兄弟当然
「月乃って実は双子だったりしないよな?」
「はぁ? そんな訳ないじゃない、急にどうしたのよ創矢」
「いや、何でもない、気にしないでくれ」
部活の時間、まだテスト期間では無いために全員が集まることは無かった。
部室には俺と三夜子、そして、
「というか、朝のあのメールはどういう意味?」
A組の月乃 雅。同じパズル部の仲間にして、剣を持つ者だ。
「……そのままの意味」
「勉強会って、確かにテストが近いけど部室を使ってもいいわけ?」
「あぁ、その辺りは先生に了承済みだ」
「ふぅーん。まぁA組とC組は担当教員が同じだから勉強するところはほとんど同じよね。ところで七ヶ橋、その髪どうしたの?」
月乃は三夜子のことを名字で呼ぶのか、やっぱり自分の名前に近い名前を呼ぶのは恥ずかしいらしい。
「……邪魔だから縛った」
「邪魔って、切ればいいじゃない」
「……切ったこと無い」
昨日もしたな、こんな会話。
「じゃあいつもはどうしてるのよ」
「…………兄さんに切ってもらってる」
三夜子は少し考えた上で、そう答えた。さすがに大和先生が兄だとは言えないか。
「へぇ、七ヶ橋ってお兄さんいたんだ。創矢は知ってた?」
「一応な」
「兄弟が居るのって賑やかそうで良いわよね、アタシ一人っ子だから、兄弟って憧れるのよ」
「……そんなに良いものでも無いと思う」
ふいに、三夜子が声を低く呟いた。
「そ、そうかしら」
触れてはいけない部分だったのか? と困惑する月乃が聞き返す。
「……全部が全部、良いことだらけとは限らない」
三夜子相変わらずの無表情、しかしその声には少なからず感情が隠っていると思う。実際の確定は出来ないが、二月程三夜子と一緒に居て表情が読めるようになってきた筈だ。
「そ、そっか……なんか、ゴメン」
月乃は顔を落として謝った。しかし三夜子そういう思いで言った訳ではない、なので、
「そうでもないんじゃないか?」
俺はそれに異議を出した。2人の視線がこちらに向く。
「全部が全部良いことだけとは限らないって、それに兄弟も一人っ子も関係ないだろ。俺も一人っ子だけど、いとこが居てさ、兄弟みたいに一緒に暮らしてた時期もあったが、良いことも悪いことも同じぐらいあったぞ。それで、いとこと離ればなれになった後も特に変わりなく良いことも悪いこともあったし、幸や不幸に兄弟とか一人っ子とか関係ない筈だぞ」
俺は一人っ子だが、一時期いとこと共に暮らしていた。まるで兄弟のように扱われ、時に仲良く、時にケンカして、それでもいつの間にか仲直りして、普通に暮らす事に変わりはなかった。
そしてある時、いとこの両親が来ていとこを連れて帰った。それにより俺は一人っ子状態に戻ったが、友達と遊んだりケンカしたり、いとこが居たときと何ら変わりない生活を送って、今に至っている。
だから幸不幸と兄弟の数は対した関係は無い筈だ。
「………それもそっか」
三夜子が納得した。やはりさっきの言葉に負の感情は隠ってなかったな。
「てか創矢、アンタいとこなんて居たの?」
月乃も普段通りに戻っていた。立ち直りが早いのは助かる。
「あぁ、もう10年以上前小学生の頃だけどな」
「……詳しく」
三夜子が興味津々の目でこちらを見ている……と思う。実際は無表情なので断定は不能だが、言葉的には「それを話せー」という感じに聞こえた。今こちらを見る目も俺だけを捕らえている。
「アタシも聞きたいわ、話しなさい創矢」
月乃からも命令口調で、願いが来た。一応、今は部活の時間で、特に何も活動せずにいるんだが。
まぁいいか、どうせパズルを解きながら毎回何かしら喋ってる訳だし。
「へいへい」
俺は今話に出た、いとこについて語りだした。
俺が言ういとことは、父親の姉夫婦の子どものことだ。
