いざ、床屋
……で、次の日の朝。一通のメールを受け取った。
おめでとう武川
パズル部部長のお眼鏡にかかり、副部長に選ばれたぞ
「お眼鏡って……」
確か目上の人に気に入られた時に使う言葉の筈。俺と三夜子、同学年なんだが……まぁそれは置いておこう。メールにはまだ続きがある。
ついては、副部長としての初仕事を提案させてもらう
初仕事か、副部長って部長の代わりや補佐が仕事の筈、てことは、三夜子が関わってくるのは確定だろう。
その内容とは……
「……」
一夜明けて土曜日、休日の今日、学校へ来るものは部活に入っている者ぐらいだろう。
俺もその中の一人……だと思う。
断言出来ないのは、学校に来てはいるが正門の前で止まって校内に入っていないことと、自分の格好が制服では無く私服であることだ。
「はぁ……」
思わずため息をはきながら、携帯を開いて昨日届いたメールを読み返す。
重要なのは、最後の一文。
その内容とは、パズル部の部長三夜子を、床屋に連れていく事だ!
携帯を閉じた。最初読んだ時は何の冗談かと思ったが、ちゃんと書かれているし、大和先生に確認に行ったら、
『ま、よろしく頼む』
とだけ、いくらテスト制作が忙しくて三夜子の髪を切ってやれないからといってクラスメイトの、しかも異性に頼むのはどうなんだ? まぁそんなことを言ったら最初からそうだが。
とにかく、どうにか避けようとしてまず三夜子本人にこのことを伝えると、
『……土曜日に』
日付を決められてしまった。確定率が上がったのは避けられないようなので、二人きりを避けるために別の誰かを呼ぶことを考えた。
昼休みにA組に赴き、押川にこのことを伝えると、
『副部長おめでと〜』
まず祝福され、
『ゴメンねそうやん、土曜日はボク部活があって』
動向はムリだと言われた。
今にして思えば押川の部活終わりを待てば良かったのだが、その時の俺にそれを考える余裕は無かった。
早山も似た理由でダメ。ならばと、月乃を訪ねる。至った経緯から話始めると、
『良かったわね!』
なんか怒りぎみに祝福された、と思う。
『もしかして月乃お前、部長にはなれなかったからせめて副部長になりたかったのか?』
『そ、そんな訳無いじゃない! 副部長になんてなりたくなかったわよ!』
すっごくなりたかったみたいだな。
『副部長に選ばれたんなら、ちゃんと仕事をこなしなさいよ!』
という訳で、月乃もダメ。
最後の望みと思い、三夜子に床屋の場所を伝えてみると、
『……じゃあ、十三時頃に正門で』
案内させる気満々で時間を指定してきて、結果、完璧に避けて通れない道になってしまった。
という訳で、三夜子を正門で待っている状況の今に至る。
一応部活動ではあるんだろうけど、別に校内に入るわけでは無いから私服で来たが、まぁ大丈夫だろう。
「……お待たせ」
左側から声が聞こえた。振り返り見ると、そこにはいつもの制服とは違う姿の三夜子。
そういえば、三夜子の私服姿ってあまり見たこと無いな。いつだったか散歩に付いてきた時ぐらいか。
まぁ珍しいものが見れたということで、割り切るとしよう。
住宅街を抜けて河川敷に、そこから橋を渡って商店街一直線の道を抜けて駅前へ。電車の切符を買う前に、一駅分だから歩いて行けなくは無いぞ? と相談してみる。たかが百三十円だが。
「……大丈夫、困らない」
という訳で電車に乗り込むと、運良く座席が空いていた、ただし一席分。
「座れよ」
「……大丈夫、困らない」
さっきも同じセリフを聞いたような気が……まぁ偶然だろう。どうせ一駅だ、俺達は入った扉の前で立っていることにした。
「……今日」
「ん?」
扉が閉まるのとほぼ同時に、三夜子が呟いた。
「……良かったの?」
言って、首を傾げる。結んだ髪がぴょこんと揺れる。
おそらく、今日付き合って良かったのか、ということだろう。
「まぁな、特に用事も、家の手伝いもなかったし」
「……そっか」
納得したように頷いた。そんな時、電車は目的の駅についた。さすがは一駅、短いな。
改札を抜け、駅前に出る。
「床屋は確か……こっちだ」
俺が進むと、三夜子は隣に並んだ。辺りをきょろきょろと見回している。
「珍しいのか?」
「ん……無いものがある」
意味深な言葉を述べたが、確かにそうだ。ここの商店街には向こうには無い店が並び、逆に向こうにある店は並んでいない。両方を合わせると、ちょっとした都会より充実した買い物が出来るだろう。
そして床屋もまた、こちらにしか無かった。
「ここだ」
バーバー鋏
まさに床屋な名前だが、実はこの漢字、普通は「はさみ」と読むが、これは「かなばし」と読むのが正解で、しかも経営者の名字だそうだ。鋏関係の仕事につけ、と言わんばかりの名字だな(言っていてなんだがなんだ鋏関係の仕事って)。
しかし、立ち止まって見て違和感に気付いた。何故か、店の中が真っ暗だった。
いや、電気がついていないという訳ではなく、本来店内が見えるはずの窓に何かが貼ってあって中が見えなくなっているのか。
「休みか?」
バーバーポールが回っているからやってるはずだが、
「……あ」
三夜子の声に前を向くと、床屋の扉が開き、人が出てきた。俺達と同じぐらいの男子生徒、なぜ生徒か分かったかと言えば、着ているものが制服だったからだ。アレは、この辺りの高校のものだな。
男子生徒は俺達を一瞥して、行ってしまった。見た目からして、散髪を終えた後のようだ。
「客が出てきたってことは、やってるな」
「ん……」
俺が扉を開け、床屋の中へと入る。そこで見たもので、暗さの原因を知った。
「いらっしゃいませ」
床屋の店主が俺達に挨拶をしながら、何故か鏡にかかっている暗幕を剥がしていた。
それだけじゃない、外から見えていた窓にも同じ暗幕が貼ってある。暗さの原因はそれだったか。
しかし普通なら鏡を見て散髪するはずだが、それを何故暗幕で隠していたんだ? 今しがた出て行った男子生徒を散髪したばかりのように見えたが、まさか、鏡を見ずに?
もしかしたら、これもこれで、不思議な出来事なのかもしれないな。




