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盾にされた私、異世界ではただの猫です  作者: 蛇目菊 欲狐
第1章
44/72

38-家族とよばれた日

屋敷へ戻り、手土産を使用人に預けて一息つこうとした――その時。


「――街で、何をしてきたのかしら?」


ぴたり、と足が止まる。


セラフィーネ様が、静かに立っていた。


その笑みは柔らかい。

けれど、確実に逃げ場はない。


「やっべ……セラフィーネ様、完全にキレてるじゃねぇか……」


ブラムさんが後ずさる。

マティアスさんは苦笑しながら目を逸らした。


「応接室で、ゆっくり聞かせてもらいましょうか。――洗いざらいね?」


その一言で、全てが決まった。


逃げようとしたカトレアさんも捕まり、私たちは揃って連行される。


――解放されたのは、数時間後のことだった。


正確には。


一時間ほどの説教の後、ブラムさんとマティアスさんは解放されたが――


「恩猫様は、残ってくださいね?」


……嫌な予感しかしない。


身構えて待っていた、その先にあったのは。


「恩猫様?お加減はいかがですか?」


――セラフィーネ様との、入浴だった。


なぜこうなったのか理解が追いつかないまま湯に浸かっていると、彼女が静かに口を開く。


「恩猫様。あなたは――ご自身を大切にされていますか?」


……どういう意味だろう。


唐突な問いに、言葉を失う。


「あなたは、ご自身のことを後回しにしがちです。

訓練所での指導もそう。使用人を助けていたことも、聞いていますよ」


――やっぱり、知られてる。


確かに、困っている人を見かければ、つい手を貸していた。


「あなたは、その力を安易に使いすぎる。

それでは、いずれ利用され――使い潰されてしまいます」


その言葉に、はっと息を呑む。


怒っていた理由が、ようやく理解できた。


――この人は、私を案じてくれているのだ。


胸の奥が、じんわりと温かくなる。


こんなふうに心配されるのは、いつ以来だろう。


前の世界では――

ただ、足りない分を埋めるように働き続けるだけだったのに。


「……もっとも」


セラフィーネ様は、少し困ったように微笑む。


「あなたは、ご自身を大切にするのが苦手なようですから――

その分、私たちが守りましょう」


どうして、そこまで。


そう問うように見上げると、彼女は柔らかく微笑んだ。


「当たり前でしょう?

あなたは、もう――私たちの家族なのですから」


――その言葉が。


何よりも、深く心に刺さった。


『家族』


その響きが、胸の奥で何度も反響する。


こんなにも優しい人たちの中に、いていいのだろうか。


「ですから――あなたも、私たちのために。

どうか、ご自身を大切になさってください」


その言葉を聞いた瞬間。


堰を切ったように、涙が溢れた。


止めることなど、できなかった。


セラフィーネ様は、そんな私を優しく撫で続けていた。

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