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文武平等  作者: 風紙文
第二章
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42/281

三日月

たどり着いた先は、体育館の裏側。呼び出し等に使われる定番スポットだ。

かつてここには『森の柱』と呼ばれる謎の物体があったが、その柱は今、剣となって俺の服のポケットに収まっている。

柱を抜いた跡はならしておいた為どこにあるか分からなくなっているが、そもそもあっても無くても気にする生徒はあまりいないようで、森の柱が無くなったという話題は聞いたことがなかった。

「……あのね、創矢」

月乃は少し間を空けて、俺を正面に見ていた。

「また部活の勧誘か?」

他に思い当たらない為、聞いてみる。

「えぇ、そうよ」

頷き、顔を上げた月乃は、いつものあの月乃に戻っていた。部室で見たあの暗さは見当たらない。

「やっぱり、雰囲気を変えてみてコロッと勧誘作戦はダメね。アンタはカンが鋭いし、アタシは疲れるし」

今のも作戦だったのか、まるで本当にどうかしてしまったようにしか見えなかったが。

「じゃあ勧誘を諦めればいいだろ」

「そうはいかないわ、アタシは諦めるにはいかないの。何としても、部活を作らなくちゃいけないのよ」

「そう言われても、俺にも事情ある」

「事情?」

「そうだ、そちらが何を考えてるかは知らないが、無理矢理他人を引き込むようなことは…」

やめてくれと言おうとした、瞬間。



アンタに何が分かるのよ!?



「アンタの事情なんて知らないわyp! でもね、アタシはアンタを見込んでこうして頼んでるのよ! そうでもなくちゃ……ここまで無理に勧誘なんてしないわよ!」

「!?」

急な大声に驚いた。

「今のアタシ達に必要なのは即戦力なの、そうでもしなくちゃ……何の為に……ここまでやってるのか、分からなくなってくるじゃない……」

顔を真っ赤にして、叫ぶように言葉を続ける。

「理由なんてね、なんとでも言えるものなのよ、それを言い訳って言うの、そんなもの聞く必要もないわ」

「そ、その言い方はないだろ」

何だろう……普段の月乃ような感じはするが、どこか、いつもと違う。慌てているような気持ちを感じる。

「後一人なのよ、それだけで部活は出来て、今は生き長らえるのよ……だから」

「そう言われても」

けど、その理由を聞く耳を月乃は持たない

「仕方ないわね……」

月乃はスカートのポケットに手を入れ、何かを取り出した。右手に握られて何かかは見えない。

そして、空いている左手で俺を指差して。

「勝負よ!」

唐突に、宣戦布告をしてきた。

「勝負って、何でだ?」

「わざわざ言わないと分からない? 何の為にここへ来たと思ってるのよ」

握られていた右手が開かれ、中にある物が見えた。

「!?」

それは、あの皿状のパズルだった。

「創矢って確か剣道やってたわよね? 喜びなさい、そちらのホームで戦ってあげるから。まぁ、だからといって勝てる保証なんて無いけどね」

両手でパズルを動かす、目はこちらを向いている、見ず動かしているとは、解き方を覚えてるんだろう。

「アタシが勝ったら、何も言わずに部活に入ってもらうわ、でももしも、もしもアンタが勝ったら、部活の勧誘を止める、これでいいわよね?」

確かに条件としてはこれ以上ない。しかし、パズルの早解き勝負とかなら何故月乃はすでにパズルを動かしているんだ?

