情報屋の
「2人ともかな?」
「あ、いえ、こっちだけです」
立ち止まっていた俺達に床屋の店主が聞いてきたので、三夜子を指しながら答えると。
「じゃあここにどうぞ」
暗幕を剥がしたばかりの前の席を示した。
「……」
しかし三夜子は席に向かわず、俺の方を見た。
「どうした?」
「……創矢はどうする?」
俺か? 別に髪を切るつもりはないし、だからといって待ち合い席でただ待っているのもな。そんなに離れていないとはいえあまり来ない場所だ、少しこの辺りを歩いてみるか。
「ちょっとこの辺りを見てくる、少ししたら戻ってくるから」
「ん……」
納得したのか、踵を返して勧められた席へ向かった。
「程度によるけど、三十分ぐらいかな」
会話を聞いていた店主が俺に告げたので、分かりましたと言って俺は床屋を出た。
よし、これで仕事完了だな。後は散髪後の三夜子と共に寮へ帰ればOKか。
しかし、さっきの暗幕はなんだったんだろうか? まさかさっき会った男子生徒が『自分の姿を見たくないんです』とでも注文してわざわざ暗幕で覆ってもらったとか……な訳ないか。
もしそうなら、とんだ変わり者か、さながら逆ナルシストだな。
まぁそれはともかく、三十分か、この辺りを歩いてくるとは言ったが、地図は大体入ってる。
この辺りを主に走っている電車には、終着駅という概念があまり無い。それというのも、線路が一周しているんだ。
つまり従来の電車のような上りと下りではなく、ぐるりと回っている電車のように西回りと東回りと言った方がしっくりくる。駅の数は全部で26、一駅間は大体3分、短いところは1分そこらの為、一周を一時間で行えてしまう。急行に乗ればなおさら早い。
そんなこの電車、利用者には学生が多く停まる駅を最寄りとする学校が小、中、高、大を合わせて20もある。その中で特に多いのが高校で。俺が通っているところや、冬野が通っているところ、先ほど会った男子生徒が通っているところ等、計7校の学生が溢れている地域である。
特に説明することも無かったのでこの辺りの地域の説明をしていたが、それでもまだ二十分以上余った。
残り時間をどうするかな……と考えたその時、何か良い香りを嗅いだ。
そういえば、ここの駅前にも出店の車が止まっていることがあったな。交互に店を出しているのもあると聞いたことがある。
集合時間が十三時という時間だったから、実は昼を抜いてきてたんだよな。帰り道で何か買い食いするつもりだったし。
時間的に……今から駅前に行って、何かを買って、床屋へ戻れば、ちょうど良い時間かもしれない。
よし、行ってみるか。
そして駅前、そこに出店の車を一台見つけた。旗には「肉まん」と書かれている。
今まさに買った人が車から離れ、誰もいなくなったので俺は車の前へ、
「肉まん一つ……いえ、二つ下さい」
せっかくなので三夜子の分も買っていこうと数を増やしたが、
「次が出来上がるまで三十分ぐらいかかりますが、よろしいですか?」
どうやら売り切れらしい。
「え? 一つも無いんですか?」
「前のお客さんがあっただけ買っていきましたので」
あるだけ買うなんて、どれだけ肉まん好きなのか。まだその辺にいるだろうと後ろを向くと、
「あ、あの人」
そこには、あの情報屋の女の人の後ろ姿があった。
「どうしますか?」
肉まん屋の人が訊いてくるのを俺は断り、慌てて女の人を追った。
「あの!」
通りに入ったところで追い付き、声をかけると女の人は振り返った。その右手には肉まんを持ち、左手には紙袋、その中身は全て肉まんなんだろう、上から少し見えていた。
アレで何個あるんだ、とも思ったが、今はそれどころじゃない。
「キミは確か、いつかの学生クン?」
「あの、情報屋さん、ですよね?」
「む……」
情報屋と言った途端、女の人は眉をひそめた。そして手に持っていた肉まんを一口で含んで、噛まずに飲み込んだ。
「それをドコで聞いたか知らないが、あまりその名で呼ぶのはヤメテくれ、広まると仕事にならなくなる」「す、すみません。では、何と呼べば?」
「そうだな……」
女の人は考えるように目線を斜め上に上げながら右手で紙袋をあさって肉まんを持ち、口に含んで、また噛まずに飲み込んだ。熱くないのか?
