月乃、ではない
体育館裏から校舎へと戻ってきた俺は、鞄が置きっぱなしだったため部室へと向かった。
扉を開けて中に入ると、先ほどはいなかった押川と大和先生を含めてパズル部の全員が揃っていた。
「おぅ武川、何処に行ってたんだ?」
「えっと……」
「どうかしたのか?」
「実は…」
「あ、ちょい待った」
大和先生は三夜子達の方を見た。
「……」
すると三夜子が立ち上がり、
「……リリ、ちょっと来て」
「へ? どうかしたのみゃーさん?」
「……ちょっと」
「?」
そう言って押川と共に部室の外へと歩いて行く。
すれ違い様、こちらを見た三夜子に目だけで礼を言う。
「……」
届いたかは知らないが、微妙に首を縦に振ったところを見るに届いたと思う。
そのまま三夜子は押川を連れて部室の外へ出ていった。
「よし、もういいだろ」
大和先生は今から俺が話すことが剣に関することだと思ったのだろう。剣のことを押川に聞かれないようにするため、三夜子に押川を連れて外に行くように目だけで合図したんだ。
「で? 何があった」
「はい、実はですね…」
俺は今しがたあったこと、月乃と戦ったことについて、そして早山のことを語った。
「月乃と早山が剣持ちね……つうか二年生に剣の持ち主固まりすぎてないか?」
すでに二年生で4人、剣を持っていることを確認している、まだいる可能性だって十分あり得る。
「俺が手に入れてる情報では、ざっと数えて12人は居るぞ、この学校に」
「そんなにですか?」
「学年こそ分からないがな知り合いの情報通が調べた結果がそうだった」
「情報通、やっぱりそういう人はどんなところにも居るもんなんですね」
「情報は無いよりあった方が有利だからな。ところで武川、この後ヒマか?」
「え? まぁ、今日は道場の手伝いはありませんからヒマではありますけど」
「実はな、さっき話し合ったんだが…」
学校の正門前に居た三夜子と押川を見つけた。
「悪い、待たせた」
「……別に大丈夫」
「いいっていいってー」
「んじゃま、行くか」
「お~」
パズル部の4人が揃って歩き出す、その目的とは…
「そういえばみゃーさん、携帯電話持ってなかったよね」
「ん……無かった」
三夜子の携帯電話を買いに行くというものだった。
「と言っても、そんな高い金は持ち合わせてないから決めるだけ、だけどな」
「でも駅前通りには携帯電話の店ありませんよね?」
「あぁ、だから隣の駅前まで行くぞ」
学校から歩いて駅へ、この駅前通りにはあらゆる店が並んでいるが、電気関連の製品は全く扱っていない為、そういう物が必要になった人は隣街まで行かなくてはならない。
電車に乗って一駅だけ、俺達4人は隣街に降り立った。ここは向こうとは異なり、電化製品を扱う店が多く並んでいる。電器店はもちろん、時計だけを扱っているらしい店まである(入ったことないので定かではないが)。
だが逆に色々な店が無いために、この辺りに住む人は反対方向の電車で向こうに行って買い物をするという流れが出来ていたりする。
つまりあちらに無いものはこちらに、こちらに無いものはあちらにはある、ということだ。
「さてと、まずは携帯電話を置いてる店を探さないとな」
「え? 大和先生知らないんですか?」
てっきり知っていてここに来たものだと思っていた。
「あー教師って休み少ないからな、土日だろうと採点とかしてっから歩き回るヒマなんてないのさ」
「はぁ、なるほど」
「押川か武川、場所知ってたりするか?」
「いえ、さすがに」
俺もここの店で携帯を買ったが、それはもう5年も前の話だ。普段よく来るような場所でもないからここにはあまり詳しくない。
「はいはーい! ボク場所分かりま~す!」
「お、じゃあ案内頼むぞ」
押川を先頭に、俺達は店へと歩き始めた、今は大通りらしき所を通っている。左右を見てみるとやはり向こうでは見ない店が多く並んでいる。
その中で一番目が行ったのは、バーバー鋏。という名前の床屋だ。
前にも見た覚えがあるがあの名前は結構頭に残っている。そしてつい最近知った事なのだが、あの鋏という漢字、はさみ、とは読まず、かなばし、と読み、床屋夫妻の名字らしい。
珍しい名字があるんだな、等と考えていた時。
「あ!」
前を行く押川が立ち止まって大声を出した。
「どうした? 押川」
押川の後ろを歩いていた大和先生が立ち止まりながら訊く。
「あ、アレは……」
何故か震えている指で指し示した先には、一軒のコンビニがある。
「アレ? ……なに!?」
指の指す先を追った大和先生がコンビニを見た途端、声を出して固まった。
「どうしたんですか?」
別に何の変哲もないコンビニだ。あちらには無い種類のものではあるが、全国探せば何店もあるような全国チェーン店の一つに過ぎない筈だが。
