34-過保護と、秘密の境界線
後日。
セラフィーネ様は順調に回復し、今ではカトレアさんを伴って、屋敷の庭を散策される姿も見られるようになった。
カトレアさんもまた、専属治癒士としての役目を一度離れ、第1騎士団の任務へと復帰している。
そして――もう一つ。
私にも、変化があった。
⸻
「恩猫様。そろそろ休憩を」
訓練所。
騎士たちに魔法を教えていると、決まって声をかけられる。
以前なら、止められることなどなかったのに。
どうやら――
私がセラフィーネ様の治療後に倒れた件が、騎士団内で共有されてしまったらしい。
そのせいか、皆やたらと気を遣ってくる。
……ちょっと過保護じゃない?
そう思わなくもない。
けれど。
この中でも、群を抜いているのが――
⸻
「恩猫様、無理をなさっていませんか?」
ふわり、と身体が持ち上がる。
見上げると。
「やはり少しお疲れのように見えます」
セラフィーネ様だった。
……そう。
一番過保護なのは、この方だ。
私が訓練所に来ると、かなりの確率で顔を出される。
助けたから、という理由にしては――
ちょっと、度が過ぎてない……?
じっと見つめていると、くすりと笑われた。
「不思議そうなお顔ですね、恩猫様」
「ですが、また倒れられては……この場が大騒ぎになりますよ?」
ーーうっ。
それは、確かに。
ここにいる人たちは、私のことを――
ただの猫ではなく、仲間として扱ってくれている。
だからこそ、倒れれば騒ぎになる。
そう思うと、少しだけ納得してしまった。
むぅ、と頬を膨らませる私に。
セラフィーネ様が、そっと声を潜める。
「……それに」
「使い過ぎれば、“隠しているもの”が解けてしまいますよ」
⸻
ぴたり、と動きが止まる。
……え?
ゆっくり顔を上げる。
…それは――。
思考が追いつかない。
まさか。
見えて、いたの?
人の姿。
隠していたはずの、それが。
ちゃんと維持してたはずなのに……。
魔法を重ねすぎたことで、干渉が起きた?
思考が追いつかない。
動揺がそのまま顔に出ていたのだろう。
セラフィーネ様は、安心させるように、優しく撫でながら言った。
「大丈夫です」
「見えているのは、私だけです」
「それも――治療の時に、ほんのわずか。輪郭が、揺らいで見えた程度」
穏やかな微笑み。
……良かった。
胸を撫で下ろす。
もし他の人に見られていたら。
今の関係も、この居場所も――
崩れていたかもしれない。
⸻
「……怖がらなくても、皆受け入れると思いますが」
ぽつり、と小さな声。
ーーえ?今なんて…?
そう思って見つめるも、セラフィーネ様はただ曖昧に微笑むだけだった。
⸻
……でも。
やっぱり、気をつけないと。
魔法の“使い過ぎ”なんて感覚、正直よく分からない。
どうしよう……。
半日で区切る?
でも、そうすると残りの時間は――
⸻
「恩猫様」
不意に、別の声が割り込む。
「訓練所ばかりでは、飽きてしまわれるでしょう」
カトレアさんだった。
「たまには街へ出られてはいかがですか?」
……街。
そういえば。
最初に案内されて以来、ほとんど行っていない。
訓練所にばかり通っていたけれど――
ーー気分転換には、ちょうどいいかも。
魔法の使い過ぎも防げるし。
……よし。
今日は午後から、街に行ってみよう。
そう決めた瞬間。
少しだけ、心が弾んだ。