いや、違う。そんな勝負じゃない。俺が剣道をやっていることを確認してくる、そのホームということは剣の類を使う勝負。そして、パズルを解いているということは……

「まさか、勝負方法って」

「『剣の舞』よ」

原良の言葉が思い出される。


お前達が通う学校に、剣を持つ奴が沢山いるぞ


居るのは分かっていたが、まさか月乃がその一人だったのか。

カチン

その時、皿状のパズルが解かれた。

瞬間、パズルが光を発して形を変える。願いを叶える為の道具。この世に100ある内の、一振りにして

戦う為の獲物……剣に。

その切っ先をこちらに向ける。

「アタシ見たのよ、アンタが剣を使って戦ってるとこ。確か、七ヶ橋とか言ったっけ? アンタとあの子が河原で戦ってるとこ見たのよ、アレ、勝敗はどうなったの?」

「……」

まさか見られていたなんて。いやそもそもあんな開けた場所だ、誰の目にも止まった無い方がおかしいのか。そこまで見られていたら、もう隠す必要は無いか。

「アレはまだ勝敗がついてない、引き分けだ」

「あっそ、じゃあ創矢、誰かに勝ったことは?」

「それも無い、まだ剣の持ち主にあまり会っていないからな、ちなみに、負けも無い」

ポケットから剣を取り出す。

「そう、じゃあ勝ちにしても負けにしてもアタシが最初の人になるのね」

「そう……だな」

パズルを動かし、大きさを元に戻した。それを見て月乃が呟く。

「やっぱり、森の柱は創矢が持ってたのね。いきなり無くなったからどうしたのかと思ってたのよ」

「コレが剣だって知ってたのか?」

「いいえ、アタシが剣を手に入れた少し後に聞いたのよ。何か……帽子とマフラーで顔を隠した変な人に」

帽子とマフラーで顔を隠した変な人って。

「アイツか」

「知り合いなの?」

「いいや、名前も知らない」

神出鬼没の帽子の男、アイツも原良以上に謎の人物だ。

「まぁいいわ……さっさと始めるわよ」

剣の刃を下げ、月乃はこちらを睨み付けた。

俺もその月乃を睨み返す。

辺りに沈黙が流れる……遠くで活動する運動部の声が聞こえる。

その時、一陣の風が流れた。体育館の壁が横にあるためそれに当たって反対側の樹木を音をたてて揺らした。


やがて風が止み。



音が止んだ。



その瞬間、



ガキン!!

突っ込んできた月乃と剣でつばぜり合いの状態になった。

「絶対、負けないわよ」

「俺もだ」

月乃が後ろに離れる。その間に、月乃が持つ剣を確認した。

銀の片刃で、薄く細い鍔、そして柄の先端には紐がついている。紐の先端には、何やら三日月型の飾りがついているな。

あの形は……朴刀か?

10世紀頃の中国の刀で、長い柄を両手で握って使うことから両帯刀とも呼ばれている物だ。

刀と名前に付くぐらいだから種類は刀だろう。能力はまだ分からないが、油断しないほうがいいな。

それに月乃は俺が前に戦った相手のような、剣を手にしたばかりではない筈だ。始めから本気で行かないと、やられる。

俺は剣の柄を伸ばして中に空気を入れて、両手で柄を握った。中に空気を含んだことにより軽くなった剣は、竹刀よりも軽く、扱いやすくなる。

「今度はこっちの番だ!」

一足で月乃に近づき、その間に剣を振り上げ、一気に振り下ろす。

ギギィン!!

上に持ってきた剣で月乃は攻撃を防いだ。その状態をキープしたまま手に力を込めて下に押し込む。

「くっ……」

月乃が苦しそうな表情になっている。やはり純粋な力比べでは俺に分があるか。

少しの間このまま押し続け、一瞬の隙をついて後ろに引きつつ切りかかる……剣道における逆胴を当ててやる。

そう考えがまとまった時、月乃の表情が変わった。

余裕の、いや、怪しげな笑みに。

この状況でそんな表情をするのは、何かあるからしかあり得ないが。

瞬間、右側に光を見た。

「!?」

俺がとっさに後ろへと下がると光は数秒前俺がいた場所を通過し、再び戻った。

剣を構え直しながら、その光の正体を見る。

それは月乃の持つ剣の柄についている紐……その先端についている三日月型の飾りだった。

「コレがアタシの剣の能力よ」

ただの飾りの筈が、それだけが別の生き物のように動いていた。

「アタシの剣の能力はこの自動攻撃のもう一つの刃、一方に油断しているともう一方に切られる、便利な能力よ」

能力についてもすでに理解しているとは、やはり月乃は強敵だ。

しかもだ、『剣の舞』は相手の戦う力を剣で断ち切り戦闘不能にするのが条件。基本的には、相手に勝ちたい、願いを叶える為に等だろうが、今の月乃のそれは、逆だ。

俺には負けられない、その気持ちをそのまま戦う為の糧にしている。

それはかなり強く、多い、つまりは強力だ。

「油断は禁物よ!」

三日月が視界の左側から迫る。俺は剣の切っ先を下に向け前へと跳んだ。

「それで避けたつもりなら間違いよ!」

「そっちこそ、ただ俺が突っ込んで来たと思ってるなら間違いだ」

「え?」

空気を入れたことで伸ばされた柄を押し込む。

ブォン!

「なっ!?」

剣から空気が吹き出し、地面の砂を巻き上げて砂煙を起こした。

「けほっけほ、こんなことして、どうする気よ!」

「こうするんだ!」

ズバン!!

「な……」

月乃の体を右から左へ横に薙いだ。砂煙のせいで俺もあまり見えていないが、振れば当たる距離には近づいていたので重くなった剣を両手で柄を握って振り切ると、手応えありだ。

振り切った剣と同時に砂煙も振り払うことができ、目を丸くした月乃の顔が現れた。

「俺だって、負ける訳にはいかないからな」

そう言った瞬間、俺の肩を三日月が通過していった。

「っ……!」

思わず肩を押さえたが血も怪我も全く無い……そうだ、剣による攻撃には痛みは全く無かったんだ。だが肩を通過したのには普通に驚かされた。

「甘いわね。アタシだって言ったじゃない、アンタが思ってるのの何倍も強くね」

まさか砂煙を逆に利用されるとは思わなかった……だがこれでお互い一太刀、まだ五分五分だ。

戦う力の糧はどちらも同じ負けられないと思う気持ちなら、後は、互いの剣の扱い方次第、ということになるだろう。



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