父は剣道の家系で、その姉、俺にとっての叔母さんもまた、剣道の経験者。そして父の子どもである俺がそうなように、いとこもまた、剣道をやっていた。
そんなこともあり、詳しい経緯は知らないが、いとこを預かって家で一緒に暮らすことになった。
いとこは俺と同い年、しかし誕生日はあちらの方が少し早かった為基本的な主導権はいとこが握っていた。と言っても別に年上面をする訳じゃなかったがな。
同じ剣道を行っている者どうし、共に剣道をして切磋琢磨するのは日常で。遊ぶのはもちろん、風呂から寝る場所までいつも一緒だった。
それ故に、意見の違いからケンカもよくしたものだ。そういう時は、自然に仲直りしているか、剣道で決着をつけたりもしたな。
そんな日が続いたある日……確か小学校を卒業して、中学生になろうとしていた頃だ。いとこの両親が家に来て、いとこを連れて帰ると言ったのを、まだ覚えている。
それで、いとこが泣いていたのも……
「それっきり、いとことは会ってないんだよ」
今頃、何してるんだろうな。同い年だから、同じ高校二年生だってことぐらいが分かるが。
「……名前は?」
「え?」
「……名前、いとこの」
「そういえば創矢、まだいとこの名前言ってないわね名前はなによ?」
「……」
何故だろう、今さらになって気恥ずかしくなってきた。普通にペラペラと話していたのが凄いな、自分。冷静になった今、2人には悪いが、これ以上は話せない。
「えっと、何だっけか……悪い、忘れちまった」
「忘れたぁ? 何年も一緒に暮らしてたんでしょ。忘れるなんて薄情にも程があるんじゃない?」
「確かに何年も一緒だったが、それと同じぐらいの年月離ればなれなんだ。忘れもするさ」
「……携帯とか」
「そうよ、携帯の番号とか交換してないの?」
「小学生で携帯なんて持たせてくれるかよ、少なくとも家では無かった」
「あぁ、確かにそうね」
「……」
なんとかごまかせたみたいだな。掘り返される前に別の話題を……そうだ、
「話は変わるが、月乃」
「なによ」
「前に、帽子の男と会った事があるって言ったよな」
「えぇ、アタシが剣を手に入れた少し後にね」
「第一印象、どうだった」
「そうね……とりあえず、驚かされたわね」
驚かされた?
「格好にか?」
「それもそうだけど、初めて会った時あの人、上から落ちてきたのよ」
「は?」
上から落ちてきた? でも俺も一度、上から落ちてきた帽子の男を見たことがあるか。
「しかも学校の三階からよ、あの高さなら普通無傷で降りるの不可能じゃない?」
確かにその高さは危険だ、だが俺が見たのはそれより更に高い体育館の屋上、屋根の上からだ。
「で、いきなり剣を出したもんだから焦ってね、慌ててコッチも鍵を解いたら、『はっはっはっ! キミも剣を持ち願いを叶えたい者か!』って高笑い」
その光景が容易に目に浮かんだ。
「それで『キミの願いはなにかな?』って聞かれたから、とりあえず言ってみたの、そしたらソイツ『ふむそれならまぁ良いだろう、ではな少女よ、頑張って夢を叶えたまえ!』とか言って、なぜか眼帯を渡されて走り去ったってたわ」
月乃の眼帯はアイツが渡したものだったのか。いったい、何がしたかったんだ……
「アイツ誰なの?」
「俺にも分からない、三夜子はどうだ?」
この中で一番早く剣の事を、そして帽子の男に会った三夜子に訊ねる。
「……正体を知ってた」
「誰だか知ってるの?」
三夜子は首を横に振った。
「……知ってた、つもりだった」
「つもりだった?」
「……ある時、アイツとその正体が一緒に居る所を見た」
「だから分からなくなったと」
「ん……」
「はぁ、本当に何者なのかしらね」
謎は深まるばかりだった。




