閑話-観測者は嗤う
【???視点】
「……ヴェイルガストが、消された……?」
森の奥地。
本来ならば――
生み出した災厄が、森もろとも領地を蹂躙し、
絶望に染め上げる光景が広がっているはずだった。
だが、現実は違う。
荒れ果てた大地は再生し。
穢れは消え。
崩れたはずの均衡すら、何事もなかったかのように戻っている。
「……はは」
喉の奥で、笑いが漏れる。
「これは……予想外ですねぇ」
残念だ、と口では言いながら――
その表情に浮かぶのは、明らかな愉悦。
「折角、生み出した“子”だったのですが……」
肩を竦める。
だが、その程度の損失などどうでもいい。
今、目の前にある“現象”の方が、遥かに価値がある。
「……あの光」
脳裏に焼き付いている。
すべてを塗り替えた、あの白。
そして――
「猫が、人に変わる、ですか」
街で見かけた時は、ただの異質な存在だと思った。
少し珍しい。
それだけの認識だった。
「見誤りましたねぇ……」
くつくつと笑う。
自嘲ですら、愉しんでいるように。
「ですが――だからこそ、面白い」
あれは、ただの存在ではない。
力の質が違う。
「……世界を書き換える側の力」
ゆっくりと、目を細める。
「神に連なる存在……あるいは、それに至る“器”」
断定はしない。
だが、確信はある。
あれは――
この世界の“理”に干渉している。
「欲しいですねぇ……」
ぽつりと零す。
熱を帯びた声音。
「是非とも、手に入れたい」
破壊ではない。
支配でもない。
もっと純粋で、歪んだ欲求。
「“あれ”さえあれば――我らは、一歩先へ進める」
黒髪。
金の瞳。
そして、あの力。
すべてを、鮮明に記憶に刻み込む。
「……さて」
踵を返す。
「帰りましょうか」
この失敗も。
あの情報があれば、問題にはならない。
むしろ――
「褒められるかもしれませんねぇ?」
薄く、笑う。
思い浮かべるのは、“主”。
「あの方も……きっと、気に入る」
そして、ふと。
愉しげに空を見上げる。
「またお会いしましょう――」
細められた目が、細く歪む。
「神に選ばれし少女よ」
その姿は、音もなく霧のように消えた。
向かう先はただ一つ。
――主の元へ。
いつもお読みくださり、誠にありがとうございます。
この話で第1章の幕閉じとさせていただきます。
次話から、第2章となります。
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