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文武平等  作者: 風紙文
第二章
54/281

早山は長身だ、おそらく180は越えているだろう。普通の剣道ならその高さから下ろす面はなかなかの武器になる。その点、胴が空きやすいという弱点もあるが。

しかしだ、今の早山にこの考えは一切通じない。

何故ならこれが剣道ではなくて『剣の舞』で、早山の剣が全長30センチにも満たないナイフだから。

あのナイフ、剣の種類では間違いなく短剣、刃が短い部類故にリーチが短い、しかし軽くて扱いが簡単。早山はそれを短剣道を応用して扱っていた。

「やはり、武川の持つような剣の方が扱いやすそうだ……な!」

一足跳びに早山が突っ込んで来る。俺は剣の柄を引いて刀身に空気を送った。

キキィン! キキィン! キキィン!

早山の剣が俺の剣に刃を当ててくる、小回りが利く、それによる連続切りだ。

俺はただ受けるしかない、下手に動かすものなら懐に入られてしまい、切られ放題になりかねない。

だがずっとこのままでいる訳にもいかない、一瞬の隙をついて反撃しなければ一太刀の威力ならこちらが上回る筈だ。

早山が後ろに下がった、今がチャンス。剣の切っ先を下に向けて、柄を押し込んだ。

ブォン!

空気が放たれ、地面に当たって砂煙を起こした。

「む……」

早山の声が聞こえた、その声で狙いをつけて前へと跳ぶ。後ろへ振りかぶり、早山の前に移動する、早山はまだ気づいていないのか動かない。

そのまま横へ、振り切った。

ガキィィィン!!

固い音、手がに振動がきて少し痺れた。これは……先ほどと同じだ。

砂煙が消え、早山の姿が見える。

「……惜しかったな」

まただ……剣の一太刀が前に出された早山の左手の少し手前で止められていた。

力を加えると少しだけ動くので完全に止められている訳では無い、だがだからこそこれが何なのか、どうやっているのかが全く分からない。

「『剣の舞』は剣術や力だけでは勝てない、ましてや頭脳だけでも駄目……剣を扱う力と扱う頭脳が揃ってこそ、『剣の舞』は行う事が出来る」

そう言った早山は、ナイフを持つ右手を顔の高さに、左手の上に上げ。

「人はそれを戦術と呼び……通常の剣では行えないような事を容易にやってのける例えば…」

ナイフを握る手を緩めた、刃を下にしたまま剣は重力に従って下へと落ちる。

こちらへ向けられている早山の左手のひらの前を通過したその瞬間、ナイフが消えた。

目で追っていたから分かった、手のひらを通った瞬間消えてしまった。

いったいどこに……俺は目だけをに左右に動かして行方を探す。

その刹那、ナイフは俺の真正面から右の頬を掠めて後ろへと飛んでいった。

「!?」

慌てて後ろを振り向くと、飛んでいたナイフが少しずつ地面へと落ちていく。

だが、地面に触れることなく再び消えた。

今度はそこをずっと見ていると、ナイフが現れて上へ。しばらく上昇するとまた消え、今度はこちらへと降下してきた。

それを俺が避けると、その先に居た早山の手に収まった。

少し後退して、剣を構える。

「今のが、剣の能力か?」

「そうだ、この仕掛けが解けない限り、お前に勝ちはないぞ、武川」

早山がナイフを投げた。

それを避け、ナイフの行方を見る。すると地面に落ちかけたところで消え、数秒してナイフは現れてこちらへと飛んできた。

これを避けるとさっきと同じ状況になるだけ……なら。

俺は剣に空気を送って軽くして振りかぶり、飛んでくるナイフを打ち返した。

カキィン!! と音を立てて当たり、縦回転しながらナイフは弧を描いて飛んでいく。

それを横目に見ながら百八十度回転して、早山へと剣を振り切った。

ガキィィィン!!

