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盾にされた私、異世界ではただの猫です  作者: 蛇目菊 欲狐
第1章
46/72

39-届いていたもの

この世界で、初めて泣いたあの日以降。


セラフィーネ様の計らいにより――

「恩猫様には無闇に触れぬこと。願い事は辺境伯家を通すこと」

というお触れが、街に出された。


そのおかげで、以前のように人に囲まれることはなくなった。


時折、話しかけられたり、撫でてもよいかと尋ねられることはあるが、

それも随分と落ち着いてきている。


街を歩けば、皆が笑顔で挨拶をしてくれる。


「お!猫様じゃないか!先日はありがとうな!」


「ねこしゃん!こんちはー!」


「猫様!お疲れ様です!また近いうち、魔法石の魔力補充頼むっす!」


あちこちから飛んでくる声に、しっぽを揺らして応える。


――今日も、平和だな……。


そう思った、その時。


ふと、冒険者たちの往来がやけに多いことに気づいた。


……何かあったのだろうか。


「……最近、魔物が増えている。

その討伐のため、冒険者を募っている」


隣にいたエルリックさんが、私の疑問を察したのか、静かに教えてくれる。


……魔物が増えた。


この領地に来てから、森へ足を踏み入れることはなかった。

一人でいた頃は見たこともなかった存在。


けれど――

あの時、初めて目にした魔物は、禍々しく、恐ろしいものだった。


それが増えているということは――

この領地にも、危険が迫っているということだ。


……私にも、何かできることがあれば――。


「……恩猫様は、既に多くを支援している」


またしても思考を読まれたように、エルリックさんが口を開く。


……そんなに分かりやすいのだろうか。


「……着いてくる」


短くそう言って歩き出すエルリックさんの背を、慌てて追いかけた。


辿り着いたのは、賑わいを見せる冒険者ギルド。


騒ぎにならないよう、影魔法でそっと姿を溶け込ませ、中へ入る。


中は、以前よりも人で溢れていた。


思わず立ち止まる。


「いやぁ、魔物をいくら討伐しても、どんどん湧いてきやがる」


「だな……さすがに疲れるぜ」


冒険者たちの会話に、自然と耳が向く。


ふと見ると、エルリックさんが壁際から手招きしていた。


近づくと、ひょいと抱え上げられ、そのまま肩へ乗せられる。


視界が高くなる。


先ほどよりも、声も、表情も、はっきりと見えるようになった。


「でもよ、魔法石とか物資がちゃんと補充されてるのは助かるよな」


「ああ。普通ならとっくに枯渇しててもおかしくねぇのに……どっから来てんだ?」


「聞いた話じゃ、『恩猫様』って存在が融通してくれてるらしいぞ」


――その言葉に、どきりとする。


「なんだそれ?」


「よく分からんが、猫の姿で奇跡を起こす存在だとか何とかでな」


「この物資もそうだし、毒に侵された子供を救ったとか……

領主様の奥方の病気まで治したって話だぜ?」


――そこまで広まってるの!?


驚きのあまり、思わずバランスを崩しかける。

けれど、エルリックさんがすぐに支えてくれ、落ちることはなかった。


「まじかよ、すげぇなそれ」


「それだけじゃねぇ。ここの騎士団、他の領地の連中より剣も強ぇし、魔法まで使いこなしてるんだぞ」


「ああ。この前一緒に戦ったが、見たことねぇ魔法の使い方しててな。

聞いたら『恩猫様に教わった』って言ってたぜ」


……恥ずかしい。


あまりにも語られていて、思わず前足で顔を覆う。


「なんつーか、本当か疑いたくなるくらいだな……」


「でもよ、街の人も騎士も、誰に聞いてもその話が出てくるんだ。

たぶん本当なんだろ」


「だな……おかげで、無理せず戦えてる。助かってるよ」


彼らが穏やかな表情で語る。

ーーその言葉に、嘘はなかった。


静かに、胸の奥へと染み込んでいく。


私のしたことは、無駄ではなかった。


押し付けがましかったのではないかと、後から悩んだこともあったけれど――


ちゃんと、誰かの役に立っていた。


それが、素直に嬉しかった。


そんな私の様子を見ていたエルリックさんは――


どこか、満足げに目を細めていた。


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