33-温もりの中で知る価値
ふわり、と。
意識の奥で、何か温かいものに包まれている。
柔らかな感触が、ゆっくりと身体を撫でていく。
……お祖母様……?
幼い頃。
両親や兄姉にきつく当たられて、泣きそうになった時。
祖母はよく、こうして膝に乗せて、優しく撫でてくれた。
ーー懐かしいな……。
思わず、その温もりに擦り寄る。
びくり、と。
わずかに震えた気配。
けれど、その手は離れることなく、変わらず撫で続けてくれる。
一定のリズムで、優しく、包み込むように。
心地いい。
このまま、また眠ってしまいそうになる――その時。
……あれ?
ふと、違和感がよぎる。
お祖母様の手……こんなだったっけ……?
もっと、ごつごつしていて。
少し骨ばっていたような気がする。
……そもそも…。
ぼんやりした思考の奥で、何かが引っかかる。
ーー私……今、何してたんだっけ……。
大事なことを、忘れている気がする。
必死に、思い出そうとして――
「……恩猫様……?」
その声で、意識が一気に引き戻された。
⸻
――そうだ。
セラフィーネ様の治療。
穢れ。悪化した容態。
咄嗟に思いついた方法を、半ば無理やり試して――
ーーどうなったの!?
勢いよく飛び起きる。
無事? 間に合った?
慌てて周囲を見回そうとした、その時。
「あら、恩猫様。もうお目覚めですか?」
後ろから、柔らかく澄んだ声。
振り返る。
そこにいたのは――
セラフィーネ様だった。
⸻
……起きて、いらっしゃる。
顔色は穏やかで、呼吸も落ち着いている。
何より。
あの苦しげな様子は、もうどこにもなかった。
代わりにあるのは、優しい微笑み。
……成功、した……
穢れが消えたところまでは確認していた。
でも、ここまで回復しているなんて。
胸の奥から、じわりと何かが広がる。
ーー良かった……本当に……。
拙い知識と、不確かな方法。
それでも――
助けることができた。
その事実に、強く安堵する。
⸻
ふと、今の状況に気づく。
どうやら私は、セラフィーネ様の膝の上で眠っていたらしい。
ーーうわ……。
一気に恥ずかしさが込み上げる。
せめてものお詫びに――
そう思い、膝に乗ったまま、そっと治癒をかける。
体内に残る僅かな損傷を整える程度に。
「恩猫様! おやめください!」
突然、身体が持ち上げられる。
カトレアさんに抱き上げられ、そのまま胸元にしっかりと抱え込まれた。
「……あれほどの魔法を使われた直後なのです。これ以上はなりません」
真剣な声音。
ーーえ、でも……。
きょとんとして見上げるが、譲る気はないらしい。
⸻
「……恩猫様」
低く落ち着いた声。
振り向けば――
レオンハルト様が立っていた。
ーーえ!? いつの間に!?
慌てて体勢を整えようとするが、カトレアさんにしっかり固定されて動けない。
「構わない。そのままでいい」
静かな声。
「それに――」
一歩、近づく。
「私の妻を救ってくれた方に、形式を求めるつもりはない」
その言葉に、動きを止める。
見上げた先。
いつも厳しい印象のその目は、今は穏やかに細められていた。
⸻
「……ありがとう」
短く、しかしはっきりと。
「セラフィーネを救ってくれて」
胸の奥が、熱くなる。
……ああ
役に立てたんだ。
私なんかが。
この人たちの、大切な人を。
救えたんだ。
じわり、と涙が滲む。
慌てて顔を伏せる。
見られたくなくて。
その時。
「……ふっ」
小さな笑い声が聞こえた。
誰のものかは分からない。
でも。
周囲から向けられる視線は――どこまでも温かかった。




