11-創造の片鱗
「――あなたについて、話しましょうか」
そう告げられ、思わず身体が強張る。
「そうね……まずは、その能力についてからかしら」
ルミナリア様が指先を軽く動かす。
すると空中に、透明な板のようなものが幾重にも浮かび上がった。
そこには見慣れない文字や数値が映し出されている。
「簡潔に言うと、今のあなたって、かなりチートなのよね」
「……チート?」
思わぬ単語に、思わず聞き返してしまう。
「ええ。まず、元々の素質が高いのよ」
ルミナリア様は指を滑らせながら続ける。
「知能、体力、忍耐力、精神力。どれも平均値を大きく超えてる」
「あと、病気や毒への耐性も高いわね……きっと、前の世界で色々と無理をしてきたのでしょうけど」
……頑張ってきた、のはそうだ。
でも、それは。
『無能』だと言われていたから。
『出来損ない』だから、人より努力しなければいけなかっただけ。
体調を崩して休むなんて、許されなかった。
だから、どうしてそれが“チート”になるのか分からない。
そんな考えを読んだのか、ルミナリア様が眉を下げた。
「……あなた、本当に自己評価が低いのね」
その声音は、少し痛ましげだった。
「志乃鈴。あなたは、他の人よりずっと多くの困難を乗り越えてきたの」
「それでいて、“無能”なんてあり得ないわ」
きっぱりと断言される。
その真っ直ぐな言葉に、逆に戸惑ってしまう。
「私も、もちろん力は与えたわ」
ルミナリア様が指を折りながら数えていく。
「『変身』『治癒』『鑑定』『収納』」
「他にも、この世界に適応するための加護と、魔法適性、それなりの魔力量も与えている」
「……それは私も確認しています」
今度はテラ様が静かに口を開いた。
「ですが、本来は“最低限”の範囲だったはずです」
「魔法の存在しない世界から来ると聞いていましたし、森で生活すると聞かされていましたからね」
淡々とした口調。
けれど、その視線は真っ直ぐこちらを見ていた。
「でも、あなたは想定以上にこの世界へ適応してしまった」
ルミナリア様が苦笑する。
「しかも、よりにもよって『縫い目の森』に落としたのに」
――縫い目の森。
その言い方に、妙な引っ掛かりを覚える。
「……ルミナリアは、あなたがこの世界にとって“毒”になる可能性も考えていたんです」
テラ様が静かに告げた。
「だから、危険な森へ落とした。そこで適応できるか試そうとしたんですよ」
「ちょ、ちょっと言い方!」
ルミナリア様が慌てたように声を上げる。
「だ、だって! 別世界の魂なんて、本来イレギュラーなのよ!? 世界に悪影響を及ぼす可能性だって――」
「ですが、結果として彼女は適応した」
テラ様が話を戻す。
「それどころか、魔力の扱いを独学で覚え、成長した」
「あなた、自覚ないでしょうけど、森の魔物が近寄らなかったのって、無意識に魔力で威圧していたからなんですよ」
「え……?」
思わず間抜けな声が漏れる。
「あと、あなたが森で試していた魔法」
ルミナリア様が呆れ半分に肩を竦めた。
「あれ、この世界だと新発見や新技術レベルなのよ?」
「そんな風に努力を重ねて、工夫して、前へ進み続けられる人が、“無能”なわけないでしょう?」
優しい声だった。
けれど。
長年刷り込まれた感覚は、そう簡単には消えない。
信じたくないわけじゃない。
でも、自分を肯定する方法が、分からなかった。
「……相当根深いわね、その自己否定」
ルミナリア様が小さく溜息を吐く。
けれど次の瞬間。
その空気が、変わった。
「でも、あなたは力を掴み取った」
ふわりと微笑む。
なのに、その声音には鋭さが混じっていた。
「守りたいものを守るために」
「神に近しい“創造”の力を――発現させてしまった」
その言葉で理解する。
――ここからが、本題なのだと。




