8-神に近し力
「……確かに、恩猫様の力は極めて価値が高い」
国王陛下が静かに口を開く。
その一言に、
空気がぴんと張り詰めた。
――価値。
その言葉に、胸の奥がざわつく。
もし、この力を利用されることになったら。
国のため。
戦争のため。
誰かを制圧するため。
そんな風に使われることになったら――。
思わず身体が強張った。
「陛下、それは――」
レオンハルト様が声を上げる。
だが、国王陛下は片手を軽く上げ、
その言葉を制した。
「勘違いするな、レオンハルト」
静かな声だった。
だが、その一言で場が静まり返る。
「余は、この力を無闇に利用すべきではないと言っている」
その視線が、私へ向けられる。
「恩猫様の力は、人の理を超えている。
それはもはや魔法というより――神秘に近い」
国王陛下が、ゆっくりと振り返る。
「そうであろう。神殿長殿」
視線の先。
そこには、白衣を纏った老人が立っていた。
長い白髭を撫でながら、
穏やかな笑みを浮かべている。
「ええ、お言葉の通りかと」
神殿長は静かに頷く。
「詳しくは神殿にて調べねば分かりませぬ。
ですが、恩猫様より感じる力は、あまりにも神性に近い」
神性。
その言葉に、場がどよめいた。
「神に近い力だと……?」
「まさか……」
「本当に神の使いなのか……?」
ざわめきが一気に広がる。
私は、その言葉に戸惑いを隠せなかった。
――神?
私が?
そんな大それた存在なはずがない。
困惑する私をよそに、
国王陛下が再び口を開く。
「静まれ」
低く響いたその声に、
場は瞬時に静寂へ戻った。
「余は宣言する」
そう言って、国王陛下は私の前まで歩み寄る。
そして――。
ふわりと、私の身体を抱き上げた。
「にゃっ……!?」
突然のことに驚いて目を丸くする。
だが、国王陛下は構わず堂々と宣言した。
「この恩猫様の意思に反する力の行使を、
ルミナリア王国において禁ずる」
場がざわつく。
「さらに――」
国王陛下の琥珀の瞳が、
真っ直ぐ前を見据える。
「恩猫様の身柄は、余――アルベリオン・ルミエルが保証する」
空気が止まった。
誰も、すぐには言葉を発せなかった。
それほどまでに、その宣言は重かった。
国王自らの庇護。
それはつまり、
国が正式に私を保護対象と認めたということ。
周囲の貴族たちも、
驚きを隠せない様子でざわめいている。
そんな中。
レオンハルト様だけは、
小さく息を吐きながら苦笑していた。
……どうやら、ある程度予想していたらしい。
けれど、その表情は少しだけ不満そうでもある。
「……囲い込み過ぎではありませんか、陛下」
ぼそりと漏らした声に、
国王陛下が楽しげに笑った。
「何を言う。貴様も似たようなことを考えておっただろう」
「否定は致しませんが」
そんなやり取りを聞きながら、
私はただ呆然としていた。
――守る、と。
国王陛下は、そう言ってくれた。
利用するのではなく。
縛るのでもなく。
私自身の意思を尊重すると、
この国の王が宣言してくれたのだ。
胸の奥に、じんわりと熱が広がる。
私は、そっと国王陛下を見上げた。
その視線に気付いた陛下が、
ふっと穏やかに目を細める。
「安心せよ、恩猫様」
威厳ある王の声。
けれど、その響きはどこか優しかった。
「この国は、そなたを脅かすためではなく――守るためにある」




