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盾にされた私、異世界ではただの猫です  作者: 蛇目菊 欲狐
第1章
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閑話-守るべき奇跡

【セラフィーネ視点】


ーーそれは、美しくも、あまりに儚い光景でした。


数ヶ月前。

体調の異変に気付きながらも後回しにした結果、私はついに病に伏すこととなりました。


かつての私であれば、このような失態は犯さなかったでしょうに――。


そう悔やみながら治療を続けておりましたが、回復の兆しは見えず、むしろ病は静かに、しかし確実に悪化していきました。


処方された薬も、当初こそ効果を感じられたものの、今ではほとんど意味をなさず。

痛みは日を追うごとに増し、身体を蝕んでいきます。


カトレアの光魔法すら届かず、触れられるたびに、拒絶するかのように苦痛が増幅する。


――これは、病ではない。


そう悟った時には、すでに遅すぎました。


何か別の“異質なもの”が、私を内側から喰らい尽くそうとしている。

その感覚だけが、確かにあったのです。


魔法も使えず、身体も動かず。

ただ痛みに支配される中、それでもなお、私は抗い続けていました。


このまま朽ち果てることだけは、決して許せなかったから。


……カトレアやテオ、リーゼには心配をかけまいと、笑みを浮かべておりましたが――それすら、次第に困難になっていきました。


日に日に衰弱していく身体。

やがて、ほんの僅かに、諦めが胸をよぎり始めた頃。


――あの日、すべてが変わったのです。


激痛により目を覚ました私は、両隣にテオとカトレアの気配を感じていました。

声を発することすら困難な中、意識は朦朧と揺らいでいきます。


その時でした。


知らない気配が、すぐ傍に現れたのです。


何かが、私の腕に触れる。

細やかな、しかし確かな“処置”。


……何を、しているの……。


確認する余裕もなく、ただ痛みに耐えるしかありませんでした。


――けれど。


ふと、痛みが和らいだのです。


それに伴い、身体の力が、静かに抜けていく。


わずかな余裕を得て、私は薄く目を開きました。


カトレアとテオの、張り詰めた表情が見える。


けれど――それ以上に、私の視界を奪ったのは。


ーー黒髪の、少女の姿でした。


輪郭は曖昧で、まるで幻影のよう。

顔立ちは判然としない。


ただ、その口許だけが、確かに何かを紡いでいるように見えました。


私を励ましているのか。

それとも、祈っているのか。


彼女は一心に、私の治療に集中していました。


その姿に、胸が揺らぐ。


……この子も、苦しんでいるのではないかしら。


かつてのカトレアのように。

私を救おうとするがゆえに。


そう思った瞬間、意識は限界を迎え――


私は、彼女の姿を焼き付けるように、静かに目を閉じました。


――どれほどの時が経ったのでしょう。


次に意識を取り戻した時、私の身体は驚くほど軽くなっていました。


再び光魔法が施される。

しかし、あの激痛はない。


あるのは、わずかな痺れだけ。


そして。


――あの“気配”が、消えている。


完全に。


……治ったの……?


信じ難い現実に、私は息を呑みました。


それでも確かに、痛みはもう、どこにも存在しない。


生きられる。


その事実に、胸が満たされていきました。


ゆっくりと目を開く。


そこには、まだ――あの少女がいました。


彼女は、私が目覚めたことに気付いていない様子で。


そして。


その唇が、再び言葉を紡ぐ。


今度は――はっきりと、読み取れました。


『よかった』


それだけを残し。


彼女はふわりと微笑み、役目を終えたかのように、静かに消えていったのです。


しばし呆然とした後、私は彼女の姿を探しました。


けれどそこにあったのは――


黒髪と同じ色をした、一匹の猫。


私のすぐ傍で、静かに横たわっていました。


……誰にも見えていなかった。


だとすれば。


あの少女こそが、この子の本質。


そして彼女は――


他者を救うためなら、自らを削ることすら厭わない存在。


神に連なるものと呼ぶには、あまりにも儚く。


それでいて、あまりにも尊い。


けれど私には――


ただの、小さな少女にしか見えなかった。


だからこそ。


私は、この子を守りたい。


これ以上、自らを削らせぬように。


静かに抱き上げ、膝の上へ。


壊れ物を扱うように撫でながら、私は心に誓いました。


――この子は、私が守ると。


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