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文武平等  作者: 風紙文
第二章
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一年生、夏休み明け

放課後、俺はパズル部の部室へとやって来た。扉を開けて中に入ると、

「……」

三夜子が一人、椅子に座っていた。

「一人か?」

「……(こくり)」

頷きで返答されたので。俺は部室に入って三夜子の隣の席に座った。

「……」

「……」

静かだな……まぁ三夜子から話しかけることは滅多にないし。と、そうだ、パズル部のパズルは今のところ俺が持っているアレだけだからな、俺が来ないと何もやることが無いのは当たり前か。

「……あの人は何?」

鞄に手を入れてパズルを取り出そうとしている時、ふいに三夜子に訊ねられた。

「あの人?」

「……私にぶつかりそうだった人」

「あー、月乃か」

「……知り合い?」

「一応な、一年の時にクラスメイトだった」

「……それだけ?」

「あー……」

には、見えなかったよな。

「色々あったんだよ、最近はなかったけど、一年の時は追われまくってたんだ」

「……追われまくった?」

そんな言葉聞かされれば、三夜子じゃなくても首を傾げるのも当たり前だな。

「三夜子こそ、町田と仲良かったのか?」

「……町田って、誰?」

え? 知らないのか?

「いや、あの時に話してたクラスメイトだよ。席に戻ろうって言って、返事してたあの時の」

「……返事ぐらい、する」

ま、普通そうか。

「……聞かせて」

「何を?」

「……あの人と、何があったのか」

「聞いても面白い話じゃないぞ?」

実は、あまり話したくないんだけど。

「……構わない」

しかし、三夜子は引かなかった。

「……分かった、月乃と何があったかだな」

一年生の頃を思いだしつつ、俺は語りだした。





あれは確か、夏休み明け二学期最初の登校途中。

夏休みの最後を家で過ごしていた俺は今日、家から学校に向かっていた。言うなれば、寮とは逆方向から向かっていた事になる。

普段とは違う道を、しかし見慣れた景色の中を歩いていた時。

前方から、何かが飛んでくるのが見えた。

よく見てみると、どうやらそれは麦わら帽子のようだ。夏休みが終わったとは言えまだ暑さが残るこの季節、生徒も夏服を着ているぐらいだ、誰かが暑さ対策に被っていたのだろう。

そして風に煽られて飛ばされて、帽子の形状的に未確認飛行物体みたいになっている、と。

等と考えてる間に、帽子が俺の後ろへと行ってしまう。

その時だった、

「そこの人ー!」

帽子が飛んできた方向から一人の生徒が走ってきた。周りには誰もいない、つまり呼ばれたのは俺だ。

「その帽子を捕まえて!」

飛んでいく帽子を指さす、おそらく、帽子の持ち主だ。

「分かった」

俺は鞄をその場に置き、帽子を追った。

数秒で真下にたどり着き、跳躍。帽子の鍔を掴み、着地する振り返って見ると、生徒は俺が鞄を置いた隣に立っていた。そこまで行って帽子を渡す。

「ありがと、急な風で飛ばされちゃってね」

帽子を受け取ったのが同じ高校の生徒だったのを見て、妙な組み合わせだと思った。てっきり大人の人かと思ってたんだが、まさか麦わら帽子を被って学校に行く生徒なんていない筈だ。

もしくは彼女も頼まれた方で、帽子の持ち主は他にいるんじゃないかと思いながら鞄を拾い上げると。

「あれ? よく見たらアンタ武川?」

「俺の事知ってるのか?」

「ほら、アタシよアタシ、同じクラスの月乃よ」

そこで思い出した。コイツは同じクラスの月乃だ。

「ところで武川、アンタなんでこっちの方向から来てるの? 寮は真逆よ」

「夏休みの間は家に居たんだよ、今日は家から来て寮に帰るつもりだけどな」

「ふぅん、家が近いのは何かと有利ね」

「そういう月乃こそ、どうしてここに……て、帽子が飛ばされたからだな」

「そういうことよ。ところでさ、武川」

「何だ?」

その時、

「み、雅さーん」

俺が向かい、月乃が来た方向から声が聞こえた。

「あ、花香忘れてたわ」

「花香?」

それって確か、

「町田花香の事か?」

「他に誰がいるのよ」

その町田が、息を切らしながら向かってきている。

「コレあの子のなのよ、それで飛んでったその場に居合わせたアタシが取りに走ったって訳」

「なるほどな」

どちらにせよ学生服に麦わら帽子は違和感があるけどな。

息を切らす町田を見て、俺達から近づいて行った。

「はぁ……はぁ……」

町田は月乃以上に息を切らしていた。確か、町田は運動神経が良い方じゃなかったよな。

「大丈夫、花香?」

「は、はいぃ……何とか」

大丈夫には見えないが。

「はい、コレ」

月乃は麦わら帽子を町田の頭に被せてやった。

「ありがとうございます。すみません、私なんかの為に……」

「お礼なら武川に言いなさい、取ってくれたのは武川だし」

「は、はい……ありがとうございます、武川さん」

頭を深々と下げられた。

「なに、大したことじゃないさ」

「ところでさっきの続きなんだけど。武川ってさ、もう部活入っちゃった?」

「部活? いや、入ってないが」

「じゃあ!」

ビシッ! と指をさされる。

「ぜひアタシ達の部活に来なさいよ、歓迎するわ」

「月乃達の部活?」

確か月乃の部活って……いや、それはどうでもいいか。

その頃の俺は、剣道部の戦績にガッカリして、帰宅部を選択していた時で、他の部活に入る気は全く無かった。

「悪いけど、俺は部活に入る気は無いんだ」

「あの帽子を取った時の跳躍力、即戦力になるわよ、花香も見られたら良かったのに」

「そ、そんなに凄かったんですか?」

2人して聞いてなかった。

「そうよ! アレはどんな運動系部活でも役に立ち、なおかつ練習で手に入れるのはかなり難しい、言わば天性の力よ!」

跳躍力なら剣道の飛び込みで目一杯練習したんだが。

「いや、だから俺は…」

「そうと決まったら花香! アレ出して!」

「はい!」

町田が鞄の中から入部届けを取り出した。いや何で入ってるんだよ。

「仕方ないわねー、花香、部の名前書いてあげて」

「はい!」

さらさらと紙にペンを走らせる。いや確かに部活の名前は知らないけど。

「だから俺は…」

「書けました!」

「さぁ武川!」

町田から受け取った入部届けが俺に突きつけられる。

「後はアンタの名前を書けば完了よ、ささっと書いちゃいなさい」

話を聞く気ゼロだった。

「どうぞ、武川さん」

町田がさっき使ったペンを差し出してくる。

「いや、だから…」

「さぁ! さぁさぁさぁ!」

段々と近づいてくる月乃と入部届け、近づき過ぎて部の名前が読めなくなった。

「う……わ、悪い!」

俺は2人の間を抜け、その場から逃げ出すように走った。

「あ! 待ちなさい創矢!」

月乃が後から追ってくる声と足音が聞こえる。

「み、雅さーん!」

遠くなる町田の声を聞いて、そのまま学校まで、俺達は走り続けたのだった。

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