元とクラスメイト
剣による剣の戦い。それを知る者は『剣の舞』
この出来事を知ってから、約一ヶ月が経とうとしていた。
発端は担任の先生に頼まれた一つの用事。クラスメイトである七ヶ橋三夜子を、クラスに馴染ませるというものだった。
そこからだ、剣の事を知り、三夜子が持っていた傘から剣を手に入れるのを手伝い、そして俺自身も剣を手に入れた。
すると待っていたのは戦い。そう、剣の舞だ。
そして、俺の初めての戦いは不戦勝……あるいは不戦敗? まぁ勝敗がつかなかったということで、俺はこれからも戦う事になる。
その先に待つものの為に―――――
「……とは言ったものの、か」
今は一限が終わったばかりの休み時間。その一限の間に最近あった事を整理していたら、授業が終わっていた。
それと同時に、恐らく、今一番近い先に待つものを思い出していた。
三夜子の主要四表情を導き出せ!
担任にして、三夜子の兄。本名、七ヶ橋大和先生に頼まれたことだ。
主要四表情とは、つまりは喜怒哀楽の事。それを無口無表情な三夜子から導き出せと言われた……のだが。要は三夜子を怒らせたり、果てには泣かせたりしなければいけないんだよな。
今更だが、先生は何を考えて俺を選んだのだろうか?
俺はクラスでも目立たない方だし、成績も中の中。
唯一珍しく帰宅部だったからという理由だが、俺は帰りが他の皆より早いだけの普通の――――
バァン!
「創矢あぁぁぁぁぁ!」
……あー、うん。少しばかり違ったかな。
力強く扉が開かれ、一人の生徒が教室へと入ってきた。クラス中の視線を集めたのは言うまでもない。
そういえば最近は見ていなかったが、特に変わった所の……え?
「今日こそ覚悟を決めてもらうわよ!」
彼女が席の前に来て、初めて正面を見た時に気づいた。
最後に見たときと明らかに変わっていることが一つ。
「あ、いや……あの…」
「さぁ!」
バン! 彼女は机の上に紙を叩きつけた。
部活名と学年は既に書かれ、後は名前を書いて顧問に提出すれば入部完了。入部届だ。
「ペンぐらいあるでしょ? さっさと書きなさい」
そう言って、腰まで届く長い髪をかき上げた。
「そ、その前に、いいか?」
「なによ?」
「それ、どうしたんだ?」
指をさし、大きく変わっていた場所を示す。
「ああ、コレ?」
彼女は自らの顔、その右目を覆っている眼帯に触れた。
傷跡を隠すための白い眼帯。それを着けている理由なんて医者の治せない病気である中二病か、もしくは、
「ケガしたのか?」
「……知りたいの?」
急に声のトーンが落ちた。まるで思い出したくないことを思い出したかのように、この場合――
「いや、そこまでじゃない」
「知りたかったら、そこの入部届けに名前を……て、はぁぁ!?」
うん、良からぬことを考えていたな。
「なんでよ! そこは聞きたくなるもんでしょ!」
「その為のリスクが大き過ぎる。というか、最近来なかったから諦めてくれたものだと思ってたが。それが原因なんだな」
「当たり前じゃない。アタシは絶対に諦めないわよ」
はぁ、全く……
「流石だな、月野宮」
「な!? そ、それで呼ぶんじゃないわよ!」
バンバン! と机を叩く彼女は、月野宮とつけられたあだ名で呼ばれるのを最も嫌っていた。
彼女の本名は月乃 雅。一年の時に同じクラスで、その時にあったとある事件以降クラスが変わった今でもこの状況だった。
ここ最近忙しい時に来なかったのは、どうやらあの眼帯が関係しているらしい。
「コレのせいで暫く行けなかったけど、今日こそは諦めないんだからね!」
「それ前にも聞いたな」
「うるさい!」
バンバン!
その音が一番うるさいんだけどな……それはともかく、言っておかないとな。
「……わるい、実は入ったんだ。部活」
「……へ?」
月乃は目を丸くし、首を傾げる。
「だから、入ったんだよ、部活に」
「はぁぁぁぁ!?」
耳がキーンとなった。
「なに!? 一体何部に入ったの!?」
「えと、パズル部」
「なにそれ?」
聞いたことがなくても仕方ない、出来てまだ新しいからな。
「パズル、てことは文化部よね? よりにもよってなんで文化部なのよ」
「えと、先生に誘われて」
嘘ではない。ただ真実は隠しておく。
「あ、でも文化部なら掛け持ちオッケーよね、そうと決まったら名前を…」
そう来たか。
確かに部活の掛け持ちは可能だ。現にパズル部の押川は陸上部でもある。このように運動部と文化部を掛け持つ生徒は少なくない。
「だからって……」
「大丈夫よ、アンタの名前簡単だから」
「三文字には言われたくないな」
「いいから書きなさい!」
その時、チャイムが鳴った。二限開始のチャイムだが、今ばかりは助けられたと感謝する。
「あ……うぅ、またダメだったわ」
肩を落とした月乃を見ると可哀想だとは思うが、いつだったかそれで泣き落とし作戦を実行してきてからはそう思うのをやめた。
「けど、アタシは絶対に諦めないから! 絶対よ!」
そう言い残して、月乃は教室の扉へと走った。
もうチャイム鳴ったしな、間に合うか微妙ところだが。
「あ」
そう思ってた瞬間、廊下から生徒が入ってきた。
「危な…」
あのままだとぶつかる!
「……」
だが、入ってくる側の生徒が横に反れ、衝突はまのがれたが、
「とぉ!?」
月乃は止まろうとした力が勢い負けし、床に倒れ込んだ。
「……大丈夫?」
しゃがみ込んで月乃の安否を訊いているのは、三夜子だった。
「いたたた……ああ、うん、何とかね」
アイツが安否を確認するとはな、いやさすがにほっておく訳はないか。
とその時、
「大丈夫ですか雅さん!?」
教室内からもう一人、生徒が月乃に駆け寄った。
えっと、誰だったかな……
「だから大丈夫だって……あら、花香」
「はい!」
あー思い出した。一年生の時に同じクラスだったっけ。確か、町田花香って名前だった筈だ、あまり目立たない奴だからな、うろ覚えだった。
でも今更ながら思い出してみると、町田はいつも月乃と一緒に居たような気がしたな、きっと友達なんだろう。
「雅さん、次の授業始まりますよ」
「そうだったわ! ありがと花香、じゃあね」
立ち上がった月乃は、そのまま走り去っていった。
「七ヶ橋さん、私たちも教室へ入りましょう」
月乃を見送った後、町田は隣に立っていた三夜子に声をかけ。
「……うん」
お? 言葉を返した?
そのまま2人は、自身の席に戻って行った。