「んぐ……ならば、情報屋のホウさん、と呼べ」
「はい?」
ホウさん? 情報屋から取ったなら、ジョーとかが普通じゃないのか? まぁ情報屋という時点で普通じゃないだろうけど、この人もまた不思議な人だ。
「分かたカ?」
「は、はぁ……」
「それで、私を呼び止めた理由はなんダ?」
「あ、えっと……」
しまった、後ろ姿を見つけたからつい追いかけたが、別に何か話す訳ではなかった。
「とは言うが、大体分かてる。情報だロ? 私に話しかける人なんて情報を求めてる奴以外いない」
ホウさんは踵を返しながら右手で紙袋を漁って、
「この先に座れる場所がある。そこで話そうじゃないか」
肉まんを含んでから歩き始めた。俺はその後に続いて歩いて行くと、そこには公園があった。
奥まったところにあるせいか、休日だというのに俺達以外誰もいない。その公園の奥にあったベンチにホウさんは座った。
「デ? 学生クンが欲している情報とはなんダ?」
「えっと……」
何を聞けばいいか……あ、そうだ、まずは、
「あの、大和先生ってご存知ですか?」
情報屋のホウさんのことは大和先生から聞いた。必ず知っているだろう。
「大和先生……名字ハ?」
「七ヶ橋です。七ヶ橋大和先生」
「七ヶ橋……あぁ、思い出した。あのバカか」
ば、バカ?
「そういや教師をしてるとか言てたが、学生クンは奴の授業を受けてるのカ?」
「は、はい、担任でもありますけど」
「担任……ハッ」
ホウさんが急に鼻で笑った。
「20そこらの若造が教師で担任とは、いくら身内の為とはいえ考えものだな、奴の授業は楽しいカ?」
「はい、なかなか楽しいですよ」
大和先生の授業はクラスでも評判だ。楽、ではなく、楽しいという部類に入るとクラスメイト達は言っている。
ホウさんは紙袋から取り出した肉まんを飲み込み。
「そうか、バカはバカなりに頑張てるみたいだな。まぁ学生に私の事を言てしまうのはバカだがな」
新たな肉まんを袋から取り出した。
「それで、あのバカがどうかしたのカ?」
「えっと、剣狩りの…」
「なるほど」
まだ途中だったが、ホウさんは何か察したらしい。
「うすらと感じてはいた、学生クンも剣を持ているようだネ?」
「……はい」
学生クンも、ということはこの人剣を持っているんだろう。
「あの時に声をかけたのもそれを感じたからだ。しかし、本当に持ているとは思わなかたぞ、レベルや能力は把握しているカ?」
「はい、一応は」
俺はポケットに入れていた小さくしている剣を取り出して見せた。
「む……これはこれは、なかなかの代物を持てるね、学生クン、名ハ?」
「武川です。武川創矢」
「ふむ、では創矢、この剣はそこらのものとは一味も二味も違うものだ。よくそれを手に入れたな、どこにあっタ?」
どこにあったって……
「学校の体育館裏に、大和先生が教えてくれました」
「ほぅ、あのバカがか、大方、心そこに在らずだたのか、もしくは創矢なら出来ると思か、もしくは、何かのためだたのか、まぁ知らないが。もう戦いはしたカ?」
「はい、三戦ほど」
「そうか、まぁいい、今日は機嫌が良くてな、それについて教えてやる、ホレ」
そう言ってホウさんが渡したのは、肉まんだった。
「よく味わて食えよ」
そう言ったホウさんは、俺に肉まんを渡すと紙袋から新たな肉まんを取り出して、一口で噛まずに飲み込んだ。




