10-創世の神々
長く波打つ髪は、白銀にも見えた。
だが光を受ける度、その髪は淡く虹色を滲ませる。
金。
蒼。
薄紅。
紫。
世界のあらゆる光を溶かし込んだような、神秘の色彩。
金の睫毛に縁取られた瞳もまた、揺らめく虹彩を宿していた。
白と金を基調とした衣を纏うその姿は、先ほど見た像よりも遥かに美しい。
――これが、ルミナリア神。
思わず見惚れていると。
「あら? どうしたのかしら?」
本人は自覚がないのか、こてりと首を傾げて問いかけてくる。
その仕草ひとつでさえ、人々を魅了してしまいそうだった。
「ルミナリア……あなた、自分の今の容姿を理解していますか……?」
不意に、もうひとつの声が響く。
この声も、転移前に聞いた覚えがあった。
振り向く。
そこにいたのは、ルミナリア神とは対照的な存在だった。
闇夜を溶かしたような、真っ直ぐな黒髪。
深い夜空を思わせる瞳。
衣もまた、宇宙を切り取ったかのような深い紺色で統一されている。
肌には微かな光が宿り。
髪や衣が揺れる度、星屑のような光が静かに零れ落ちた。
男性にも、女性にも見える中性的な容姿。
静寂そのもののような美しさが、その身にはあった。
華やかなルミナリア神とは違う。
けれど、目を逸らせないほど神秘的だった。
「……テラ。あなたこそ、自分の容姿を理解すべきだと思うわ」
ルミナリア神が呆れたように言う。
「私は神殿を通して顕現しているから、それに合わせた姿を取っているだけ。でも、あなたは素でそれなのだから」
テラと呼ばれたその神は、僅かに首を傾げた。
「……そうか?」
どうやら、この方も自身の容姿には無頓着らしい。
二神の会話を聞きながら、ようやく思考が追いついてくる。
白い空間。
以前にも来た場所。
――ここは、神域?
「あら、ようやく意識が戻ったわね」
ルミナリア神が楽しげに笑う。
「正解。ここは神域よ」
……声に出してないのに。
考えを読まれたことに驚く。
「神域は私たちの力で満たされた領域だから、思考を読むくらい造作もないの」
さらりと言われ、少しだけ納得する。
……確かに、神様ならできてもおかしくない。
でも、前に来た時はそんなこと――
「ああ、あの猫神のことですね」
今度はテラ様が答えた。
「万全の状態なら、同じことができたでしょう。ですが、あれはあなたのために随分と力を使っていましたから」
淡々とした声。
「空間を開くだけで精一杯だったのでしょう」
――それは、どういう意味……?
疑問が浮かぶ。
「その話も後でしましょう」
ルミナリア神が柔らかく微笑む。
「積もる話もあるし、まずは座りましょうか」
その言葉と同時に。
何もなかった空間に、椅子と机が現れた。
しかも、椅子が勝手に動き出し、私の背後へ回る。
まるで「座って」と促すみたいに。
恐る恐る腰掛けると、今度は椅子ごと机の前まで滑っていった。
……神域、なんでもありすぎる。
気づけば、二神はすでに向かい側へ座っていた。
「改めて――私は、この世界の創造者」
ルミナリア神が優雅に微笑む。
「ルミナリアと呼ばれている者よ」
そして、隣へ視線を向けた。
「こちらはテラ。あなたの前の世界の創造者」
「……テラ?」
聞き慣れない名に、思わず首を傾げる。
すると、テラ様が静かに口を開いた。
「その名は、ルミナリアが勝手につけたものだ」
どこか不服そうな声。
「私は元々、名を持たない」
「あのねぇ」
ルミナリア神が呆れたように言う。
「あなたの世界、ただでさえ神様だらけなのよ? 創造者に名前がなかったら、威厳も何もないでしょう?」
「別に構わない」
テラ様は淡々と返す。
「私の世界は、あの世界に生きる者たちの進化あってこそのものだ。各々が信じたいものを信じればいい。そこに私が名乗る必要はない」
「あなたは本当に……寛容なのか、無頓着なのか……」
ルミナリア神が頭を抱える。
そんな彼女から、テラ様はふいと視線を逸らした。
……なんとなく。
二神の関係性が分かる気がした。
「あぁ、話が逸れてしまったわね」
ルミナリア神が咳払いをひとつして、改めて私を見る。
そして。
優しく、けれど真剣な目で告げた。
「――さて、話しましょうか」
「あなたについて」




