7-神秘の証明
注目を浴びる中、私は何を見せるべきか思案していた。
――『創造』を使うには、大規模なものは危険だ。
生命力の消費が激しい上、未だ能力を完全には制御しきれていない。
かといって、普通の属性魔法だけでは、ここにいる者たちを納得させるには足りないだろう。
どうするべきか悩んだ時、ふと森で一人、魔法の練習をしていた頃を思い出した。
……あの時は上手くいかなかった。
けれど今なら、『創造』と組み合わせれば可能かもしれない。
属性魔法を核にして形を与える。
そうすれば、『創造』単体より生命力の消耗を抑えられるはず。
――試したことはない。
それでも、今この場でやるしかなかった。
私は静かに意識を集中させる。
足元へ、白銀の魔力が零れ落ちた。
淡い水色の光が床に滲み、
ゆっくりと輪郭を形作っていく。
やがて。
そこに現れたのは、一頭の狼だった。
雪のように白い毛並み。
その内側には、
氷晶を思わせる淡い青の光が静かに流れている。
吐息は白く。
瞳は、月光を閉じ込めたような蒼金色。
狼が立つ場所からは冷気が広がり、
床が薄く凍りついていく。
「……できた」
思わず安堵の息が漏れた。
周囲は、ただ息を呑んでいる。
「……これは、一体……」
玉座から立ち上がった国王陛下が、目を見開いたまま問いかける。
「光と水の魔力を基に生み出しました。
精霊獣……のようなものです」
「精霊獣……」
誰かが呆然と呟く。
「このような存在、聞いたこともないぞ……」
場にざわめきが広がっていく。
レオンハルト様も、驚いたように目を見開いていた。
「恩猫様……以前から、このようなものを?」
「いえ。以前は属性魔法だけで形を作っていただけでした。
自我はなく、私が操作しなければ動かなかったんです」
そう答えながら、私は精霊獣へ視線を向ける。
すると、狼は私の意図を汲み取ったように静かに歩き出した。
氷の足場を空中へ作りながら、
宙を駆け上がっていく。
ある程度の高さまで辿り着いた瞬間――
狼は高く遠吠えを響かせた。
同時に、氷の華がふわりと空へ舞い上がる。
無数の花弁が光を反射し、
幻想的な輝きを放ちながら謁見の間へ降り注いだ。
思わず見惚れるような静寂。
そして次の瞬間、小さく感嘆の声が漏れ始める。
精霊獣は静かに地へ降り立つと、
こちらへ歩み寄り、私の前に座った。
「この子には、自我があります。
自ら考え、行動します」
私は狼の鼻先へ、そっと前足を触れさせる。
淡い光が流れ込み、
精霊獣は心地よさそうに目を細めた。
「ただし、維持には定期的な魔力供給が必要です」
国王陛下が、ゆっくりこちらへ歩み寄ってくる。
私は慌てて頭を下げようとしたが、
「そのままでよい」
静かな声に制される。
顔を上げれば、すぐ目の前に国王陛下が立っていた。
「恩猫様。あなたの力、しかと見届けた」
真っ直ぐに向けられる琥珀の瞳。
「私は、その力を本物と認めよう」
その言葉に、思わず目を見開く。
「皆も異論はないな?」
周囲を見渡す国王陛下。
反対の声は上がらなかった。
代わりに、静かな拍手が広がっていく。
認められた――。
張り詰めていたものが少しだけ緩み、
私はほっと息を吐いた。
「良かったな」
レオンハルト様の低い声に、
自然と口元が緩む。
――その時だった。
パン、パン、と。
一際大きな拍手が響く。
「……素晴らしいですね」
ローゼンフェルト伯爵だった。
柔和な笑みを浮かべながら、
細めた瞳で精霊獣を見つめている。
「実に興味深い。
この“精霊獣”という存在は」
その視線が、ゆっくり私へ向けられた。
「これは、他者にも使役できるのでしょうか?」
その瞬間。
背筋を冷たいものが走った。
――この人は、力の価値を測っている。
私は警戒を隠さぬまま答える。
「この子は、私のみが使役できます。
また、私の力で生み出せるものは、防衛や捕縛を目的としたもののみです。
攻撃や殺生を行うことはできません」
本当は、他者の魔力を使えば別の形も可能かもしれない。
けれど、それを口にするつもりはなかった。
「なるほど……」
伯爵は微笑む。
「制限があるとはいえ、十分過ぎるほど有用な力ですね。
娘が動物を欲しがっておりましてね。贈れば喜ぶかと思ったのですが……残念です」
軽い冗談のように聞こえる。
だが、その奥には明確な打算が見え隠れしていた。
――この人は危険だ。
直感的にそう思った。




