての先生の気持ちだ。
「失礼しま〜す」
別の生徒の声が、もう片方の扉が開いて聞こえた。この聞き覚えのある声、
「大和せんせ〜」
そしてこの独特の呼び方、押川だな。
「おぅ」
席を立ち、入口へと向かった。
「部室の鍵を借りに来ました〜」
おぉ、我がパズル部は今日も勉強会か、関心関心。って言っても、昨日のはちと変則的だったけどな。
「ちょい待ってな」
職員室の奥にある教室の鍵を集めた棚へ、パズル部部室として使っている教室の鍵を取って押川のいる入口へと戻った。
「はいよ。今日も行けないけど、終わったらちゃんと返しに来いよ」
「は〜い」
「あ、大和先生助けて! 桜間先生の機嫌が!」
そこへ、閉め出された生徒が俺が出てきたのに気づいて助けを求めに来た。張本人であるすでに桜間先生は自分の席に戻っている。
えっと、確か一年生の……やべ、名前分かんねぇや。まぁ仕方ないか、一年生の担当してないし。
「そんなに大事なもんなら置き忘れるなよ。ちなみにその忘れものって何だ?
「ふでばこを!」
筆箱!?
「あ〜、筆箱がなくちゃ勉強出来ないよね〜」
確かにそうだが、そうじゃないだろ押川。
「部活最後って、昨日の授業はどうしたんだ?」
「友達に借りて乗りきりました!」
「じゃあ、何で昨日の内に来なかったんだ?」
昨日気づいてたなら、その日の内に鍵を借りに来れば良かったのに。
「今日部活ないけど鍵取りに行くのめんどうだな〜。とか?」
「はぅ! 何故それを!?」
偶然に押川の推理が当たった。
「はぁ……しょうがねぇな」
俺はもう一度鍵の入った棚へと向かい、演劇部の鍵を取った。確か演劇部ってパズル部の隣だったよな。
「ほれ、行くぞ」
「ありがとう大和先生!」
忘れ物を取った一年生(蔓という名前だと聞いた)は部室から筆箱を持ってくると俺に礼を言うなり走り去っていった。
「さて、さっさと戻るか」
演劇部の鍵を閉めて、俺が踵を返すと、
「大和せんせ〜、ここまで来たなら顔出してけば?」
押川に止められた。確かにこのまま少し待ってれば三夜子達もやって来るだろう。けど、
「悪い、まだやることがあるんだ」
俺は待たずに、部室練を後にした。