「……?」
三夜子の方を見ると2人の行動の意味が分からないようで首を傾げている。
改めてコンビニをよく見てみる……すると、レジ付近に何かが山積みにされて売られているのが見えた。押川の指と大和先生の視線の先もどうやらそれに向かっているようだ。
「押川、お前もアレを集めてるのか?」
「はい! 先生もですか?」
「おぉ……でもおかしいな、アレの新作は明日の筈だ」
「先生! 明日なんてもう何時間か先には来るものですよ! つまりはたった数時間のフライングなんですよ、あれは!」
「おぉ! 確かにそうか!」
「あの……」
何だかいきなり盛り上がり始めた2人に訊ねる。
「何だ?」
「アレ、って何ですか?」
「アレはアレだよ、別名、どう見たって玩具のオマケにお菓子の食玩」
「はい?」
「……?」
三夜子と共に首を傾げると、
「知らないのか!?」
「えぇ!?」
2人にとても驚かれた。
「いやまぁ、聞いたことぐらいはありますけど」
友達にそれを集めている奴がいて、正式名を聞かされたことがある。しかしそれにハマっている人は揃って、別名であるどう見たって玩具のオマケにお菓子の食玩、を使ってそれのことを呼んでいる。実際の正式名より長いにも関わらずに、だ 。ソイツが言うに、その名で呼ぶことがコレクターの証らしい。
もちろん俺は買っていない。基本的に小遣いはキャストパズルに回っている。
「という訳でわるい、少し行ってくる!」
「ゴメンねみゃーさん!」
どういう訳ですか? と聞く前に2人はコンビニへと飛び込んでいってしまった。
「……」
「……」
取り残されたコレクターではない俺と三夜子は、
「俺達も、入るか?」
「……そうする」
とりあえずコンビニへと歩を進めた。
その時、
「ねぇちょっと、そこの人達」
誰かに呼ばれた。周りには複数人でいる人たちはいないので俺達のことだろう。
振り返って見るとそこには一人の女子生徒が立っていた。何故女子生徒だと分かったかと言えば、高校の制服を着ていたからだ。
しかしそれは俺が通う高校の物ではなく、この駅を最寄りとする高校の物だ。
高校の制服、ということは年は15~18の間で俺達の同年代だろうその女子生徒を見た瞬間、何故か俺は寒気を感じた。
「ねぇ、ここら辺で物落としたんだけど、何か拾ってない?」
同じような長い髪、同じような口調、雰囲気もどことなく……月乃に似ている。
「いや、何も」
とりあえず何も拾ってないし、あまり関わりたくなかったので正直に答えておく。
「……何を落としたの?」
すると、三夜子が何故か関わっていった。
「腕時計なんだけど、もしかして見た?」
「……見てない」
「そう」
「……手伝おうか?」
「!?」
どういう風の吹き回しだ? あの三夜子が見ず知らずの他校の生徒と落とし物を探しを手伝うとは。
「そう? でもアンタ達向こうの高校の生徒よね? 何かしにきたんじゃないの」
「……平気、暇になったから」
「ふぅん、じゃあ手伝ってもらおうかしら」
ヤバい……いつの間にか探すのを手伝う方向になってる。俺はあまり関わりたくないんだが……
「アンタ、名前は?」
「……七ヶ橋、三夜子」
「七ヶ橋? 随分変わった名字ね」
「……よく言われる」
「アタシは冬野。よろしくね」
「な!?」
思わず声が出た、あれだけ姿と口調が似てるのに、名字まで似てるとは。
「さっきからどうしたのよアンタは、アタシの顔に何かついてんの」
「あ、いや、別に何も……ただ……」
「ただ、なによ?」
「えっ……と」
「……トラウマ?」
何故か三夜子が答える。だが、それに近いかもしれない。
「トラウマぁ? アタシ達今初めて会ったわよね?」
「……似てる人が居る」
「アタシに似てる人?」
「……そう」
「へぇ、アタシみたいなのがね。実はアタシもアンタ達みたいなのがバイト仲間に居るのよ。で、高校の制服でタメっぽかったから話しかけたんだけど、やっぱり違うわね懐斗や時雨とは。だからアンタ……えっと名前は?」
「た、武川創矢だ」
「いい武川? ただ似てるだけの人なんてこの世には何人も居るわ、でもその人はたった一人だけ、アタシとその人は全くの別人よ。違うところを見つけてトラウマを忘れなさい」
「違うところ?」
まさか初対面の人にそんなことを言われるとは……だがその通りだ。このままでは冬野に悪い、似てはいるが月乃とは別人なんだ、違うところだって沢山……例えば制服、そして……そうだ、眼帯をしてないじゃないか。
月乃じゃない、全くの別人、少しどことなく似ているだけの、別人だ。
「落ち着いた? でもそこまで似てるなら一度会ってみたいものね、その子」
「ふぅ……本当にすまなかった、お詫びに探し物手伝うよ」
「えぇ、よろしくね」




