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盾にされた私、異世界ではただの猫です  作者: 蛇目菊 欲狐
第2章
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2-守鈴の音

時は、ヴェイルガストとの戦いの後へと遡る。


気が付くと私は、辺境伯家の屋敷の一室にいた。


ぼんやりと身体を起こす。


視界に入ったのは、見慣れた黒い毛並みの手。


――猫の姿に、戻っていた。


「……あれ……?」


戸惑っていると、近くにいた使用人さんが目を見開き、慌てて部屋を飛び出していく。


「恩猫様がお目覚めになられました!!」


その声を聞いた直後。


勢いよく扉が開かれた。


「良かった……目を覚ましたのですね……!」


「セラフィーネ様……!」


ほっとした表情を浮かべるセラフィーネ様。


続いて――


「恩猫様っ!!」


飛び込んできたアンネリーゼに、そのまま抱き上げられる。


「わっ……!?」


「良かった……本当に、良かったです……!」


泣きじゃくるアンネリーゼに、どう反応していいかわからず、思わず挙動不審になる。


その後ろからやってきたレオンハルト様たちも、私が言葉を話していることに驚く様子はなかった。


ただ皆、安堵したように笑っていた。


危険を冒して戦場へ向かったことを叱られもしたけれど、それ以上に――心配してくれていたのだと分かって、胸が温かくなる。


やがて場が落ち着くと、レオンハルト様が改まった様子でこちらへ向き直った。


「改めて……我々を、そして領地を救ってくださり、ありがとうございました」


静かに頭を下げる。


「恩猫様には、救われてばかりです」


「い、いえ……そんな……」


「謙遜しなくていい」


真っ直ぐな声だった。


「あなたは、この領地に多くのものを与えてくださった。

皆、心から感謝している。どうか、それを受け取ってほしい」


そう言われると、慣れていない私はどう返せばいいかわからなくなる。


「……わかり、ました」


照れ隠しのように咳払いをして、私は話題を変える。


「……ところで、あの後はどうなったんですか?」


「ああ、その話をしよう」


レオンハルト様は頷き、静かに語り始めた。



皆を救った後、私はその場で意識を失い、五日間眠り続けていたらしい。


倒れた私に皆が駆け寄ったものの、不思議なことに地面へ落ちることはなく、何かに包まれるようにゆっくり横たわったという。


そして――


“チリン”


鈴の音が鳴った次の瞬間。


私は猫の姿へ戻っていた。


そのままレオンハルト様が私を抱え、屋敷へ連れ帰ってくれたらしい。


街の被害も、まるで最初から何もなかったかのように元通りになっていたそうだ。


騎士や冒険者たちの無事な帰還に、街は歓声に包まれた。


……だが。


「『猫様は!?』『恩猫様はご無事なのか!?』と、皆さん大騒ぎでしたのよ?」


苦笑しながら話すセラフィーネ様。


どうやら、私が教会を飛び出していく姿を、多くの人が見ていたらしい。


その後、屋敷には大量のお見舞い品まで届いたとか。


「色々と大変でしたわ」


「うっ……すみません……」


申し訳なさに耳が寝る。


けれど、話を聞きながら私は別のことが気になっていた。


――私は、なぜ猫に戻れたのだろう。


『変身』の能力は失ったはず。


疑問に思った、その時。


“チリン”


首元で、小さく鈴が鳴った。


視線を向ける。


そこにあったのは、あの白い空間で渡された鈴。


……いや。


正確には、“返された”ものだった。


「……これ……」


前の世界で、私が持っていた鈴。


世界眼を使う。


すると、その鈴の情報が流れ込んできた。



守鈴しゅれい


加護能力:

『守護』『変化』


使用者に危険が迫った際、自動で結界を展開。

状況に応じ、姿を変化させる。


使用者限定:志乃鈴


“愛し子が、穏やかに生きられるように”


強い願いが込められた守護の鈴。



「……愛し子……」


ぽつりと呟く。


どうして、そこまで大切にしてくれるのだろう。


気に入られる理由なんて、私には思い当たらないのに。


「大丈夫ですか? 恩猫様」


声を掛けられ、はっと顔を上げる。


そこには、心配そうにこちらを見るレオンハルト様がいた。


「あ……大丈夫です。

ご心配をおかけして、すみません」


「いや、それは構わないのだが……」


どこか言い淀むレオンハルト様に代わり、ローガン団長が口を開いた。


「あの時、仰っていましたよね」


静かな声。


「私たちを、“家族”だと」


「……っ」


「あの言葉を聞けて、私は嬉しかった」


ローガン団長は穏やかに笑う。


「レオンハルト様も、私たちも。

皆、貴方を家族や仲間だと思っています」


「あなたは、ずっと私たちを助けてくださった。

ならば今度は、私たちが貴方を支えたい」


だから――


「困った時は、頼ってください」


その言葉に、胸の奥が熱くなる。


迷惑を掛けてはいけない。


大切な場所だからこそ、そう思っていた。


……でも。


違った。


頼っても、いいのだ。


この人たちは、受け止めてくれる。


そう思えた。


「……それなら」


少しだけ、勇気を出す。


「私の話を……聞いてくれますか?」


皆が静かに頷く。


私は、小さく息を吸った。


「――私が、この世界へ来る前の話を」


そうして私は、転移した時の事を語り始めた。

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