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文武平等  作者: 風紙文
第二章
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レベル5の剣

これはもう先月の話。まだ俺達が三夜子の剣を手に入れる方法を考え、壊してみようと戦っていた時。

壊れなかった傘を見ながら休憩していたら現れたのがこの男、原良。

剣を狩る者、剣狩りの使者としてやって来たという彼だが、どうも謎だらけだった。

剣を持つ者戦おうとした時、現れた原良は敵側に回った。しかし、最終的にはその敵を倒してしまったのだ。

寝返った、という言葉はおかしい。もとより味方でもはたまた敵でもなかったのだから。

なら、寝返るつもりだったと言うべきか。いや、これでもおかしい、元より原良が狙っていたのは敵の持つ剣だった訳で。おそらく彼が本気になればわざわざあんなことしなくてもよかったと思う。

原良正忠、俺達が通っている高校を卒業したばかりの19歳。名前をローマ字にすると母音が全てaになりあだ名はオールAだったという過去を持つ。

情報はこれだけの、謎多き男が今、俺達の目の前……にあるたい焼きの出店に並んでいた。

「お前達もたい焼き目当てか?」

後ろにある出店を指でさす。

「一応は」

俺は身構えていた。三夜子のように剣は常に持っているようにした為、今もポケットに入っている。

「おいおい、そんなに身構えんなよ、俺はここのたい焼きを買いに来ただけだ、剣を狩りに来たんじゃねぇって」

「……」

確かに、今のアイツに戦う気配は無い。

「んなことよりよ、ここで会ったのも何かの縁だ、少し話に付き合ってくれねぇか? たい焼き奢るぜ?」

「……」

コイツ……やっぱりよく分からない奴だ。

俺は横に並ぶ三夜子に目で訪ねる。

「……(こくり)」

黙って頷いた。

「……分かりました」





広場から裏道に入って少し行ったところ、そこに小さな公園があった。遊具の状態から見るにかなり古く、あまり人は来ないような場所らしい。

「ここでよく、出店のもん買って食ってたな」

懐かしい物を見るような目をする原良の手にはたい焼きの入った袋が3つ、

「ほらよ」

その内の2つが俺と三夜子に渡される。あの列は出来るのを待っていた人の列で、まだ出来立てのそれは温かった。

「あの店の凄いところは2つで四百円の安さだよな」

近くにあったベンチに腰を下ろした原良は、袋の中からたい焼きを取り出した。

「お前らも座れよ」

「はい……」

2つ横に並んだベンチの原良が座っていない方に座る。その隣に三夜子が座った。

「まぁ食おうぜ、温かい内が一番だからな」

原良は手に持ったたい焼きにかじりついた。

「……」

ふと隣を見ると、三夜子もたい焼きを取り出してかじりついていた。

この状況でよく食べれるな、俺が気を張りすぎなだけなのか?

原良は戦わないと言ったし、下手に気を張らない方がいいのかもしれないな。

俺もたい焼きの一つを取り出し、かじりついた。

生地の甘さと餡子の甘さが口の中に…………?

「……?」

三夜子も気づいたらしい、俺達は揃ってかじった断面を見ると。生地しか見えてなかった。

「え、これ……」

「あーそうそう、安さの秘訣がこの生地9に対する餡子1の分率なんだよな」

餡子少な!

「まぁこれはこれで旨いから誰も文句言わないんだけどな」

確かに生地だけが口の中にあるが、それだけで普通に甘くて旨かった。三夜子も何も言わずに再びたい焼きにかじりついている。

「さて、いきなりだがお前達にとって良い情報と悪い情報をくれてやろう」

原良が一つ目のたい焼きを食べ終えた時、話をきりだした。

「まずは今剣狩りのメンバー達はな、ある剣を狩る為に総力を尽くして戦ってる状態だ。だからしばらくはお前達を狩りに来る奴はいないぜ」

剣狩りのメンバーの総力である剣を狩っている?

「まぁ簡単に言えば、そんだけ強いってことだ、剣もその持ち主もな」

剣を持ってみて分かったことがある。例え強い獲物を持ったとしても、それを使う人が弱いと本領は発揮できないと。以前戦ったアイツがいい例だ。あの剣をアイツはただ振り回していただけで、使い方によってはまだ応用がきく能力だった筈だ。

「しかも、剣の方はレベル5らしいぜ」

レベル5……剣のレベルにして一番高いレベルだ。その分鍵となるパズル錠のレベルも高い筈だが、能力もまた高い、解くことが出来る人物はそれだけで凄い人に違いない。

「お前知ってるか? レベル5の剣は全100本の内、たったの7本しかねぇんだ。どれも強力でな、7本全部に名前がついてんだよ」

強力な故に、その剣の能力を示す名前がついたらしい。

「一つの種類に1本ずつで、片手剣の『白塗(しらぬり)』大剣の『影切(かげきり)』両手剣の『波動(はどう)』双剣の『竜顎(りゅうあご)』短剣の『収納(しゅうのう)』刀の『布縫(ふぬい)』そしてその他の『模抜(もぬけ)』全部が全部、強力な能力を持つ剣だ」

原良は2つ目のたい焼きを袋から取り出した。

「今狩ってるのもその内の1本だ、多分また一つ願いを叶える権利を手に入れるだろうぜ」

「それはつまり、剣を狩るということですか?」

「もちろんだ。剣狩りの総力は今までに狩った剣の数に加え、諜報部隊やらなんやらがいる……それにな」

たい焼きをかじった。

「相手がレベル5だってんなら、剣狩りもレベル5で挑むだろう」

「……」

「今のところ、7本の内、2本が剣狩りの手の中だ、ま、7本全部が取られることはないからいいけどな」

「え?」

「おっと、少し言い過ぎたな」

再びたい焼きをかじる。

「次に悪い情報だ、お前達が通う学校に、剣を持つ奴が沢山いるぞ」

「?」

それだけなのか?

「それのどこが、悪い情報なんですか?」

「分からねぇか? 誰かが剣を持ってる、つまりいずれは戦う必要があるんだよ、それは知らない生徒か、あるいは部活の先輩か後輩かはたまた……親友か」

そういうことか……

「ま、そう簡単に知り合いと戦うなんてことはないだろ、今のところ分かってんのは、あの学校には十人以上剣の持ち主がいるぞ、あお前達を含めてな」

そんなにいるのか……

「もしも知り合いや親友と戦わないといけなくなったら、お前達はどうする?」

「……」

知り合いや親友と戦う……迷わないといえば、無理だろう。多少なり困惑するのは目に見えて分かった。

しかし、

「……構わない」

今まで話に入ってこなかった三夜子は違った。

「……誰が相手でも、手加減なんてしない」

見ると、たい焼きの入っていた袋を畳んでいた。

もう2つ食べたのか、俺は話を聞いていて一口しか減ってないのに。

「なるほどな、お前ぐらいの考えなら向こうもやりやすいだろうぜ」

原良はたい焼きの最後の一口を放り込み、咀嚼して、飲み込む。

「そんだけ気合い十分なら平気だな、お前達に期待してるだけあるぜ」

「……期待?」

「あ、また言い過ぎたな」

ガサガサとわざと音を立てて袋を畳んだ。

「じゃあな、またどこかで会おうぜ」

原良は立ち上がり、そのまま去っていった。

その場に、俺と三夜子だけが残った。

「……」

「……」

互いに顔を見合わせた後、

「食べるか?」

「ん……」

手つかずのもう一つのたい焼きを三夜子に渡し、2人で食べた。

やっぱりあの男、いったい何者なんだ……

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