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盾にされた私、異世界ではただの猫です  作者: 蛇目菊 欲狐
第2章
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13-猫神のはじまり

「――まずは、私と猫神の関係から話しましょうか」


テラ様が静かに語り始める。


「星に生命が宿り、やがて“人”という種が文明を築き始めた頃」


「私は、それらを観測し、見守っていました」


穏やかな声。


けれど、その言葉の一つひとつから、果てしない時の流れを感じる。


「目まぐるしく変化していく世界を眺める中で、私は、とある島国へ興味を持ちました」


「その国は、他の大陸と同じように発展しながらも、どこか異質だったのです」


「独自の文化を築き上げ、独自の価値観を育てていた」


「――特に、私の興味を引いたのが、“八百万の神”という思想でした」


八百万の神。


確か、前の世界で聞いたことがある。


「他の地域の人々は、“唯一絶対の神”や“主神”を信仰することが多かった」


「ですが、その島国の人々は違った」


「山にも、川にも、木々にも、道具にさえ神が宿ると考え、敬意を払っていたのです」


テラ様はどこか懐かしそうに目を細める。


「私は、その考え方をとても興味深く感じました」


「故に、その国を特に注意深く観察するようになったのです」


静かな空間に、テラ様の声だけが響く。


「観察を続けるうちに、その国が非常に災害の多い土地であることを知りました」


「地震、津波、台風、火山――多くの脅威に晒されながら、それでも人々は懸命に生きていた」


「……私は、その国が滅ぶことを惜しいと思ったのです」


そう語る声音は、どこか優しかった。


「だから私は、自身の力の一部へ意思と命を与えました」


「木、花、蝶、魚、鳥……様々な形を与え、その国へ送り出したのです」


私は思わず息を呑む。


それが、“神”の始まり。


「もっとも、世界へ大きな影響を与えぬよう、与えた力はごく僅かなものでした」


「本来であれば、役に立つかも怪しい程度の力です」


「ですが――あの国には、“信仰”があった」


テラ様の瞳が静かに細められる。


「彼らは、神を信じる」


「ならば土地へ溶け込み、信仰を得ることができれば、その力はいずれ増幅される」


「やがて国を守る結界となるだろうと考えました」


「そして、その目論見は成功したのです」


送り出された力たちは土地へ定着し、人々の信仰を受け、国を守る存在となっていった。


「……ただ、一つを除いては」


その瞬間。


空気が少し変わった。


「ある力が、1匹の“黒猫”の姿を取って地上へ降り立ちました」


「ですが、その猫は降り立った先で怪我を負ってしまった」


「力の使い方も分からず、土地へ溶け込むこともできず――そのまま朽ちようとしていたのです」


静かな声。


だけど、その情景が目に浮かぶようだった。


「そんな時、一人の人間がその猫を助けました」


「貧しい暮らしをしていた男です」


「自分が生きるだけでも精一杯だったにも拘らず、彼は懸命に猫を看病した」


「猫を見捨てなかったのです」


私の胸が、少し締め付けられる。


「男は、回復した後も猫を放り出そうとはしませんでした」


「むしろ、“最後まで面倒を見る”と決め、その猫を家族として迎え入れようとした」


「……猫は、その優しさに惹かれたのでしょう」


テラ様が静かに微笑む。


「持っていた力を、その男へ使いました」


「もっとも、人間に使ったところで、ささやかな幸運を呼ぶ程度の力です」


「ですが猫は、その力を一人の男のために使い切ってしまった」


それは、本来の役目に反する行為だった。


「故に私は、その猫を回収しようと考えました」


「……ですが」


テラ様の声音が、わずかに柔らかくなる。


「猫は再び力を取り戻したのです」


男が口にした。


“この幸運は猫のおかげだ”と。


「男は、さらに猫を大切に扱うようになりました」


「その結果、世界は“猫が信仰を得た”と認識したのです」


信仰。


それが、神を神たらしめる。


「猫は得た力で男を支えました」


「男もまた、その幸運を独占しなかった」


「商売を始め、富を得て、それを自分と同じ境遇の者たちへ分け与えるようになったのです」


「そうして、また一人、また一人と猫を崇める者が増えていった」


「やがて男は、その土地の地主にまでなりました」


静かな語り。


けれど、その物語は温かかった。


「そして、猫が寿命を迎えた後も」


「男と、その子孫たちは猫を忘れなかった」


「代々、語り継いだのです」


テラ様がゆっくりと、言葉を紡ぐ。


『黒猫は幸福の象徴』


『愛し、慈しみ、大切にしなさい』


その言葉に、胸が震えた。


テラ様は静かに私を見る。


「――それが、あの猫神と、あなたの祖先の始まりです」

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