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盾にされた私、異世界ではただの猫です  作者: 蛇目菊 欲狐
第2章
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19-その名は、リン

王妃様が心ゆくまで私を撫で、もふもふを堪能し尽くしたあと。

乱れた毛並みを使用人の方に丁寧に整えていただき、ようやく席について話し合いが始まろうとしていた。


「……大変失礼いたしました、恩猫様」


エレノア様が、恥ずかしそうに扇で口元を隠しながら言う。


「大丈夫ですよ。私の毛並みは、ご満足いただけましたか?」


そう問いかけると、


「ええ、とっても」


食い気味に返ってきた。


まだ手元がそわそわと動いているあたり、どうやら撫で足りないらしい。


「落ち着け、エレノア……。

すまんな、恩猫様。普段はここまでではないのだが……」


国王陛下が苦笑混じりにため息をつく。


「あなたは国賓にあたる存在だ。本来、このような無礼は許されぬ。

だが……エレノアは普段抑えているぶん、可愛いものを前にすると箍が外れてしまってな」


「大丈夫です。王妃様も日頃お疲れでしょうし、少しでも癒しになれたのなら嬉しいです」


そう笑って答えると、国王陛下はわずかに目を細めた。


「その寛大さに感謝する」


……やっぱり、この方はよく見ている。


王妃様を止めなかったのも、私が嫌がっていないことを見極めたうえでの判断だったのだろう。


レオンハルト様から話を聞いているだけでなく、私自身についてもかなり調べているはずだ。


侮れない方だな、と改めて思う。


「さて、そろそろ本題に入ろうか」


空気を切り替えるように、国王陛下が姿勢を正す。


「レオン。お前、“養子を迎えたい”と申請を出していたな。

その子を連れてくると聞いていたが……どこだ?」


「ああ。もういる」


「……もういる?」


国王陛下が怪訝そうに眉を寄せる。


「どこにいる?」


「ここに」


レオンハルト様が、すっと私を指差した。


数秒の沈黙。


「……何の冗談だ?」


国王陛下が呆れたように言う。


「冗談ではない。大真面目だ」


レオンハルト様は真顔で返した。


すると、国王陛下の目がすっと細められる。


「恩猫様を国益利用したくない、と言っていたな。

……そのお前たちが、恩猫様の力を取り込むつもりか?」


静かな声音。

けれど、その奥には鋭い探りがあった。


「恩猫様にも了承を得た上での話だ」


「だとしても、恩猫様は猫です。

養子など――」


王妃様まで困惑した様子で口を開く。


……まあ、当然の反応だよね。


でも、それは“私が猫だけである”前提の話。


「アベル」


レオンハルト様が真っ直ぐ国王陛下を見る。


「この場にいる者たちは、信用できる者たちだけか?」


「? ああ。

幼い頃から仕えている者ばかりだが……」


訝しげに答える国王陛下。


「なら問題ない」


そう言ってから、レオンハルト様は私を見る。


「恩猫様……いや、リン。

頼んでもいいか?」


「……はい」


胸が緊張でうるさいほど鳴っている。


けれど、ここで隠し続けるわけにはいかなかった。


私は席から降り、少し離れた場所へ歩いていく。


そして、胸元の守鈴へ静かに祈った。


――人の姿に。


ちりん、と。


澄んだ鈴の音が庭園に響く。


淡い光が私の身体を包み込み、

黒猫の小さな肢体がゆっくりと変化していく。


伸びる手足。

形作られる指先。

黒い毛並みは淡い光へ溶け、

やがて一人の少女の姿へと変わった。


光が静かに消える。


私は、少しぶりの人の身体で立ち上がった。


そして、緊張で震えそうになるのを堪えながら、

スカートの裾を摘み、拙いカーテシーを行う。


「恩猫改め、志乃鈴と申します」


顔を上げ、国王夫妻を見る。


「皆からは“リン”と呼ばれております。

どうぞ、よろしくお願いいたします」


ちゃんとできただろうか。


失礼はなかっただろうか。


心臓をばくばくさせながらそっと視線を上げる。


――しん、と。


庭園が静まり返っていた。


……あれ?


もしかして、失敗した……?


不安になっていると、


「――ははっ!」


突然、レオンハルト様が大きく笑い出した。


「昨日、こちらが散々驚かされた仕返しのつもりだったが……

想像以上に効いたな!」


そう言われ、恐る恐る国王夫妻を見る。


そこには――


目を見開き、

呆然と私を見つめる国王夫妻の姿があった。

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