風邪ひきの担任
大和先生の家は、曰く本当は2DKだが一部屋は荷物で埋まっているから実質1DK。らしい。その言う通り、片方の部屋には大量の段ボールが積まれていて入ることは出来なくなっていた。
「まぁ座ってくれ」
俺達は大和先生に進められた椅子に座った。俺の前に先生、隣に三夜子が座る。
「わざわざ悪いな」
「いえ、俺は三夜子についてきただけなので」
「……私はただ何となく」
「おいおい三夜子、何となくで見舞いってどうなんだよ」
「……さぁ?」
「さぁ、って……ははは、まぁ三夜子らしいや」
大和先生はけらけらと笑った。良かった、学校を休むほどだからかなりの状態を予想していたけれど、思ってたより体調は良さそうだ。
「クラスの皆、心配してましたよ。いったい何があったんですか?」
「あー……ちょっと川に落とされ……いや落ちてな、それでだ」
川に落ちた?
「何でまた川に?」
「色々あってな」
「はぁ……」
そう簡単に川には落ちれないと思うんだが……それに最初、川に落とされたって言いかけていた気が。
「……明日には来れる?」
「おぅ、見ての通り平気だ。今日だって様子見で休んだようなもんだからな」
「……そっか」
三夜子も安心したのか、表情が柔らかくなったような気がする。
何となくとか言ってたけど、本当は心配だったんだな。
……side 大和
いやいや……まさか三夜子が武川を連れてお見舞いに来るとは。俺はてっきり来ないか、もしくはパズル部全員とかで来るもんだと思ってたからな。
まぁ押川には少々見られたらまずい剣関連の資料がいくつもあるんだが、これはこれでまた予想外だった。
「そういや、テストはどうだった?」
「可もなく不可もなく、て感じですかね」
「三夜子は?」
「……大丈夫」
言って三夜子は視線を反らした。
「大丈夫なら視線を反らす必要無いんじゃないか?」
「……」
スルーですか、テスト大丈夫だよな? 追試や補習の可能性があるってことか?
「……それより」
視線を戻して、話題を変えた。いや、テストが気になるんだが……まぁいいか。
「……剣狩りは?」
「剣狩りか……」
俺が会いに行ってからというもの、ホウさんから連絡は一切来ない。倒したという報告も、退けたという報告も無いから、剣狩りの男はどこかに隠れていてホウさんが探しているという状態だろう。この町、わりと道が入り組んでるからな、人探しは中々難しいんだ。
「進展無し。って言っておく、まだこの辺りに居る筈だから、気を付けろよ2人共」
まぁホウさんのことだから倒した連絡をしないってのも考えられる。今度行った時に、それなら倒したゾ? とかさらっと言いそうだ。
「……そう」
三夜子は視線を下に落とした。ひょっとして、病み上がりの俺を心配してるのか?
「大丈夫だよ。俺達の方でなんとかするから、心配すんな」
「ん……分かった」
「さて、そろそろ帰った方が良いんじゃないか?」
「……まだそんなに遅くない」
その通り、まだ午後三時前だが。
「これでも俺は一応病人だからな、2人に移す可能性だってある。長居は進めないってことだ」
「えっと……そういう事でしたら、俺達はこれで」
武川が席を立った。だが三夜子は座ったままだ。
「三夜子、いくら治ったとはいえ油断大敵だぞ、俺達がいたら大和先生が休めないだろ」
「……分かった」
武川の説得で三夜子が席を立った。2人を玄関まで見送って、
「それでは大和先生、お大事に」
「わざわざサンキューな」
「……明日は絶対に」
「分かってるよ、絶対に行くから」
「ん……それじゃ」
2人が部屋を出て、扉が閉まった。
「……」
俺は鍵を閉めて、
「……ああ言った手前、這ってでも行かなきゃいけないな」
壁に体を預けた。意外に冷たくて気持ちいい。
「ごほ、ごほ……」
実は、全然治ってない。いくら夏とはいえ濡れた布を大量に着込んでて、それにより体温が奪われて、そりゃあ風邪もひくさ。それに夏風邪は治りにくいものらしい、さすがに1日じゃ治らないか。
「今から安静にして……薬のんだらマシにはなるか」
ふらふらと動きながら、段ボールで入口を塞いでいた布団のしいてある部屋へと向かう。
その時、携帯が鳴った。
「これもまた、ナイスタイミングで」
特にディスプレイも確認せずに携帯を開く。
「もしもし」
『風邪と聞いたゾ?』
電話の相手はホウさんだった。
「心配してくれたんですか?」
『貴様がバカじゃないと証明されたのだな』
ありゃ、そういう電話ですか。
『いや、夏風邪はバカがひくという言葉があるな、ならば貴様はやはりバカだ』
「わざわざそれを言いに電話してきたんっすか?」
それはそれで、心配してくれてるんだろうか?
『まさか、こんなの次いでに決まている』
ですよね。とういうことは別に話があるということで、それはどう考えても剣狩りの男についてのことで、ホウさんはそのまま本題に入った。
『剣狩りの男が動き出した。しかも今他の剣の持ち主に出会た、一人は武川とかいうお前の生徒と、もう一人は確か、貴様の妹だと思たガ?』
「なっ!?」
三夜子と武川が……2人は今出て行ったばかりだぞ、てことは、この近所じゃないか。
『貴様の体調がどうかは分からんが……コレを聞いて貴様は何をすル?』
「……」
そんなの、言われなくても一つしかない。
「ホウさんも近くにいるんですか?」
『見えるところにはな、それがすぐに行ける距離だとは思わないことだ』
「分かりました。わざわざありがとうございます」
『礼を言ている場合カ?』
「……そうですね」
携帯を切り、俺は駆け出した。
本調子じゃない体に、鞭を打って。




