閑話-湯にほどける恩猫様
ーーその日は珍しく、お風呂でお身体に触れることを許されました。
執事長より、セラフィーネ様の治療後でお疲れの恩猫様のお身体を解すため、
お風呂へお連れするよう指示がありました。
相当お疲れのご様子で、カトレア様から恩猫様をお預かりする際も、
抵抗も反応もなく、ただ静かに抱えられておりました。
この小さなお身体で、あの難航した病を完治させるなど……
どれほどのご負担だったのでしょうか。
「……今日は、洗わせていただけるかしら……」
恩猫様は、水を嫌がるわけでも、人に触れられることを拒むわけでもありません。
それなのに、なぜか“洗うこと”だけは、これまでお許しいただけなかったのです。
その理由を思いながら、お風呂場へ向かいました。
すでに仲間が用意してくれていた浅めの湯に、
そっと恩猫様を浸します。
お身体に、少しずつ湯をかけていく。
そして、恐る恐る触れてみると――
……あら?
いつもであれば、わずかに戸惑うような反応をされるのに、
今日はそれがありません。
仲間と顔を見合わせる。
――この機会を逃すわけにはいかない。
意を決して、そっと洗い始めました。
驚くほど、無抵抗。
それどころか――
どこか気持ちよさそうに、ふにゃりと表情を緩めていらっしゃる。
……可愛らしい。
胸の内で呟きながら、丁寧に洗い上げ、
お湯で流し終えると、再び湯へ。
湯に揺られながら、恩猫様は目をとろんと細めておられました。
「……可愛い」
思わず零れた声に、仲間たちも無言で頷き合います。
だって、仕方がないではありませんか。
いつもは魔法で身を清めてしまわれて、
こうしてお世話をさせていただく機会など、ほとんどなかったのです。
こんなにも無防備で、愛らしいお姿――
見たことがないのですから。
いつまでも見ていたくなる衝動を抑え、
のぼせてしまわれないよう、お風呂からお上げします。
名残惜しさを胸に、今度は乾かす作業へ。
タオルで水気を取り、魔法で乾燥をかける間も、
恩猫様はうつらうつらと、今にも眠ってしまいそうでした。
すべてを終え、寝台へお連れすると――
そのまま、ころりと丸くなり、眠りへ落ちていかれました。
「……本当に、先程まであのような奇跡を……?」
あの奇跡を起こした存在。
世界すら揺るがしかねない、小さな御方は――
今はただ、穏やかに眠る一匹の猫のようでした。
――そして翌日。
一人、恩猫様が身悶える姿があったとか、なかったとか……。




