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盾にされた私、異世界ではただの猫です  作者: 蛇目菊 欲狐
第2章
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16-役目の始まり

「これで少しは、気持ちの整理がついたかしら?」


ルミナリア様が、柔らかな声音で問いかけてくる。


そうか――。


この方たちは、あの日から私が抱え続けていた苦悩や疑問に、向き合う時間を与えてくれていたのか。


胸元に下げた、かつてあの子へ贈った首輪の鈴へそっと触れながら、私は答えた。


「ありがとうございます。

お陰で少し、考えがまとまりました」


「そう。ならよかったわ」


満足そうに微笑んだあと、ルミナリア様はふと思い出したように口を開く。


「最後にもう一つだけ聞かせて。

あなた、この世界でどう生きていきたい?

猫として? それとも、人として?」


猫としてか、人としてか――。


最初の私は、誰とも関わらず、猫として生きることを選んだ。


森で自由に暮らし、誰にも迷惑をかけずに生きる。

あの生活は、確かに穏やかで楽しかった。


けれど――。


「……辺境伯家の皆さんと関わるようになってから、この世界をもっと知りたいと思うようになりました」


静かな声で、自分の想いを言葉にする。


「猫の姿では、知れることにも限界があります。

だから……これからは、人としてこの世界を知っていきたいです」


その言葉に、ルミナリア様は満足そうに目を細めた。


「それなら、学園へ行ってみるのはどうかしら?」


「学園……?」


思わず聞き返す。


そういえば、テオドールは学園へ通っていたはずだ。

アンネリーゼも、来年には入学すると聞いている。


「そうそう。学園なら世界のことも学べるし、人との関わりも増えるでしょう?」


確かに、その通りかもしれない。


知らないことを知ることができる。

人とも関われる。


今の私には、ちょうどいい場所なのかもしれない。


……ただ、一つだけ問題があった。


「でも私……前の世界では、もう成人していたんですが……」


そう。

社会人として働いていた身で、今さら学生になっていいのだろうか。


そんな不安を口にすると、ルミナリア様は呆れたように笑った。


「変なところで真面目ねぇ。

大丈夫よ。あなた、肉体は若返ってるんだから。見た目で分からないわ」


「あ……」


そういえば、そうだった。


前の世界の面影は残っているものの、随分若い姿になっている。


「ただ、本来の姿だと結構目立つわね。

この前、街へ行った時の見た目――茶髪と茶色の瞳の姿で入学しなさいな」


「ああ、辺境伯家の養子になる予定なのでしょう?

ちょうどいいじゃない」


確かに、この世界では黒髪も金色の瞳も珍しい。


茶色なら、街でも何度か見かけた。

その方が自然に溶け込めるだろう。


……まあ、辺境伯家の皆さんがあまりにも整った顔立ちをしているせいで、並ぶと少し申し訳なくなる気はするけれど。


「……この子、自分の容姿にまで無頓着だったのね……」


ルミナリア様が頭を抱える。


対してテラ様は、どこか穏やかな眼差しでこちらを見つめていた。


「まあいいわ。

そろそろ戻りましょうか」


ルミナリア様が立ち上がる。


「時間は止めているけれど、長く留まりすぎると世界に影響が出るもの」


「そうですね。

私も、伝えるべきことは伝えましたから」


テラ様も静かに立ち上がった。


それに続くように、私も席を立つ。


「ありがとうございました。

お時間を作ってくださって……」


そう言って頭を下げると、二柱は小さく笑った。


「気にしなくていいのよ。

私たちにとっては、瞬きほどの時間なのだから」


「さあ、お戻りなさい」


テラ様が静かに告げる。


「そして、この世界を広く識りなさい」


その言葉と共に、世界が眩い光に包まれていく。


私はそっと目を閉じた。


――元の世界へ戻る、その直前。


小さく、ルミナリア様の声が聞こえた気がした。


「……そして、あなたの役目を果たすのです」

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