仲良し作戦
「という訳で、三夜子と町田花香を友達にしようの時間だ!」
「また急にですね」
それは部室に入ってきた先生の第一声が始まりだった。ちなみに、部室内には俺と先生だけだ。
「色々と策を考えてだな、やっぱり自然を装った場面の方が気さくに話しかけやすいだろ?」
「まぁ、そうです……かね?」
例外はあるが、下手にそういう場面を作られても、簡単に話せはしないだろう。
「そこで、今町田には俺が話があると言って教室に残ってもらっている。そこに偶然を装って忘れ物をした三夜子がやって来る、すると教室内は二人っきりだ。互いに何の用事かを話し合い、そこから何かの話題で盛り上がり……最終的に2人は気さくに話せるような仲になっている、と」
先生がそこまで考えているなんて……三夜子をクラスに馴染ませようとしていた時はただ俺が偶然に同じ帰宅部だったという理由だったのに。
「早速行くぜ、三夜子は今教室に向かっている途中だ」
先生の後に続いて2年C組の教室へ向かうと、入り口の前に三夜子が立っていた。
先生が指で合図をし、三夜子は教室内へと入る。俺達は壁に耳を当て、中の音を聞き耳を立てる……この状態を見られたどうする気なんだろうか、大和先生。
『あれ? 七ヶ橋さん?』
町田の声が聞こえた。
『どうしたんですか?』
やはり三夜子に話しかけることに、抵抗は無いみたいだ。
『……忘れ物』
ガシャガシャと音がする、机の中を探している音だろう。
『……これ』
ここから見えない何かを手に取った。
『それですか?』
『……』
多分、今三夜子は頷いたと思う。
『……そっちは?』
今度は三夜子から訊ねた。
『私は先生に話があると言われて、待っているところです』
『……そう』
『はい』
『……』
話が終わってしまった。何でもいいから、何か話題を出すんだ。
『……そういえば』
『はい?』
お、三夜子から話題を振るとは。
そして再びのガシャガシャ音、何かを探しているのか音が止んだ。
『……これ、どうした?』
また何かは見えないが、町田に何かを見せたようだ。
『それは、基本的なバックにしました』
バック?
『七ヶ橋さんは?』
『……まだ白紙』
『白紙って、提出は明後日の筈では?』
『……なんとかする』
明後日提出の、バック……あ、アレか。
家庭科の宿題。次の課題は裁縫で、何を作るかを書いた説明書を提出するというものだ。俺は既に提出している。
その明後日の提出のものが白紙、それを今まさに家庭科の先生が聞いていたのを町田は知らない。三夜子は知っていてもさらりと言った。
『家庭科は苦手ですか?』
『……そうでもない。けど動く方が得意』
動く方って、体育ぐらいしかないんだけどな。
『そうですか、私はどちらかと言えばこういう方が好きですね』
『……文科系?』
『そうですね』
「なんやかんやで、話が続いてますね」
「……」
大和先生の返事が返ってこない。
「先生?」
「そういや……まだ三夜子だけ未提出だったな」
あ、ショック受けてる。
仕方ない、先生の分も話を聞くとしよう。
しかし、意外に会話が続いているな。
内容は主に授業に関する事。町田はどうやら文系のようだ。
一方の三夜子は、
『……どれもそこそこ』
そこそこ、て。
『可もなく不可も無いってことですね、うらやましいです』
町田、その考えは違うと思うぞ。
『そういえば、七ヶ橋さんは帰宅部でしたよね?』
おや? いきなり話題が変わったな。
『あの……七ヶ橋さん』
『……?』
『もしよろしかったら……部活、入りませんか?』
町田が部活の勧誘を?
まさか、月乃と同じ部活の勧誘なのか?
『……ごめん』
『そうですか……すみません、忘れて下さい』
『……分かった』
「……」
町田が誘っていたのが、月乃と同じ部活だとしたら……いったい何故そこまでして部活を作ろうとしているんだ?
「おい、武川」
いつの間にか、大和先生が復活していた。
「そろそろ終わりにするぞ。俺は町田と話してから行くから、お前は三夜子と一緒に部室に戻ってろ」
「はい、分かりました」
大和先生は教室の扉を開けて中へ、
「悪い、待たせた……お? どうしたんだ、三夜子」
「……忘れ物」
「そうか、見つかったのなら、寄り道せずに帰れよ」
「……はい」
三夜子が教室から出てきた俺を見つけて近づいてくる。部室の方向を指差してから俺は歩き出し、部室練へと向かった。
「で、どうだった?」
「……なんとも言えない」
「そうか」
2人の間に会話は成り立っていた。でもそれだけで仲良くなったのかと言えば、そうとは言えない。
「……でも」
「でも?」
「……話せなくは、なかったから」
「なかったから?」
「……やっぱり、なんとも言えない」
まさか最後大和先生に言われている間に町田に何か言われたのか? 例えば、俺を勧誘するように、とか。
いや、それはないな。
町田は俺と三夜子がこういう仲だとは知らない筈だし。第一、三夜子に何かを頼むというのがそもそも間違っている。あまり他人と話さないと印象を受けている為クラスの誰も三夜子に何かを頼もうと考えていない。
あ、そうか、だから三夜子はクラスに馴染めず、一人浮いているんだ。
仲良しとまではいかない、せめてクラスには馴染ませよう、大和先生はそう考えていた。そうした結果が、今のこの状況。
成功とは言えないが、失敗とも言えない、これはまさに……なんとも言えない状況か。
等と考えている間に、パズル部の部室に到着。お互い席に着くと三夜子はすぐさまパズルを解き始めた。
「それは確か」
それは先生が買ってきた物の一つ、皿状の物だ。
「……リリがくれた」
そう、確か押川が解こうとしていた物で。
「くれたって?」
「……私がやってたのがやりたかったみたいだから、解けたのを言ったら交換してくれた」
「なるほど」
あ、パズルと言えば。
「俺もこれが解けたんだ」
数日前に解けた四角いパズルを鞄から取り出す。
その時、扉の開く音が聞こえた。
大和先生か押川が来たものだと思い顔を向けると……そこには予想外の人物が立っていた。
「創矢、ちょっと来て」
いつもよりも少し低い声で月乃が俺を呼んだ。明らかに様子がおかしい。あれもまた作戦なのか?
いや、違う。明らかにおかし過ぎる。そもそも部室を突き止めたのならその時点で突撃してきても良い筈だ。
そして月乃は、俺の返事を聞かずに歩き出して行ってしまう。
「あ! おい、月乃!」
俺は慌てて後を追いかけた。




