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盾にされた私、異世界ではただの猫です  作者: 蛇目菊 欲狐
第2章
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閑話-王妃の衝撃

【王妃エレノア視点】


『恩猫様』という存在の噂を耳にするようになった頃から、私は薄らと興味を抱いておりました。


ヴェイルガストさえ討伐しうる存在。


……一体どれほど神々しく、近寄り難いものなのかと思っていたのです。


ですが、実際にお会いした恩猫様は――


あまりにも愛らしい存在でした。


城の使用人たちから聞く話では、

神秘的で、神聖で、畏れすら抱くような存在だと聞いておりましたのに。


蓋を開けてみれば、

艶やかな黒い毛並みを持つ、小さく愛くるしい猫様だったのです。


……触れてみたい。


そう願ってしまうのは、もはや仕方のないことだったのでしょう。


突然の無礼な願いにも関わらず、

恩猫様は快く許可してくださいました。


恐る恐る触れた毛並みは、驚くほど柔らかく、ふわふわとしていて。


まるで、少し力を込めれば消えてしまうのではないかと思うほど繊細でした。


壊してしまわぬよう、慎重に撫で続けていると。


不意に、恩猫様の方から私の手へ擦り寄ってくださったのです。


小さな身体から伝わるぬくもり。


柔らかな感触。


そこではじめて、“神秘”ではなく、

確かに生きている存在なのだと実感できました。


……そして。


消えてしまわないのだと理解した瞬間。


元来、可愛いもの好きである私は、

完全に理性を失ってしまいました。


恩猫様を抱き上げ、

夢中で撫で回してしまったのです。


王妃たるものが、我を忘れるなど……。


なんと恥ずかしい真似をしてしまったのでしょう。


後になって冷静さを取り戻した私は、

羞恥と申し訳なさでいっぱいになりました。


恩猫様には、本当に失礼なことをしてしまいましたわ……。


ですが。


気を取り直し、

王妃としての威厳を取り戻そうとした、その直後。


私の決意は、呆気なく打ち砕かれることになります。


辺境伯家が新たに養子を迎える。


その相手が恩猫様だと聞かされた時、

私は当然理解できませんでした。


恩猫様は猫。

その名の通り、“猫”であるはずなのですから。


けれど。


次の瞬間、私の目の前で起きた光景は、

そんな常識を容易く覆しました。


鈴の音と共に、

恩猫様の身体が淡い光に包まれていく。


ふわり、と。


光の中から現れたのは、一人の少女でした。


夜の闇を溶かしたような、長く美しい黒髪。


絹のように滑らかに揺れるそれは、

光を受けるたび艶めいて見える。


身に纏う濃紺のドレスは、

まるで夜空そのもの。


星々を散りばめたような幻想的な意匠が、

白く透き通る肌をより際立たせていました。


そして、ゆっくりと開かれる瞳。


美しい金色。


けれどその奥には、

虹色の輝きが揺らめいていたのです。


見る者を魅了し、

引き寄せてやまない――神秘の色。


ですが、その瞳はすぐ伏せられ。


少女は優雅にカーテシーを行いながら、

静かな声で名乗りました。


「志乃鈴と申します」


その声は、間違いなく先ほどまでの恩猫様のもの。


あまりの衝撃に、

私は言葉を失いました。


そんな静寂を破るように、

レオンの笑い声が響きます。


「昨日、こちらが散々驚かされた仕返しのつもりだったが……

想像以上に効いたな!」


……仕方がないではありませんか。


私は王妃として、

感情を表に出さぬ訓練を積んで参りました。


ですが。


そんな訓練など無意味になるほど、

目の前の光景は衝撃的だったのです。


あれほど愛らしかった恩猫様が。


今度は、神に見紛うほど神秘的で、

けれど儚く、美しい少女の姿を取るなど――


一体、誰が想像できたでしょうか。

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