先ほどと同じ、早山の手の前で止められた。

しかしこれは予想通り、これでナイフに自動追尾等の能力が無い事が分かった。月乃の持つ剣のような能力ならば、ナイフは既に俺を通過して早山の手元に戻っている筈。

現に今もナイフは地面に落ちて沈黙している、早山が剣を持っていない今が好機に見えるが、あの謎の防御法の仕掛けを解かなければ優位には立てたとは言えない。

あのナイフの移動……そして早山の防御方法……謎は増えるばかり……まてよ。

そういえば……初めて早山が剣を持っているのを見た時、あいつは宙に浮いていた。

浮遊という感じではなく、まるでそこに地面があってそこに足をついていたかのように……そして、早山の持つ剣は、あのキャストパズルと同じ形に擬態されていた……

「……そうか」

「仕掛けは解けたか?」

早山の声が後ろから聞こえた。どうやら熟考していたらしい。

慌てて振り向くと、落ちているナイフを回収していた。危なかった……考えている隙に切られてもおかしくなかった。

切っ先をこちらに向け、早山は再び、

「仕掛けが解けたのか?」

それに対して俺は、

「あぁ、分かったよ」

早山の剣の能力、それは……箱を作り出す事だ。

まずはあの防御方法、あれは箱を掌に作って剣との接触を防ぐ盾のように使っていた。

宙に浮いていたのは、箱を足元に作って乗っていたんだ。降下する度に足元へ作ればあのような降り方が出来る。

そしてナイフの移動、あれは剣の擬態形状がキャストパズルに似ているのが関係している。

あのパズルは正方形……箱の中にある仕掛けを取り出すというもの、その為箱の六面全てに穴が空いていて、その中を動かして取り出すのだ。

つまり早山が作り出す箱には同じように六面全てに穴が空いており、その中にナイフを入れると別の穴から出す事が出来る。早山の手に戻ったのはナイフが消えた場所に箱を作って置いてあったからだろう。

上に乗っていたのは、ナイフ以外は箱に納められないからだ。

「……なるほど」

俺の推理が終わると、早山は小さく数回頷いた。

「まさかアレだけの情報で解かれるとは思わなかった」

どうやら、正解らしい。

「剣道もやってるが、それと同じぐらいパズルも解いてるんでね」

「ふっ、変わった文武平等だな」

文武平等?

「文武両道だろ?」

「おっと……つい出てしまったな、あの人が何度も口にするものだから」

あの人って……

「さて……話がずれたな、剣の能力を解いたのは流石だが…」

早山がナイフの切っ先をこちらに向けた。

「だからといって、勝機が増えた訳じゃない」

その通りだ、むしろ分かったことで対処方法を考えても、今の俺にはどうすることも出来ない。

箱の場所は今までに使われた2つと早山の掌の1つ、他にもある可能性が十分にある。箱の位置などによっては、様々な方向からナイフに切り刻まれてしまう。

俺の剣は刃が広いから守りには適しているが、さすがに真後ろまでは守れな……俺の剣?

そうだ、忘れていた。

俺は剣に組み込まれているパズルを動かす。右端の板を上に、真ん中の板を左右に、今の形とは全く違う模様を作る。

瞬間、剣に変化が起きた。

月乃対策として考えていた剣の新しい使い方、本番では全く使わなかったが、まさか、今役に立つとは思いもしなかった。

「ほぉ……そんな使い方もあるのか」

変化が終わり、今俺の手には剣が握られている。全長、30センチほどの大きさになった剣が。

「持ち運びに便利でな」

俺は自分の剣の、パズル錠の状態を知らない。

最初にパズルを解いた時から、森の柱として刺さっていた時からすでにこの形で、いくら動かしても形を変えることは出来なかったので、代わりに大きさを変えて持ち運んでいた。

空気は送れなくなったが、この大きさでも剣として使える。今までとは違った、手数による近接戦……偶然にも早山と同じ短剣道のように。

「さぁ、仕切り直しだ」

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