剣を持つ者
互いに一歩で相手の懐に入れる間合いを取りあう。
普通ならばこちらの剣より小回りの利く月乃の方が有利に見えるが、俺には入られた瞬間に後ろへ下がり適した間合いを取れる。それを月乃は分かっていて迂闊に攻め込んでこない。
一方俺は、その適した間合いに入れば剣を当てることは可能だが、月乃の持つ剣の能力による第二の刃、あれの届く範囲に入ることになる。
するとやはり小回りの利く刃が俺を切る、俺が剣を当てようと止まって振っていれば確実に。
なので迂闊には入れない……つまりはどちらも攻撃を当てに入ると当てられる可能性が高いという状況だった。
「……」
「……」
互いに相手を睨み合い、一瞬の隙を探しながら隙を作らないように気をはる。
3分は経っただろうか。お互いに一歩も動かない。
しかし、人である限り気をはり続けていると必ず体力を消耗をする。俺も月乃も一端の高校生、名人や超人のように何時間もはり続けることは不可能だ。
必ず、隙は生まれる。それが先に生まれてしまった方が、おそらく負ける……
その時だった。
トス!
「!!」
「!?」
上空から、二人の間に何かが落ちてきた。気をはっていた俺達は驚きながらも揃ってその落下物に目を落とす。
それは、いわゆるナイフという物だった。全長20センチ、刃渡り15センチ程、片方にのみ刃のある少し大きめの刃物だ。
何故こんな物が上空から落ちてきたのか、そもそも危ないという以前に、誰が上からナイフを落とす必要があったのか。
月乃がナイフの落ちてきた上空を見たので、俺もその視線の先を追うと、そこにはあり得ないものがあった。
人が居た。まるで上空に浮かぶようにして、体育館の屋根と同じ高さの上からこちらを見る人が。
いや、浮いているという表現はおかしい。その人は空中に足をついて、立っているようにしてそこに居た。
「何のつもりよ!」
月乃が誰かも分からない上空の人物に訊ねる。
「……忠告だ、生徒が3人、ここへ向かっている」
声からして、男だ。
「くっ、こんな時に……創矢! 勝負は一旦お預けよ!」
確かにこのまま戦い続けてその場を見られでもしたらマズイ。俺と月乃は剣を片づけた。
「感謝はしないからね!」
上空の男性に一言告げ、月乃は体育館の裏手から歩いて行ってしまった。
「……」
上空の男性へ目を向ける。光を背負っているせいで顔は見えないが、背は高めだ。
「……勝負の腰を折って悪かったな、だが、あまり人に見られたくはないだろう」
「確かに、どうもありがとうございます」
「待っていろ、すぐにそちらへ行く」
そう言うと、男性はその場で前へジャンプした。そしてそのまま重力に逆らって下に落ちて……彼が居るのは体育館の屋根と同じ高さ、それは建物四階分に相当する。
その高さから落ちたら、普通無傷で済む訳が無い。
「危な……!」
思わず声が出たが、その驚きもすぐに消えてしまった。
男性は1メートル程落ちた後、また空中に足をついたのだ。何か見えない足場でもあるのか、それを何回も繰り返し、男は地面へと降り立った。
そこで初めて男の服装と顔を見て、驚かされた。
「……まさかお前も剣を持っていたとはな」
「早山……そういうお前こそ」
「あんなものを見て、まだ疑う気か?」
地面に刺さっていたナイフを抜いた瞬間、早山が持つナイフが発光した。
光が止んだ時、そこにナイフは無く、代わりにパズルがあった。偶然にも、正方形に飾りが収まった形状のキャストパズルと同じ形をしていた。
「あのナイフ、剣だったのか」
「剣なのにナイフ、言葉としてはおかしな感じだが。れっきとした一振りだ」
あの学校には剣を持つ者が何人もいる。それは知らない奴か、部活の先輩後輩か、はたまた親友か。
原良の言葉が再び頭の中に流れた。そしてこんな状態でも俺の頭の中は以外に冷静らしく、その3つの内で早山はどれに入るかなどと考えていた。
知らなくはないし、先輩でも後輩でもない、そして親友でもない。ただ一年生の時にクラスメイトだっただけという……て、こんなことを考えている場合じゃない。冷静に見えて意外と混乱してるみたいだ。
「……互いに剣を持つ者どうし、いずれ戦う日が来るだろう。だがそれは今ではないのも確かだ、そろそろ生徒が来る、俺達も早めにここを離れるぞ」
「あ、あぁ、分かった」
「じゃあな」
そのまま、早山は体育館の奥に去って行った。
「……」
剣を持つ者どうしはいずれ戦う。
だとしたら、俺はこの学校の何人と戦うことになるんだろうか?




