12-理から外れた者
「その『創造』ね。本来、私たち以外には持つことのできない力なの」
ルミナリア様が静かに告げる。
「……私たち“創造者”が、その力で世界を創り上げていくの」
「分かりやすく言えば、“創造者の権限”のようなものですね」
続けるように、テラ様が補足した。
創造者の、権限。
スケールの大きすぎる話に、思考が追いつかない。
「でも、あなたはそれを手に入れてしまった」
ルミナリア様がじっとこちらを見る。
「――なぜだか、分かる?」
問われても、答えられるはずがない。
私は望んでこの力を得たわけではないのだから。
「そうよね。分からないわよね」
ルミナリア様は小さく息を吐く。
「まず一つ。あなたはこの世界において、“転移者”というイレギュラーだから」
「……イレギュラー?」
思わず聞き返す。
だって、私はルミナリア様にこの世界へ招かれたはずだ。
「本来であれば、転移した魂は世界へ定着するのです」
今度はテラ様が説明を引き継ぐ。
「その世界の理に馴染み、制限を受け、その世界の住人となる」
「ですが現在、あなたはどの世界にも完全には定着していない」
「世界の理による制限を、受けきれていない状態なのです」
……世界に、定着していない。
制限を、受けない。
言葉の意味は分かる。
でも、理解が追いつかない。
「そして、それを引き起こした二つ目の原因が――あなたを見守っていた“猫神”の存在よ」
猫神。
あの白い空間で会った、あの神様。
「……あの猫神、あなたが刺されて死にかけた時、あなたの命を繋ぐために、ほとんどの力を使っているの」
「……え?」
思わず声が漏れる。
私は、あの時死んだのではなかったのか。
「いいえ」
ルミナリア様が静かに首を振る。
「魂が完全に死んでしまえば、世界へ還ってしまうの」
「だから、こちらへ招くには、“生きている状態”を保たなければならなかった」
「故に、あの者は力を使った」
テラ様が淡々と続ける。
「猫神の力が、あなたの身体へ流れ込んだ」
「そして、猫神から与えられた加護も重なり、あなたはどの世界にも完全には取り込まれない、“特殊な存在”となったのです」
神の、力。
そんなものが私の中にあるなんて、想像もしていなかった。
「そして――」
ルミナリア様の声が少し低くなる。
「世界の理から外れたあなたが、強い意志を持って力を行使した」
「猫神の力と加護、私が与えた能力、それらを組み合わせて――擬似的に“創造”へ到達してしまったのよ」
頭が真っ白になる。
あまりにも話が大きすぎた。
私は、どうなってしまうのだろう。
そんな不安が胸を埋め尽くしていく。
「本来なら」
ルミナリア様が真っ直ぐこちらを見る。
「イレギュラーで、なおかつ“創造”を持つあなたは、“排除対象”になるわ」
その言葉に、息が止まった。
けれど。
「――でも、あなたにはこの世界に残ってもらうことにした」
予想外の言葉に目を見開く。
「ただし、条件があるけどね」
「……条件?」
「私の“眷属”になることよ」
眷属。
聞き慣れない言葉に戸惑う。
「あなたは今、世界の理で完全に管理できない存在になっている」
「そんな存在が、もし信仰を集め、本当に“神格化”してしまえば、世界の均衡が崩れる可能性があるの」
なるほど。
つまり、ルミナリア様の管理下に置く、ということなのだろうか。
「安心していいわ。別に無理やり別の存在へ変えるつもりはないもの」
私の考えを読んだのか、ルミナリア様が苦笑する。
「基本的には半神になることが多いけど、望まないなら“眷属”という立場だけ与えて、今のままでも構わないわ」
……それなら、その方がいい。
神様になるなんて、想像もつかない。
それに、そもそも私なんかが信仰される理由なんて――。
「……誰よ、この無自覚っ子をうちに送り込みたいって言ったの」
呆れたようにルミナリア様が顔を覆う。
「……私ですが」
テラ様が静かに返した。
「元々、猫神から強く頼み込まれていましたので」
「まぁ、その猫神のお陰であなたとも話せてるし、結果的には良かったんだけどね」
次々と語られる情報に、頭が追いつかない。
でも、その中で。
私の意識は、ずっと“猫神”に向いていた。
力を使い果たすほど、私を生かそうとした。
転移まで頼み込んだ。
どうして。
なぜ、そこまで。
前の家族には、“守護神に見捨てられた無能”だと言われていた。
なのに、その守護神本人は、私を守っていたという。
父でも、母でも、兄姉でもなく。
どうして、私を――。
「随分混乱しているようですね」
テラ様が穏やかに言う。
「無理もありません。見守られていた自覚など、あなたにはなかったのでしょうから」
「……まぁ、私から話すべきことは一通り話したわね」
ルミナリア様が肩の力を抜く。
「これ以上説明しても、今のあなたには入ってこないでしょうし」
図星だった。
情けないことに、今の私は猫神様のことで頭がいっぱいだった。
「……そうですね」
テラ様が静かに頷く。
「では次は、その猫神についてお話ししましょう」
「元より、そのつもりではありましたしね」
どこか懐かしむように、テラ様は目を細めた。
「まぁ……あの者は、自分のことを語られるのを好みませんが」
「今回は、私の権限ということで」
そして。
静かな声音のまま。
世界の根幹に関わるような事実を、淡々と口にした。
「――元々、猫神……あの者は、私の力の一部でした」




